第22話 コウキ対バサーシ
ケンタウロスは優秀な狩人にして戦士の素質を持つ。
バサーシはそんなケンタウロスの英雄である。
今まで負けたことはなく、ましてやひ弱な
バサーシは目の前の子どもを見る。
正直に言って強そうには見えない。
(我らと同じ姿になっているからか? だから、強くなったというのか? そうか、勇者の仲間の魔術師の力によって強化されているのだな! そうに違いない!!)
バサーシは歯ぎしりする。
参加を認めた以上は後から違反を口にすることはできない。
それぐらいの事は誰だってわかる。
認めた以上はコウキが強化されていても、文句をいう事はできないのだ。
光の勇者に敵対してはいけない。
自身の部族の長老が言っていた事を思い出す。
彼らの強さは聞いたことがある。
だが、信じていなかった。
女神に選ばれたとはいえ
彼らが何をしようと勝てるだろうと甘くみていた。
その事をバサーシは恥じる。
このまま先に行かせるわけにはいかない。
持っている魔法の道具も全て使う。
もちろん、希少なものも含めてだ。
全ての持てるもの開放すれば、勇者の関係者ごとき負けるはずはない。
バサーシはコウキを叩き潰さなければならないと判断する。
「
バサーシは背中の2本の大剣を抜くと魔法を唱える。
大剣の刃が雷の力を帯び、電撃を周囲に放つ。
「いくぞ!
◆
コウキの目の前でバサーシが大剣を掲げて名乗りを上げる。
(ええと、自分も名乗った方が良いのかな? この場合は父親の名前を言うのだろうか? でも、それって名乗って良いものなの?)
コウキはクロキの顔を思い出す。
暗黒騎士である父親の名前を出すのはためらわれた。
「自分はコウキ!! ええと、二つ名は特にないです……」
結局コウキはクロキの名前を出さなかった。
それに遠くから見ている者がいているのを感じていた。
見るだけでなく聞いているかもしれない。
名乗った後剣を抜く。
クロキからもらった黒い刃の剣だ。
相手の大剣に比べたらかなり細く、一撃を受けたら折れてしまいそうであった。
「いくぞ! コウキ! 風よ! 我が身に纏え! 疾風走駆!!」
バサーシが両腕に剣を掲げて向かってくる。
風の精霊に助けてもらっているのかかなりの速度だ。
コウキは横に飛んで避ける。
しかし、躱しきれず剣で受けてよろける。
(うっ、この足だと避けにくい!)
コウキはケンタウロスと同じになっている下半身を見る。
この足ではまだ戦いになれていない。
そもそも、ケンタウロスの下半身は小回りが利かない。
何度も練習したいつも通りの動きができず、バサーシの突撃を避けきれなかったのだ。
(真っすぐに進むのならこの足の方が良いのだけど……。やりにくい)
コウキが振り返るとバサーシは遠くにいる。
そこから大きく速度を落とさないように大きく回るように方向転換すると再びこちらに向かってくる。
突撃を何度も繰り返す。
おそらく、これがケンタウロスの戦い方なのだ。
(なら! こっちも行く!)
コウキは少し迷うとバサーシに向かって駆け出す。
バサーシは最初の突撃よりもさらに速くなっている。
魔法を使った上に助走距離が多くなったことで速度が増したようだ。
対してコウキは助走距離も短い上に魔法も使えず、まだまだケンタウロスの下半身を使いこなせていない。
そのためバサーシよりも速度が出ない状態だ。
コウキとバサーシの距離が縮まりぶつかる。
「ぐっ!!」
「うっ!!」
コウキはバサーシの大剣を受けよろける。
バサーシもコウキを弾き飛ばす事ができず速度を落とす。
(これが、バサーシの本気……。蛇の王子やテリオンとは違う感じだ)
コウキは遠くに離れたバサーシを見る。
バサーシは風と雷の精霊によって自身を強化し、さらに何らかの魔法の道具を使っているのを感じる。
(もう一度来る!)
コウキは体勢を立て直すと再びバサーシに向かう。
だが、バサーシはこちらに向かってこない。
よく見るとその手に大剣を持っておらず、代わりに弓を持っている。
先程交差して背を向けている間に持ち替えたようだ。
「
バサーシは天に向けて矢を放つ。
すると矢は空中で何本にも増えた後コウキに向かって落ちてくる。
魔法の矢による攻撃。
「ちょ、ちょっと!!」
コウキは慌てて矢を避けるために動く。
しかし、矢はコウキが逃げた方向へと軌道を変えて追ってくる。
(追ってくる! だったら!)
コウキはさらに逃げる。
そして、矢もさらに追ってくる。
その結果、矢が来る方向が1つに限られ、防ぎやすくなる。
「はあっ!!」
コウキは剣を回転させて矢を次々に斬り落とす。
バサーシは次の矢をこちらに向けている。
離れながら戦うつもりのようだ。
(うっ、場所が相手に有利だ……。やりにくい)
コウキは不利な状況にいる事を悟る。
ケンタウロスは弓の名手であり、さらに下半身が馬なのでこういった広い場所で高速で移動しながら遠距離で戦われてはやりにくい。
狭い場所であれば蛇の王子ダハークや獣神子テリオンの方が強いだろう。
だけど、草原で風と雷の精霊の加護を受け、さらに完全な武装をしたバサーシの強さはそれに匹敵するようであった。
(どうすれば良い……? 近づかないとこっちは攻撃できないのに……)
コウキは迷う。
バサーシは風の精霊によって速度を増している。
簡単には追いつけないだろう。
コウキは弓を持っていないので近づかないと戦えない。
それに対して相手は逃げながら戦う。
バサーシはコウキを中心に周囲を回るように動き、近づかない。
「どうした! コウキ! かかって来ないのか!」
バサーシは笑う。
それを聞いてコウキは悔しくなる。
(そっちが喧嘩を売って来たのに……)
喧嘩を売って来たのは向こうである。
バサーシのほうこそかかって来いと言いたくなる。
(あれ、待って……。何で自分がバサーシを追わないといけないの?)
そんな時だった。
コウキはあることに気付くと駆け出す。
「うん? 何だ? 逃げるのか? コウキ……。あっ!! まさか貴様ああああああ!!」
バサーシはコウキの行動に気付くと追ってくる。
そもそも、バサーシはコウキが先に行くのを邪魔するために勝負を挑んだのだ。
なぜ、コウキがバサーシを追う必要があるのだろう?
バサーシがかかって来ないのならコウキはそのまま進めば良いのである。
コウキは全力で走る。
背中から矢が迫ってくるのを感じる。
コウキは振り返ると矢を再び斬り落とす。
バサーシがこちらに向かってくるのが見える。
コウキが先に進むのがわかってしまった以上、距離を取って戦うことができなくなったのだ。
コウキはバサーシの弓を警戒しながら先に進む。
「待て!! コウキ!!!!」
「誰が待つか!!!!」
バサーシは全力で追う。
コウキはさらに走る。
そして、さらに進んだ時だった。
「あっ……」
コウキは間抜けな声を出す。
目の前に多くのケンタウロス達が向かってきている
バサーシの後に続いて来ている祭りの参加者達であった。
その中にはサークとラナベの姿も見える。
コウキに気付き、かなり驚いているようであった。
「おい、どういう事だ? 何であいつが?」
「おい! 見ろ! あいつの腕に巻かれているものを!」
「フウイヌムの鬣……。まさかあいつ! もう折り返して来たというのかよ!!」
ケンタウロス達は驚きの声を出す。
「まて!! コウキ!!! 誰かそいつを止めろーーーー!!」
後ろからバサーシの声が風に乗って聞こえて来る。
おそらく、魔法で声が遠くまで聞こえるようにしているのだろう。
その声が聞こえたのかケンタウロス達が武器を構える。
(えっ……。もしかして、これを全員相手にするの?)
まだまだ戦いは続くのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
バンバンババーン、更新です。
バサーシはかなり無理をして戦っています。
また、コウキも下半身がケンタウロスなのでいつも通りの剣が震えていなかったりします。
ではまた来週です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます