04 救出作戦開始

 ぷおーーーー!


 浜辺に低くこもった笛の音が響き渡る。人の頭ほどもある巻き貝で作られた笛の音だ。同時に小型の太鼓をバンバン叩く音がする。


「タコ焼き合戦、始まるよーっ!」


 宿屋の娘のモモが仁王立ちで宣言した。

 天気は晴れ。良いタコ焼き合戦日和だ。

 浜辺に集まった人々は老若男女、世代も性別もばらばらで、泳ぎやすい軽装をしていた。水着が発達している世界ではないので、男性はパンツ一丁、女性は水に濡れても良い服装が多く色気とは無縁だ。

 そんな中で飛び入り参加したソラリアとアニスは注目を集めていた。

 日焼けした人が多い中で、彼女は一人だけ透けるような白い肌にバランスの良いプロポーションをしている。隣のアニスも綺麗な肌で、小柄ながら引き締まった身体に可愛らしい雰囲気が魅力的だ。


「ルールを説明します! 合戦なのでチームを組んでタコを集めます。自信がある方は一人参加も可です。今日の日没までに一番多くタコを集めたチームが優勝! 皆、頑張ろう!」

「おうう!」


 男達は先に尖った石が付いた棒、もりを掲げて応える。

 それを見たソラリアは舌打ちする。


「聖剣を取ってくるんでした。タコを取るのに武器が必要とは」

「……なんでタコ取るのに剣を使うんだよ」


 彼女の後悔に低い声で突っ込みを入れたのは、赤毛の男、スサノオだった。どうやら彼も参加するらしい。


「優勝して、あの頃の俺とは違うとモモに教えてやる……!」

「むしろ幼い頃と変わらないと印象付けそうな気もしますが」


 メラメラ闘志を燃やすスサノオに、ソラリアは呆れ半分にコメントしたが彼は聞いていなかった。

 スサノオは単独で参加するらしい。

 特に拘りもないソラリアとアニスは、もちろん二人でチームを組んで参加するつもりだ。

 波打ち際で軽く屈伸してストレッチするソラリアとアニスの後ろで、羊のメリーさんが鳴く。


「メエー(たくさんタコを取って羊に食べさせて下さい)」

「メリーさん、リヒトのところに行かなくて良いの?」

「メエメエ(こっちの方が美味しそうだから)」


 いつもリヒトにくっついているのに、とアニスが不思議そうにする。

 どうやらメリーさんは、タコ焼き合戦のタコがお気に召したようだ。泳げないメリーさんは、浜辺で自主的にスタンバイしてタコを食べる気満々だった。


「用意は良いかなー? それじゃ、始め!」


 空に腕を振り上げて合図をするモモ。

 ソラリアとアニスは、勢いを付けて海水に飛び込んで行った。




 タコ焼き合戦は参加者以外にも、応援や見物客が大勢いる。

 海際の街はタコ焼き合戦に皆出払ってしまって静かになっていた。

 リヒトは協力してくれるというカルマと共に、天魔のスキルを使って連れ去られた幼馴染みの行方を追っていた。


「確かこの辺りに……あいつは魔王信者の?!」


 港付近の路地で、猿ぐつわで拘束された少年を背負った仮面の男と、袖の長い服を着た銀の髪の女を見つけて、リヒト達は急いで物陰に身を潜めた。


「あの女の人、生きていたのか」


 倒したはずのサザンカの姿を見て、リヒトは驚く。

 一方、カルマの方も自分が倒したサザンカが平然としているのを見て、思うところがあったらしい。


「……リヒト、あの女は俺に任せろ」

「カルマ?」


 腕を上げてリヒトを制すると、カルマは自分だけ物陰から出て彼らに近付いた。少年を連れて歩き去ろうとしていた二人は足を止める。


「おや、あなたは確か幽霊屋敷の不健康な主」

「女……よくも俺の家族を滅茶苦茶にしてくれたな」


 サザンカはカルマを見て意外そうにする。

 悪気の欠片もなさそうな彼女を、カルマは敵意を隠そうとせずに睨み付けた。


「お前さえ現れなければ、セバスチャンはあんな姿にならなかった……!」


 幽霊屋敷の元凶はカルマ自身の天魔であるし、きっかけになったのは実はリヒト達なのだが、無粋な訪問の仕方で平穏を乱す直接のきっかけとなったサザンカを、カルマは許せないらしい。


「何のことだかさっぱり分かりませんが、喧嘩を売っているのですね? 相手になろうじゃありませんか!」


 サザンカは立ち止まってカルマと睨みあう。

 その間に、レイルを背負った方の男は歩みを再開して、タコ焼き合戦をしているのと逆の方向の浜辺へ向かおうとしていた。

 リヒトはタイミングを計って、物陰から走り出る。カルマが敵の片方を足止めしてくれている内に、レイルをさらった男を追いかけたい。


「あっ、我が君?!」

「お前の相手は、この俺だ!」


 リヒトに気付いたサザンカが声を上げるが、カルマが踏み出してその視線を遮る。リヒトは瞳の色を変えずに天魔の力を使って脚力を補強すると、かなりの速度で進む仮面の男の背中を目指し、一直線に港を走り出た。



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