02 骨には骨の事情がある

 雨宿りのため、館に侵入したリヒト達を出迎えたのは、執事セバスチャンを名乗る骸骨だった。

 さらに館の主だという白い髪に赤い瞳の青年が「骨になりたくなかったら出ていけ」と脅す。しかしリヒトは平然と「服が乾くまではここにいます」と宣言するのだった。


「メエエ(せめて草を食べ終えるまでいさせて)」

「そうだよ、羊さんも骨になりたくないと言っていることだし」

「メエー(違うって)」


 羊と飼い主の意味の通じていないやり取りを聞いた、館の主の眉間にシワが寄る。彼はカルマという名前らしい。

 カルマが口を開く前に、話を進めたのは骸骨のセバスチャンだった。


「そうですな! 例え最後は骨になるとしても、こんな雷雨の中に旅人を放り出すのは余りに無情!」

「セバスチャン」

「服が乾くまでと言わず、雨が止むまで逗留していってください。さあ、客室に案内しましょう!」

「おい!」


 勝手に客を持てなす執事に、カルマが焦ったような顔をする。険のある目付きの青年だが、そうして不安そうな表情をすると年相応の幼さが伺えた。


「どうぞどうぞ。このような幽霊屋敷ですが寛いでいってください」

「くそっ、勝手にしろ!」


 青年は悪態を付くと、身を翻して二階の奥へ去っていった。

 リヒト達は話の成り行きに困惑したが、相手が骸骨だろうと何だろうと、柔らかいベッドで寝られる機会を逃したくなかったので世話になることにする。

 セバスチャンの案内で一階にある部屋にそれぞれ案内される。

 女の子二人は同室で、彼女達とは別にリヒトと羊はセットで個室を割り当てられた。


「……僕に何か話があるのか?」


 セバスチャンはリヒトを部屋に導くと、後ろ手に部屋のドアを閉めた。骸骨と二人きり(羊のメリーさんもいるが)の状態に、リヒトは緊張する。


「坊っちゃんは不思議ですな。私達を怖がっている様子がない」

「突然、襲ってきたりしなければ怖くないよ。あ、無言で部屋の隅に立たれたりしたら逆に怖いかもしれない」


 フレンドリーな骸骨には恐怖を感じないリヒトだった。

 そんなリヒトの様子を観察したセバスチャンは、話を切り出す。


「想像を上回る図太さを持つ坊っちゃんにお願いがあります。カルマ様を、外の世界に連れ出してやってくれませんかな」

「どういうこと?」

「先ほど、なぜ骸骨がしゃべるようになったのか、聞きたそうにしておられましたな。その理由をお話しましょう。そして、私の話に何か感じるものがあれば、私の願いを叶えて欲しいのです」


 リヒトは話が長くなりそうだと察して、湯タンポ代わりに羊のメリーさんを抱き抱えるとベッドに腰かける。

 聞く態勢が整ったのを見てセバスチャンは説明を始めた。


「……この村は昔、さる貴族の別荘地でした。農業国アントイータから海際の国バブーンに農作物を運ぶ道の途中ですので、一時は大層繁栄しておりました。その頃は、生きた人々が暮らしていたのです」


 バブーンは、海に行く予定のリヒト達の目的地だ。

 外国と船が行き交う港があるらしい。


「ですが数年前に奇妙な流行り病が起こり、村人は逃げ出して残った者は苦しみました。全身に赤い斑点が現れて高熱が出るのですが、中々死なないのです。苦しみの時間が長く続き、私達は頼むから殺してくれと、そう神に願いました」


 そういえば骸骨のどこから声が出ているのだろう。

 リヒトは今更ながら気になったが、話の腰を折ってはいけないので黙って耳を傾ける。


「神は願いを聞き届けました。当時は子供だったカルマ様に、天魔の力を与えるという形で。カルマ様は殺して欲しいと願った私達を楽にしてくださったのです。しかし、どういう訳か天魔の副作用で、私達は死んだ後もこうして生き続けることになりました」

「あいつ、天魔の力を持ってるのか」

「さようです。私達を魔物の一種、スケルトンにしてしまったことで、カルマ様は気に病まれて、自分を責めています。あげくの果てに、絵本で読んだ死霊魔術師ネクロマンサーだと自分で自分をおとしめて、館にこもって外に出ないようになりました」


 この世界の魔術は、魔術と呼ばれていても実際は天魔のスキルの1つである。死霊魔術という魔術の種類は存在しない。

 どうやらカルマ青年は本の読みすぎで物語の住人になってしまっているようだ。


「それって、引きこもりじゃないか」

「その通りです! 私達は骸骨ライフをそれなりにエンジョイしているので、気にせずにカルマ様には自分の人生を歩んで欲しいのですが。妙に真面目な方でしてな」


 引きこもりを外に出して欲しい。

 そうセバスチャンはリヒトに頼んだ。

 リヒトは人差し指で頬をかく。


「……本人にやる気が無いなら、無理じゃないかな」

「そうおっしゃらずに! 恐怖や遠慮と無縁そうな坊っちゃんなら、その無神経さでカルマ様の心を解放してくださると、私は期待しているのです!」

「僕、馬鹿にされてる?」


 骸骨なので表情が分からないのだが、セバスチャンはどうやら笑っているらしい。


「ではどうぞよろしくお願いいたしますー!」

「あっ、僕は引き受けてないからね!」


 説明を終えたセバスチャンは、一方的にリヒトに願いを押し付けて部屋から出ていった。


「なんだかなあ」

「メエー(面白い骨だったね)」


 メリーさんを抱き抱えてリヒトは寝台に転がった。

 窓の外は暗くて雨が降り続いている。

 妙なことに巻き込まれたものだと思いながら、目をつぶった。雨の音が子守唄のようで、リヒトはすぐに眠りに誘われた。


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