流星の丘
「あー美味かった!マスター。今日も美味い飯をありがとう!」
手を合わせマスターに礼を言う。
食べ終わる頃にはちらほらと他の客もやってきた。
もう数十分する頃にはいつものように満席になってしまうし早く店を出よう。
「ハルト!夜は来るのか?」
「いや今日はいいや」
「了解」
大抵週に5日くらいはここで夕飯を食べる。
残り2日は王都の夜間警備があるので宿舎の厨房を使い自分で作って食べている。
「あの」
店を出ようとするとアイリはマスターの前で立ち止まった。
「ご馳走さまでした」
「おう、お粗末」
初めてアイリと会った時のことを思い出す。
忘れもしないあの雨の日。
氷のように冷たい眼差しをしていた彼女と比べると大分表情豊かになったものだ。
二人で店を出て、王都の街を歩き出す。
賑わっている露店街。
アイリの手を引き、人の波を潜り抜ける。
王都の端にある南門を出てすぐ側にある丘を登る。
流石に少し歩き疲れたのか。
アイリは息を荒つかせている。
「ここは?」
「流星の丘だよ。聞いたことない?」
「ええ、初めて来た」
流星の丘。
王都でも一部の人間しか知らない不思議スポット。
かくいう自分もここを知ったのは半年くらい前だ。
「ここは不思議な場所でね。昼でも流星を見る事が出来るんだ」
「流星なんてどこに....」
雲一つない青い空を指を指した。
アイリは空を見上げて流星を探す。
すると一筋の赤い光が一瞬で右から左に流れる。
それをきっかけに数多の赤い光が空を駆け巡る。
「凄い!」
「そうでしょ?」
アイリの様子を見ると喜んでくれているみたいだ。
けど本題はこれじゃない。
「一体何で真昼なのに流星が?」
「それがね。王都の研究者達も全く原因がわからないらしいんだ。世の中不思議な事だらけだよね」
恐らく僕が何を言いたいのかを察したのだろう。
朗らかな雰囲気から一転、空気が張り詰めた。
「現にアイリは僕より長く生きているのにこの丘の事を知らなかっただろ?」
「.....何が言いたいのですか?」
「人間がエルフより長く生きる方法だってあるかもしれないってことさ」
何かを考えているような様子のアイリ。
そんな彼女をみてふと思い出した事があった。
「そう言えばさ、エルフって外見は人間と変わらないんだね。アイリに合うまではてっきり耳が長いとか鼻が長いとか特徴があるのかと思ったよ」
「それは遠回しに馬鹿にしてるのですか?」
「いやいやいや、第一印象の話!馴れ初めって大切じゃないですか」
「私は今までにないくらい気持ちの悪い人間だと思いました」
「一応聞いてみるけどそれ僕の事?」
「他に誰がいるんですか?」
「はい!異議あり!結構ドラマチックだったと思います!」
「いきなり知りもしない人から結婚してくれなんて言われてみてください。気持ち悪すぎて鳥肌が立ちます」
「やばい、それは今日一で傷ついた」
大げさになく真似をする。
いやしかし傷ついたのは本当だ。
冷静に考えると本当に気持ち悪いが、衝動を抑えきれなかったんだ。
許してほしい。
「現実味がなさすぎるわ」
「うん。まだね」
アイリが呆れたようにため息を吐く。
「なんであなたってそんな前向きなんですか」
「後ろを向いたってしょうがないじゃないか。だったら僕は後ろより前を向きたいかな」
立ち上がり彼女に向けて手を差し出す。
「さあ、そろそろ家まで送るよ」
「まだお試しなんですから調子に乗らないでください」
アイリは差し出した手をサラリと無視し、自分の力で立ち上がり元来た道へ歩き出す。
行き場のない手をぶらぶらとさせがくりと頭を垂らし、彼女の後を追いかける。
王都の南門から東門向かう道のりは住宅街となっており、様々な種族の住民が住んでいる。
しかし、彼女はその逆側、自然地区となっている南門から西門へ向かう通りで暮らしている。
なんでもエルフは自然が近くにないと体調を崩しやすいとかなんとか。
彼女の家の前まで着く頃には日が傾き始めていた。
「また明日来るよ。おやすみアイリ」
「はいはい、また明日です」
こうして僕らの、お試しで付き合ってから初めてのデートは終わった。
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