不穏な影達

「へえ、あれが噂の王国騎士アルフレッドか。結構やるじゃん」

「カノン。あなた、私たちの目的忘れていないでしょうね?」

「わかってるよ。印持ちを探すんでしょ?けど折角参加するんだから楽しまなきゃね」

「あなたって子は......」


闘技大会が行われている闘技場の観客席内。

そんな会話をしている二人の女性がいた。

カノンと呼ばれた少女は緋色の髪をしたショートの女の子だ。

背は小さく齢にして14歳くらいだろうか。

もう一人は緋色の髪の少女とは真逆で背が高く、背中まで髪の毛が届きそうなほどの長い蒼色の髪が特徴的だ。


「私的にはアルフレッドより去年優勝したっていうハルトってやつに興味あるね」

「カノン」

「わかったってばあユキア。任務優先でしょ?というか印持ちって言ってもどこに印があるか分からないし探すの面倒だなあ」

「前にも言ったでしょう。右手の甲だけ見れば良いのよ。他の誓約だと右手以外に無作為に刻まれるのだから」

「それにしても本当に魂賭けてまで誓約をする奴がいる事に驚きだよ」

「この王都に間違いないわ。アヴァベルの誓約書が反応をしてるもの。だからこうして人の集まる場所で探しているんじゃない」

「私が選手を、ユキアが観客をって手分けしたのはいいけど、この人混みからその一人を探すのはきっついなー」

「まあ根気よくいきましょう。私たちのためにも」

「うん」

「あっやば!?私の試合もうすぐだ!行ってくるねユキア!」

「ちゃんと仕事もしなさいよ」

「わかってるー!」


カノンは人混みをスルリと潜り抜け、ユキアの視界から消えるまでにそう時間はかからなかった。

「さて、わたしも動きますか」


ユキアは呟きその場を後にした。







さてさて試合も順調に進み、残すところは準決勝と決勝のみ。

後一つ勝てばアルフレッドととの一騎打ちになる。

ここまで勝ち上がるのに互いにそこまで苦労することはなかったが、それでも連戦は堪える。

早く帰ってアイリとクリアバードの店で祝杯をあげたいものだ。


「さて僕の相手はあんたかな」


視界の先には赤髪の少年。

年は16くらいだろうか。

手には自分と同じく木剣。

何処と無く剣に扱い慣れている様子が見られる。


「前年度優勝者が相手とは俺も運がないな。どうせだったら決勝で倒したかったんだが」

「残念だね。準決勝でも決勝でも勝つのは僕だよ」


互いに剣を構える。

審判の試合開始の合図と共に距離を詰める。

とった。

アルフレッド程ではないがスピードには自信がある。

相手の首元で剣を寸止めをしようとしたのだが、剣先が首元で止まることはなかった。

躱されたのだ。

すかさず、追撃を繰り出す。

しかし、その剣筋を見切られ全て躱すかいなされた。


「何だ、王国騎士って言ってもこんなもんか」

「じゃあそろそろギアを上げるよ」


その挑発に乗ってやろう。

先程までは正確さ重視で剣を振るっていた。

というのも木でできた剣とっても当たればそれなりに痛いし、打ち所によっては死に至る。

だからこそ、喉元に剣先を突きつけ相手に降参させる方法で勝ち上がってきたが、この赤髪の少年にはそれが通じない。

ならば正確さを捨てて、実践に近い戦いをするしかない。


木剣を上から下に振り落とす。

少年の右肩付近を狙って斬りつけようとした。

当然それを防ぐべく、少年は斬撃を木剣で受け止めようとした。

通常であれば木剣と木剣がぶつかる音が響くはずだが、上から振り落とした剣先は下まで振り切れていた。

時間差で少年の持っている木剣が真ん中あたりで真っ二つに切れ、カランカランと音を立てながら地面に転がり落ちた。


「あーこりゃ降参。どういう手品だ全く」

審判が試合終了の合図をする。


「いや僕も驚いたよ。強いね君」

「いやいや、いい経験になったよ。俺の名はカイム」

「ハルトだ。君騎士団に入ったらどうだ?その腕っ節を活かせると思うけど」

「あー俺そういうのには興味ないんだよね。けどあんたとはまた会いそうだ」


そう言って退場口の方へ歩き出し、少年は背を向けながら手を振る。


「じゃあ敗者は大人しく去るよ。またなハルト」

「ああ」


「王国騎士ハルト・インクラートね。あいつ意外使えそうじゃんか」

カイムは去り際に何かを呟いたがなんと言っていたかは聞き取れなかった。


ともかくこれで次の決勝へ進むことができた。

次の試合で対戦相手が決まるがおそらくアルフレッドの勝利で間違いないだろう。

観客の方を向くと視界にアイリの姿が見えたので手を振る。

しかしアイリは手を振り返してはくれず、悲しみに暮れながら、その場を後にした。

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