クリアバードにて
「アイリ!今日休みなんだ。一緒にご飯でも食べにいかない?」
アイリとお試しで付き合い始めて次の日。
アイリと過ごしたいがために、騎士団長に無理を言って休みをもらった。
普通ならばこんな理由で騎士団を休むなんて許されないのだが、先日の任務の功績もあり、騎士団は「体を休めるといい」とだけ言い許可をくれたのだ。
しかし、当のアイリは不機嫌そうな顔をしている。
何故だろうか。
「どうしたのアイリ?」
「あなた、本当に大馬鹿じゃないですか」
いきなり罵られた。
「あなた、自分が何をしたのか分かっているんですか!?」
「何って言われても」
「本当にあんな誓約を立ててしまって!自殺も同然、いえ、それよりもタチが悪いです!」
昨日自分が立てた誓約。
ハルトはアイリよりも先に死なない。
この誓いを破ることがあれば、僕はきっと死ぬよりも酷い目に合うのだろう。
「なんだ、心配してくれるのかい?」
「ち、違います!あんな誓約、私があなたを殺してしまうようなものじゃないですか!」
「大丈夫だよ。何度でも言うけど僕は君より先に死なないよ」
「何でそんな風に....!」
「だって僕は天才だぜ?最年少で王国騎士の一員になった程の腕前と王都学院を首席で卒業出来た頭脳があるんだ。僕は君より長く生きる術を身につけるさ」
まるでバカをみるような冷たい目でアイリは見てくる。
「まあともかく、今は飯だ!良いところ知ってるんだ。行こう!」
「あっ!ちょっと!」
アイリの手を引いて歩き出す。
10分程歩き、クリアバードという店に着いた。
外見はボロ屋で薄汚さはあるが店の中に入ると嘘みたいに綺麗で清潔感があるのが特徴的だ。
「よお、マスター!」
「おう、昼時に来るなんて珍しいなハルト」
店に入るとガタイのいい強面の店主がカウンターの向こうに立っていた。
まだ店が開いてから間もないためまだ客が入っていないようだ。
しかしこの店、意外と常連が多く、ピーク時などは外に行列ができるほどの人気がある。
「ん?そっちのおじょうさんは?」
「ああ、紹介するよ。マイガールフレンドのアイリだ!」
「その紹介の仕方はやめて下さい!」
アイリは怒りながらもペコリと軽く頭を下げてマスターに挨拶をする。
「ガールフレンドってお前こんな綺麗な人と付き合ってんのか!?お前が!?」
「マスター、その言い方は流石に傷つく」
こんなに驚いた顔のマスターは久し振りに見た。
前見たのは僕が王国騎士の試験に受かった時だろうか。
「いや悪い悪い。俺はこのクリアバードの店主のリュドだ。アイリさん。こいつはお調子だが根は良いやつだ。見捨てないで面倒を見てやってくれ」
「はい、けどまだお試し.....」
「うおおおおおと!!マスター!いつものお願い!!」
「うるせえっての!わかったわかった!」
アイリのお試し期間という言葉を遮ってメニューを注文する。
「何ですか」
言葉を遮ったことにイラっときたのかアイリは少しばかり不機嫌な様子だ。
「私達まだお試しでお付き合いしているんですよね?」
「うん。だけど大丈夫。そのうちお試しは取れるから」
「ああ、別れるんですね」
「違うよ!?」
アイリさんそんなに別れたいのかな....
いやめげるな僕!
頑張ってアイリを振り向かせるんだ。
付き合ってるのに振る向かせるってなんか変な感じだけど。
そんなことを考えていると厨房からマスターが両手に料理を持って僕たちの席にやって来た。
「ほれお待たせ!クリアミートパイだ!」
「サンキューマスター!」
クリアバードのミートパイは王国一美味いと自分は思っている。
小さい頃からこの店には通っているが、どれだけ食べても飽きないというのは中々出来ないことだと思う。
「ここのミートパイは絶品だよ。あんなゴッツイ人間が作ってるとは思えないほどに」
「聞こえてるぞ!ハルトォ!」
「うっそ!地獄耳すぎるだろ!」
マスターとたわいない会話をしているとアイリがミートパイをジッと見つめていた。
それほどお腹が空いていたのだろうか。
それとももしかして。
「ミートパイは初めて?」
「ええ」
「ほら、口開けて?」
フナイフで切り分けフォークでパイの一片を刺し、アイリの口の前に運ぶ。
「じ、自分で食べれます!」
僕の手からフォークを奪い取り、パクリとミートパイを食べる。
するとアイリの頬が次第に緩み出す。
「これ美味しいです!」
「あったりまえだ。何たって俺が作ってるんだからな」
カウンターの向こう側でマスターが右の二の腕をポンポンと叩く
「腕だけは本当に良いんだよ。この人いたっ!殴んないでよリュド!」
「店ではマスターと呼べ!」
「イテッ!」
「ふふふ」
マスターがゴツンと頭を殴って来他のと同時に笑い声が聞こえて来た。
僕とマスターが笑い声の主の方へと振り返る。
「いえごめんなさい、可笑しくって」
「ほれ、もうすぐしたら客が入り出すからとっとと熱いうちに食べちまいな」
そう言ってマスターはまた厨房へと入っていった。
「久しぶりにアイリの笑う顔が見れたよ」
「え?」
「ほら、マスターの言う通り早く食べよう。この後行きたい所があるんだ」
「行きたい所?」
キョトンとアイリは可愛く首を傾げたのだった。
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