~恩返し~

7話 旅人


「こちらカナデ機。異常ありません」


 周囲を闇が飲み込んでいる中での出撃となった、ヴァーミル王国防衛へ向け各々の機体を走らせる。

 

 スキンヘッドマッチョのライアンが率いる『第1部隊』のメンバーは。


 俺、ライアン、ケン、マイモ、リッキーが乗る『ウォーリアー』5機。

 ミラが乗る『クラッシャー』

 オール、カルカルが乗る『パッカー』2機。

 マルタ・ミルタが乗る『ジェミニ・ルベル』・『ジェミニ・カエルラ』


 10機のARMEDで編成された部隊だ。

 ウォーリアーはそれぞれ得意な戦闘方法に合わせたチューンになっていて、俺の遠距離装備から、ライアンの近接装備。陽気なラッパーのリッキーが乗る機体の両肩には大型のバルカン砲が装備されている。

 ケン、マイモが乗るウォーリアーは、アサルトライフルを装備した標準仕様だった。


 双子の兄のマルタが乗る『ジェミニ・ルベル』は、赤い装甲をしていて右腕には大型の3本の爪が着いたクローの様な武器を装備している。

 妹のミルタが乗る『ジェミニ・カエルラ』は、青い装甲を身に纏い、左腕にレールガンのような2つに分かれた銃身を持つ武器が装備されていた。

 対照的なデザインをした2機を眺めていると、双子から通信が入る。


「どうしたんだい? 僕らがARMEDに乗っているのが不思議なの?」


「子供だからって、ARMEDに乗れない! なんてことはないんだよ?」


 相変わらずマルタとミルタが交互に話してくる。


「いや、君たちが乗る機体って少し小さめなんだなと思ってさ。初めて見る機体だし興味が湧いたんだ」


 双子が乗る機体は、 NOPナイツ・オブ・プルガシオンには登場しない機体だった。

 この世界はゲームとは違うがARMEDを見るとどうしても同じ世界観で物を考えてしまう……


「そうなんだ! そしたら戦闘が始まったら驚くよー!」


「そうなんだよー! 楽しみにしててー!」


「あ、あぁ。分かった。そう言えばカインの部隊の方はどうなんだ?」


 一緒に移動している第2部隊の方へ、視線を向けながら話を変える。


「あー。彼の部隊は変なのばかりだよねー。彼のカリスマ性は異常だなって思うよ」


 やや、呆れながらマルタは答えてくれた。


「彼の部隊は機体のカラーリングを黒、赤、紫で統一してるし、いっつも生身での戦闘訓練もしてるよ」


「そうなのか……」


 ARMEDでの戦闘だけが好きなのではなく、白兵戦も好きとは完全に戦闘マニアだな……


『全員止まれ!! 前方に人影がある!! 状況確認後指示する。それまで待機だ!』


 今回の指揮を任されているライアンが、みんなへ通信を送ってきた。


「人影って、こんな時間にこんな場所で何者だ?」


 パーマをかけた頭髪が印象的なリッキーが話しかけてくる。

 この世界では、今の時期日が昇るのは7時過ぎくらいと、とても遅い。

 今の時間は5時33分。人が活動を始めるのには早すぎるのであった。


『メル!! 起きろ!! 神姫だ!! 他は全速力でヴァーミル王国へ進め!!』


「まじかよ……カナデ! 今回はさすがにふざけた真似はするんじゃねぇぞ!!」


 ドーーーン!!


 ライアンが向かった先から、大きな爆発音と衝撃波が辺りを包み込む。


 ドンっ!!

 

 俺の後ろの操縦席から、何かに頭をぶつけた音がした。


「おいメル……今は非常時だぞ。遊んでいないで目を覚ましてくれ」


「いててて……ヴァーミルに着いたら起こしてって言ったのに、まだ日も出てないじゃん!! 私の眠りの邪魔をするのは何処の誰じゃーい!」


 頭を擦りながら、寝間着姿のメルが現れた。いくら神姫だとは言え、無防備すぎるだろ……


「さーて! ちょっくら挨拶でもしてきますかね!! 装備展開! カナデ! 行ってくるねー!」


「おい! 待て! 相手がどんなヤツかも分からないのに1人で行くな!! って、もう行ってしまったか……」


 瞬く間に武装を展開しコックピットを開け空に飛び立っていったメル見ながら、俺が心配している事何て全く気にしていない事に落胆するのであった。



____________________



 「人が気持ちよく寝ていたのに…… 起こしたのがどこの誰だか確認しないとね!!」


 昨日早く寝たけど、早起きは苦手だなぁ……

 進んでいくと、前方が明るくなったり爆発音が聞こえてくる。

 どうやら戦闘になってるみたい。


 カナデの機体は一番後ろにいたみたいで、先頭までそれなりに距離はあったけど私のスピードならすぐに着くよ!


「メルはまだか!」


「メルティ・ノーザンライト! 到着しました!! って、この状況どうしたんですか……」


 私が着いた時には、カインの部隊のピエロ型ARMED『カーステッド』の残骸が4体も転がっていた。


「ウヒャアァァア!! 神姫様と戯れる事が出来るなんて光栄ですよーー!!」


 カインが叫びながら自らが乗る、般若型ARMED『羅刹』で日本刀型の武器を構え小さな人影へと突っ込んでいった。


「さっきから叫んでばかりで、味方をも巻き込んでおるぞ? そんな闘い方ではワタシには勝てんぞ!!」


 ん?なんか聞き覚えのある声……

 でも、見てみないと確認出来ないよね!


 聞いたことのある懐かしい声を確認するために、私はカインと神姫が戦う現場へと飛ぶ。


「全く、品の無い男よのぉ。攻撃は早くて鋭いがワタシを捉えるにはまだまだ遅い」


 羅刹の斬擊を紙一重で避けながらつぶやくと、その人の両腕に装備したガントレットから風が発生していく。


「どれ、少し本気を見せてやろう!!」


「神姫様の力!! 感じさせてくれぇぇぇぇ!!」


「師匠ーーー!! 止めてーー!!」


 だんだんと近づいてその人影の正体が分かった私は、闘いを止める為に叫んだ。


 しかし。


「メルか!! こいつにはお灸を据える必要があるようだ!! 1発くらい痛い目に合わせとく方が良いのじゃよ!!」


 師匠の周りに魔力が集まっていくのを肌で感じる……


 ヒュンッ!!


 その場につむじ風を残し、そこに居たはずの人影が見えなくなる。


 ドーーーンッ!!


 姿が見えなくなったそのすぐ後、轟音と共に『羅刹』が上空に打ち上げられる。


「はっや……」


 神姫わたしの眼でも捉えられるかどうかの、凄まじいスピードで連擊を入れていく。

 羅刹の装甲に凹凸が増えていき、突如上空から地面へと叩き落とされた。


 ドッカーーーンッ!!

 

 轟音と共に周りに砂煙を上げ羅刹の動きが止まる。


「ふぅ。これくらいやれば頭も治るであろう」


 師匠が「一仕事したー」みたいな顔をして、服の埃を叩きながらこちらへ歩いてくる。

 この人は、相変わらず強すぎるよ……。

 

「久しぶりじゃの。元気にしておったか?」


「はい! 先日神姫と戦いましたが、無事追い返せました!! でもまだまだ魔法の方のコントロールが苦手で……」


「そうか。また修業つけてやろうかの。所でこんな朝早くから何をしておるのだ? 子供が出歩くには、ちと早すぎる時間であろう」

 

「えっと……それは……そのーてへっ」


「それは、こちらから説明させていただきます」


 どう答えようか悩んでいたら、ライアンがウォーリアーから降り声を掛けてくれた。


「初めまして。エリアリウス共和国軍所属、特殊部隊第1部隊隊長、ライアン・ホークス大尉と申します。貴方様は、「さすらう神姫。カルメン・アルフォンス様」であらせられますでしょうか?」


「共和国軍の者であったか。そうじゃ、ワタシの名は、カルメン・アルフォンス。『ラファエル』を宿し神姫じゃ。メルとは昔に稽古をつけてやった間柄じゃ」


 どう説明しようか悩んでいたけど、私が話すより先に師匠が説明してくれた。

 師匠はけっこうサバサバしてて私は師匠の事がすきなの。

 師匠の見た目は、身長175㌢くらいでこむぎ色の肌をしてて、瞳はエメラルドグリーンをしててとっても綺麗なんだよ。

 髪は腰くらいある茶髪を後ろで縛ってて、お馬さんみたいな感じになってるのです。


 神姫なんだけど、師匠はフル装備を展開して戦ってるのは見たことないんだよね。

 いつも両腕と両足にガントレットだけを装備して戦ってるんだ。


「そうなんだよ! 師匠は私の師匠なのです!! 魔法の使い方も上手で色々教えてくれたんだー!」


「久しぶりの再会喜ばしい限りです。メルと仲がよいとの事なのですが、よろしければ我らと同行していただけませんでしょうか?

 これから帝国からの脅威からヴァーミル王国を護る役目を果たすため、向かっている途中なのです。神姫様が2人いてくれたら、速やかに民の平和を取り戻す事が出来る事かと」


 ライアンの独断で決めちゃっていいのかな……

 疑問に思うけど、師匠と一緒なら百人力だし……


「いいだろう。特に今は何もしていなかったしな。報酬は特にはいらん」


「よろしいのでしょうか? 帝国にも神姫はおります。激戦になるのは必須かと」


「構わんよ。こうしてメルと逢えたのも嬉しい事じゃ。ワタシの力存分に扱うがよい」


 さすが師匠! この世界の誰よりも優しいよね!

 

「やったー! 師匠と一緒に戦えるんだね! 楽しみだなー!」


「協力ありがとうございます。では、戦地へ赴きましょう」


 師匠との任務にわくわくしながら、ヴァーミル王国へと進む事になった私たち。

 そこで何が待ち受けているのか。師匠と話しながら進む私には不安など無く、他のみんなも神姫が2人いることで楽勝ムードが漂っていたのであった。

 

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