第29話 小さな聖女の来訪(エピローグ2)

 エリオスの天宮、レーナはファナケアを訪ねる。

 事件があってから、かなりの月日が流れていた。

 事件が終わった後、すぐにレーナはファナケアに宝石化の呪いを解く薬を作ってくれるように頼んだ。

 ファナケアは引き受けてくれて、今日ようやく出来たのだ。

 薬は呪いを解く魔法を補助する効果があり、これに魔力が高い者が解呪すれば元に戻るはずであった。


「はい、レーナ。薬よ」

「ありがとう、ファナケア。これで宝石になった者を戻せるわ」


 レーナはファナケアから薬を受け取る。

 


「それにしても貴方も大変だったわね。まさか蛇の女王が来ているだなんてね」

「ええ、そうね大変だったわ。私を信仰する人間達が怪しい動きに気付き、探ってみたら本当に蛇が出るなんて思わないわよ」


 今回の事件は蛇の女王ディアドナが何か企んでいて、レーナに気付かれそうになったから逃げた事になっている。 

 実際は違うのだが、レーナは真実を言うつもりはない。

 コウキを目立たせたくないためだ。

 詳しく調べられれば違うとすぐにバレるだろうが、あの地域はレーナの縄張りであり、他の神々が調べたりしないだろう。


「本当にそうね。それにしても、ここまでしてあげるなんてレーナも優しいわね。薬の材料なんて簡単に手に入らなかったでしょうに」


 ファナケアはそう言ってレーナを労う。

 蛇の女王の呪いを解く薬は簡単に作れるものではない。

 なぜなら、材料が簡単に手に入らないからだ。

 人間のために使うにはもったいないものであった。

 通常なら見殺しにしたであろう。


(まあ、クロキが用意してくれなければ、私も助けようと思わなかったわ)


 実は材料はクロキが用意してくれたものだったりする。

 魔女の大母ヘルカートが持つ素材をクロキが頼んで譲ってもらったのである。

 それをレーナに渡し、レーナはファナケアに渡したのである。


「まあ、色々と伝手があってね。簡単に手に入ったわよ」

「そう、さすがレーナね。どこの殿方から手に入れたのかしら」


 ファナケアは少し意地悪そうに笑う。

 しかし、その予測はあっている。

 だがその殿方との間に子どもまで作っているとはファナケアも想像だにしないだろう。

 コウキの事は当然秘密だ。


(でも、いつまで秘密に出来るかしら? コウキの封印もやがて解けるでしょうし)


 レーナはコウキの事を考える。

 コウキは強くなった。

 やがてレーナの封印を自力で解くだろう。

 そうなるとコウキの出自を探る者が出るかもしれなかった。


「それは想像にお任せするわ、ファナケア。それじゃあ行くわね。早く薬を届けてあげないと」

「そう、またね。レーナ」


 レーナはファナケアに挨拶すると外に出る。

 薬を下界に渡し、サホコに連絡する。

 レーナが動かなくてもサホコならディアドナの呪いを解けるだろう。

 これでコウキも安心するはずであった。







 聖レナリア共和国のレーナ神殿。

 その修練場でコウキは1人で練習用の木剣を振るう。

 事件が終わった後、コウキ達は騎士団の救援部隊に助けられた。

 あの中で呪いを受けなかったのはコウキとギルフォスと巫女のメリニアとノッポスだけだ。

 事件はメリニアに降臨した女神レーナによって解決した事になっている。

 そのメリニアは女神を降臨させた事で力を使い果たしてしまい巫女を引退した。

 巫女となりえる程の能力を持った者は貴重であり、かなりの損害だといえるだろう。

 また、呪いを受けた者達は元に戻っていない。

 邪神の呪いを解くのは難しく、薬があっても魔力に乏しい者では解呪はできない。

 そのため、騎士団はエルドにいる聖女サホコに呪いを解いてもらうように要請した。

 すでに薬は届いているのだから、後は聖女を待つばかりであった。

 


「従騎士コウキはいるか?」


 そんな事を考えている時だった。

 修練場にコウキを呼びに来る者がいる。

 コウキが入り口を見るとそこにはギルフォスとノッポスが立っている。

 

「これはギルフォス卿。何の御用でしょうか?」


 コウキは頭を下げる。

 ギルフォスは先日騎士に叙勲された。

 つまり従騎士であるコウキよりも立場は上である。

 また、ノッポスは騎士となったギルフォスの部下となった。

 一緒にいるのも不思議ではない。

 そのノッポスは操られていたとはいえ騎士団の情報を売っていたらしい。

 普通なら処分されるが、保留になっている。

 なぜなら、操られていた時の記憶から行方不明となった者の居場所がわかったからである。

 どうやら魔術の実験道具となっていたようだ。

 全てとはいかないがほとんどが助け出され、残りの者も捜索中である。

 今後の働きによっては処分されずに済むだろう。


「団長殿がお呼びだ。どうやら聖女様が到着されたらしい。お前にも来て欲しいから広間へ来いとの事だ」


 ギルフォスは不愉快そうに言う。

 騎士が格下である従騎士を呼びに行かされる事が不満なのだろう。

 まあ、もともと前回の事件から少しいら立っているようだ。

 何も出来ず、女神に助けられた事を情けなく思っているのかもしれない。

  


「ギルフォス様。いけませんよ。仲良くなさらないと、ねえ」


 ノッポスはそう言うと卑屈に笑う。

 事件の時から様子がおかしいように思う。

 ノッポスに何かあったのかもしれないとコウキは思う。


「そうか、仕方がないな。確かに伝えたぞ、従騎士コウキ。支度をして早く来るんだな」


 ギルフォスはそう言って踵を返して部屋を出る。


(そうか、サホコ様が来られたのか……)


 コウキは木剣を棚に戻すと騎士団本部の広間へと向かう事にする。

 失礼があってはいけないので着替えねばならないだろう。

 サホコはコウキがエルドに居る頃にお世話になった女性だ。

 何度か御菓子を貰った事もある。

 通常なら従騎士が出迎えに参加する事はないが、過去に縁があったからだろうか特別に参加が許されたようだ。

 コウキは急いで支度をすると広間へと向かう。

 コウキが広間に入ると騎士団長のボーウェンに上位の騎士達が集まっている。

 その中にはギルフォスもいる。

 新米だが、すでに騎士の重鎮という扱いだ。


「遅いぞ、従騎士コウキ」


 副団長のルクルスが叱る。


「申し訳ございません」


 コウキは素直に謝るとギルフォスの後ろに並ぶ。

 この場にいる者の中でコウキが一番下のようだ。

 端に並ぶのが当然である。 



「聖女様が参られました」


 しばらくすると扉の向こうからそう声がする。

扉が開くと小さい影が飛び込んで来る。

 コウキには見覚えがある影であった。

 影はギルフォスを吹き飛ばすと真っすぐにコウキに抱き着く。


「コウ!! 会いたかった!!」

「えっ? サーナ様!? どうして?」


 入って来たのはサーナである。

 来るのはサホコだと思っていたのでコウキは驚く。


「助けに来たんだよ。コウ!」


 サーナはそう言ってコウキを見上げる。

 どういう事なのかコウキにはわからない。


「サーナ。あんまり急がないで。コウキ君が驚いているわよ」


 次にサホコが入って来る。

 サホコが入ると騎士達は頭を下げる。

 コウキもサーナを抱きかかえたまま頭を下げる。


「サホコ様。よくぞ来て下さいました。礼を申し上げます。我が団員達を元に戻して下され」


 騎士団長であるボーウェンが頭を下げる。

 

「久しぶりですボーウェンさん。でも今回は私ではなくサーナがやります」

「えっ、サーナ様がですか?」


 全員の視線がコウキとサーナに集まる。


「サーナの力は私に匹敵します。サーナなら必ずや呪いにかかった人を元に戻せるでしょう。だから、しばらく、サーナを宜しくお願いしますね」


 サホコはそう言ってコウキに微笑む。


「コウ。これで一緒にいられる」


 サーナはそう言うとコウキの胸に額を擦り付ける。

 

「ええと……」


 コウキは何と言って良いかわからなくなり、サーナを見る。

 最後に見た時よりも綺麗になっている。

 思わず見惚れそうになってしまった。

 サーナはあまり表情を変えないがとても嬉しそうである。

 コウキとサーナは見つめ合う。

 そんな中で吹き飛ばされたギルフォスは気絶したまま広間の隅で目を回しているのであった。




 


★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★



とりあえずこれでこの章も終わりです。

最後にサーナ登場。


そして、次章ですが……。色々と考えているのですがまとまっていません。

そろそろ物語を加速させないといけないかもと思っています。

また、基本書きたい事優先なのですが……。悩みますね。


エッセイも書きたい、設定資料集も充実させたい、AIイラストで色々とやりたい。

時間がないです;つД`)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る