第18話 死都北上

 コウキはレーナの空船の上で剣を振るう。

 いつもの基礎練習だ。

 クロキに教わった事を毎日欠かさず練習しているのだ。

 こちらに死神の都が近づいている。

 もしかすると戦闘になるかもしれない。

 だから、体を動かす。


「ほほう。すごく綺麗な剣筋。何度も練習しているのがわかるよ。うんうん」


 剣を振っているとシロネが近づく。

 

「シロネ様……」


 コウキは剣を背中にしまうと頭を下げる。


「様はいらないよ、コウキ君。シロネお姉ちゃんで良いよ。少し手合わせをしようか」


 シロネは持って来た2本の模造剣の1本を渡して言う。


「えっ? あの?」


 模造剣を渡されてコウキは戸惑う。

 

「もしもの時は私も戦うから、体を動かしたいの、よろしくね。コウキ君。いくよ」


 シロネは剣を構えるとコウキに向かって来る。

 その動きはゆっくりだ。

 手加減をしてくれているみたいだ。

 コウキはその剣を受けると左足を少し後ろに滑らして受け流す。

 そして、手首を返してシロネを攻撃する。

 シロネは体勢を崩す事なく、右に少し飛んで避けてコウキの後ろに回る。

 その動作は軽やかで、踊っているようだ。

 シロネはコウキを後ろから攻撃する。

 コウキは剣を戻さず体をさらに足を前に出すと、踵を返して剣で防御する。

 コウキとシロネの模造剣がぶつかる。

 

「やるね。コウキ君。まだまだいくよ」


 シロネは軽やかに左右に移動しながら剣を振るう。

 まるで踊っているような剣さばきだ。

 コウキはその剣を全て受けきる。

 コウキが静なら、シロネは動。

 両者の模擬戦は続く。

 どちらも本気で打ち合っていない。

 それでも傍らで見ている他の者からしたらかなりのものだろう。


「ふう、そろそろやめようか。コウキ君」


 ある程度打ち合った後、シロネは模擬戦を辞める。


「ありがとうございます。シロネさ……、お姉さん」


 コウキはお礼を言う。


「うんうん、お姉さんだよ。やっぱり可愛いねコウキ君は」


 シロネはコウキの頭に抱き着く。

 シロネの大きな胸がコウキの頭に押し付けられる。


「ええと、その……」


 コウキは突然抱き着かれて戸惑う。

 周囲の天使達からざわめきの声が出る。


「良い子、良い子。じゃあ、コウキ君。模擬戦付き合ってくれてありがとう」


 シロネは一時コウキの頭を撫でるとそのまま離れる。 

 

「はあ……。やっぱり強いな。あれが本気だったら目で追えないかも……」


 コウキはシロネの背中を見てそう呟く。

 動きはゆっくりだったが、それでも時々目で追えない時があった。

 何とか防いだが、本気だったら頭を模造剣で叩かれていただろう。


「練習あるのみかな」


 コウキは再び練習に戻ろうとする。

 すると後ろから服を引っ張られる。


「えっ、サーナ様?」


 後ろを見るとサーナがコウキの服を引っ張っている。

 見ると不機嫌な顔をしている。


「どうしたんですか? サーナ様?」


 コウキは身を屈めてサーナの目線に合わせる。

 するとサーナはコウキの頭に抱き着く。

 どうやら、シロネに抱き着かれた事が不満らしい。

 コウキは困った顔をする。

 後ろを見るとサーナの後ろで船にいる女天使達が並んでいる。

 サーナと同じことをしたいらしい。

 サーナは後ろに並んでいる天使達を見てさらに不機嫌になるのだった。



「相変わらず。人気ね、コウキ君は。このまま成長したら大変ね」


 コウキを少し離れたところから見ていたチユキはそう呟く。

 コウキは非常に綺麗な少年だ。

 どことなくレーナに似ている。

 おそらく、アルフォスの子どもだろうとチユキは予想している。

 それに母親もかなりの地位にいるものだろう。

 そうでなければレーナもコウキを可愛がろうとは思わないはずだ。

 コウキは美しく育ち、ここにいる天使達も見惚れている。

 

 

「そうだね。本当に強くなったよ。コウキ君は」


 チユキの側に来たシロネが答える。


「そう、強くなったのね。どうだった?」

「何回か本気で打ちにいったけど、全部防がれちゃった。今本気で戦ったら勝負はわからないかも……」


 シロネは首を振って言う。


「……そこまでなの? 本当に成長しているのね。コウキ君は……。いつまでも可愛い少年でいて欲しかったのに、大きくなったらレイジ君みたいになるのかな」


 チユキはコウキを見る。

 コウキは女天使に囲まれ、それをサーナが追い払っている。

 チユキはコウキの成長を喜ぶと同時に少し残念に思う。


「それはどうかな……、レイジ君みたいにならない気がする」


 シロネは首を振る。


「へえ、シロネさんはどう育つと思うの?」

「コウキ君、昔のクロキに似ている気がするの。どうしてだかわからないけど。だから、何となくレイジ君みたいにならない気がする」


 シロネは意味深な事を呟くのだった。





 レイジとアルフォスは急ぎ北上したモードガルを追う。

 

「おい、あの鳥はどうした?」


 後ろから追いかけてくるアルフォスに聞く。


「ああ、彼に任せたよ」

「そうか」


 それを聞くとレイジは再び前を向いて走り出す。

 

「彼を心配しないのかい?」

「心配? 何を言っているんだ?」


 レイジは振り返り、何を言っているのだろうという顔をする。


「まあ、そうだね。彼を心配するのはありえないね」


 アルフォスも笑う。

 クロキの心配をするのはありえない。

 レイジもアルフォスに勝った者が負けるはずがない。

 気にするだけ意味がないのだ。


「当たり前だ。それよりも見えて来たぞ」


 レイジはそう言って先を見る。

 遥か上空に巨大な何かが飛んでいる。


「全く、あんな巨大なものが飛んでいるなんてね。うん、来るよ!!」


 レイジとアルフォスはそれぞれ左右に分かれる。

 次の瞬間レイジとアルフォスが走っていたところに何かが高速で通り過ぎる。

 通りすぎたのは一本の矢だ。

 矢を放った者の姿は遥か遠くに見える。

 巨大な弓を持った異形の者。

 アルフォスは過去に会った事があった。

 

「あれはラージェ? 彼も来ていたのか」

 

 アルフォスは相手を見る。

 壊矢公ラージェはアルフォスやサジュタリスと同じ弓の神だ。

 だが、アルフォスやサジュタリスと違い、その放たれる矢は禍々しき呪いの矢である。

 その矢を受けた者は呪われ、傷口は腐れ落ちると言われている。

 ラージェはアルフォスを弓矢の好敵手として何度も狙って来るのだ。


「知っているのか?」

「ああ、あまり会いたい相手ではないけどね」


 アルフォスは笑うと自身の弓を取り出す。


「よく来ましたね。アルフォスに光の勇者殿。待っていましたよ」


 突然空中に骸骨頭の者が現れる。

 その男が持っている杖の先が燭台になっている。


「獄炎公ビフロン……。何だ、君も来ていたのか。急にどうしたんだい?」

「決まっていますよ。アルフォス。貴方を倒すためですよ。そして、わたしだけじゃありません。他の方々も来ています」


 ビフロンと呼ばれた骸骨頭がそう言うと周囲に異形の者が現れる。


「何だ? こいつらは?」


 レイジは剣を抜いて異形の者達を見る。

 どれも只者ではない。

 

「彼らは僕達に敵対する邪神だよ。ザシュススに協力するとはね……。まいったなこれは」


 アルフォスは笑って言う。

 だが、その笑みは少し引きつっている。


「さて、貴方達をザシュスス殿の所に行かせるわけにはいきません。お相手をしてもらいましょうか?」


 ビフロンはそう言うと燭台の杖を掲げるのだった。


 



★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新です。

 暑くてもう色々とダメです。

 執筆力が落ちています。

 でも暑さのせいにしたらダメですね。

 頑張ります。


 

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