第8話 幻影の騎士

「何だ? こいつら!? 消えていくぞ?」


 騎士ヒュロスは倒れた者達を見て言う。

 襲ってきた者達は皆弱かった。

 弱いだけなら問題はない。

 むしろ良い事だ。

 しかし、襲って来た者達は斬られると消えてしまったのである。

 まるで最初から存在しなかったようである。

 これでは捕らえる事もできず、黒幕がいてもわからないだろう。


「どうします? 隊長? 明らかに変ですよ」


 側にいるフリョンが聞く。

 付いて来た騎士達も驚いている表情で周囲を見る。

 先程まで戦っていたのが嘘のようだ。

 全員訳が分からない様子であった。


「戻る。さすがに巫女様が心配だからな」


 ヒュロスは歯ぎしりする。

 このサレリアの街でまさか騎士を襲ってくる者がいるとは思わなかったのである。

 そして、襲って来た者達は只者ではない。

 任務の前に息抜きをしようと思ったが甘かった。

 ヒュロスは急ぎ騎士団支部へと戻るのだった。




 コウキは急ぎ支部の正門へと来る。

 そこには漆黒の鎧を着た者が1人立っている。

 漆黒の鎧を着た者から禍々しい気配を感じる。

 暗黒騎士と呼ばれても仕方がないだろう。


「違う……」

 

 コウキは正門に立つ暗黒騎士を見て呟く。

 現れた暗黒騎士は以前に会った者と違っていた。

 体格も鎧の形も違う。

 体格は目の前の者の方が大きい。

 しかし、強さは前にエルドで出会った者の方が強そうであった。


「ホプロン様!」


 コウキと同じように正門に来たネッケスが膝を地面に付いているホプロンに駆け寄る。

 見るとホプロンの側には騎士達が倒れている。

 この支部に常駐している者達だろう。

 暗黒騎士にやられたようだ。

 やられているのは騎士達だけではない。

 従騎士であるデイブスも傷つき腕を押さえ、ノッポスは吹き飛ばされたのか遠くに倒れている。


「下がれ……、ネッケス。お前が敵う相手ではない。急ぎ隊長を呼んでくるのだ。隊長でなければ勝てないだろう」


 ホプロンは暗黒騎士を睨みつけて言う。

 

「我の名は暗黒騎士デクロス。ふん、レーナの騎士の力とはこの程度か……。他愛もない」


 デクロスと名乗った暗黒騎士は笑うと近づいて来る。


「行け、ネッケス! 従騎士コウキもだ! おそらく狙いは巫女様だ! 我々が食い止める! 隊長を呼んでくるんだ!

「その必要はない!」


 ホプロンがそう言った時だった。

 支部の2階から誰かが降りてくる。


「従騎士ギルフォス!?」


 誰が降りて来た者の名前を呼ぶ。

 降りて来たのはギルフォスだ。


「暗黒騎士よ! このギルフォスが相手をしてやろう!」


 ギルフォスは剣を抜き構える。

 魔力を帯びた刃が白く光る。

 父であるアルフォスがギルフォスに送った物らしい。

 

「ほう、子どもが我に挑むか……。来るが良い」


 デクロスは剣を構える。

 その動きはただ剣を持っているだけの姿勢だ。

 特に剣を学んだ者の姿勢ではない。

 

「ふん、行くぞ!」


 ギルフォスは動く。


「速!?」


 ネッケスが驚きの声を出す。

 ギルフォスは素早い動きでデクロスに向かう。

 

「ぐっ!」


 デクロスはギルフォスの攻撃を何とか受け取るがその斬撃により後ろに下がる。

 

「防いだのか、やるじゃないか。だが、まだまだ行くぜ! 氷結の刃フロストブレード


 ギルフォスは嬉しそうに言うと再び動き出す。

 ギルフォスは縦横無尽に飛ぶとデクロスに剣を振り下ろす。

 デクロスは動けず固まったままだ。

 冷たい風が辺りに吹く。

 ギルフォスの氷の剣の影響のようであった。 


「速え……。全く見えねえ……」


 ネッケスが呆けた顔でギルフォスを見る。

 ホプロン達も驚いた表情でギルフォスを見ている。


「確かに速い……。ほんのわずかの間に16回も斬り付けているよ……」

「えっ、コウキ? 見えているの? 俺は全く見えないんだが……」


 コウキが呟くとネッケスが驚く。

 コウキはギルフォスの動きが良く見えていた。

 もっと早いレイジやシロネの動きだってある程度は見えていたのだから当然だろう。

 ギルフォスの動きは速く暗黒騎士は何も出来ない。

 対してギルフォスからは余裕を感じる。

 おそらくもっと速く動けるだろうが、遊んでいるのだろう。

 

「これで終わりだ!」


 ギルフォスの剣が暗黒騎士の胸に突き刺さる。

 それを見ていた者達から歓声が上がる。


「馬鹿な……。このデクロスが……。我が主……、申し訳ございません」


 そう言うと暗黒騎士デクロスは消える。

 まるで最初から誰もいなかったかのようであった。


「何だ?こいつ消えていくぞ」


 ギルフォスが奇妙な顔をする。

 それは周囲の騎士も同じであった。

 襲撃した者達は全て消えている。 

 それは夢か幻でも見ているかのようだ。

 そんな時だった支部の2階から歓声が上がる。

 巫女の御付きの女性達だ。

 2階からギルフォスと暗黒騎士の戦いを見ていたようだ。

 ギルフォスは優雅に巫女達に一礼をする。

 するとさらに歓声が上がる。


「さすがだな。従騎士ギルフォス……。貴殿のおかげで助かった」

「それほどでもないですよ。それよりもホプロン卿。この程度のなら問題ありませんが、警戒をした方が良いでしょう。それでは私は休みます」


 ギルフォスはそう言って支部の中に戻る。

 誰も咎める者はいない。

 ギルフォスは特別なのだ。


「そう言う事だ。諸君……。再び警戒するように」


 ホプロンが騎士達に指示を出す。

 再びコウキ達は警護をするのだった。





「へえ、中々面白いもの見れたじゃないか」


 テリオンは肉の串焼きを頬張りながら笑う。

 獣神子テリオンとその配下の人狼達はサレリアに来ている。

 争いの気配を感じ、遠くから様子を見ていたのだ。

 襲撃に気付いた者達は多いが、その大半は遠くから見ているだけだ。

 騎士団を襲うような奴らには近づくべきではないと言う声も聞こえていた。

 その群衆の中に紛れたのである。

 襲撃したのはテリオン達が知らない者達だ。

 人狼を引き入りテリオン達が襲うなら街の外であり、街に入っているのは様子を見るためだけだ。


「はい、若。それにしてもあの襲った者達は何者でしょうかね?」


 側にいるイカヅチが言う。

 襲撃した者達は奇妙な気配をさせていた。

 生きている者とは違う気配だ。

 瘴気も感じないのでアンデッドでもないだろう。

 しかし、テリオンにはどうでも良い事だ。


「知らん。それよりも、あの黒いのを倒した奴。あれが気になる」


 テリオンは牙を出す。

 黒い鎧を倒したテリオンを同じ背丈の者。

 かなりの強さのようであった。

 その戦いぶりを見て凶獣の血が騒いだのだ。

 

「血が騒ぎやすか? 若。確かギルフォスとか呼ばれていましたね。今から襲撃しますか?」


 イカヅチが提案するがテリオンは首を振る。

 

「今はやらん。今は肉を食べるのに忙しい。次はあれを食べるぞ、イカヅチ」


 テリオンはそう言うと今度は豚の丸焼きに目をつける。

 生肉の方が好みだが、人間の料理も興味があった。

 他の人狼達もどこかで食っているはずだ。

 奪った金銭とかもあるし、いざとなったら奪えば良い。

 

「へい、若。うん……。何だ?」

「どうした、イカヅチ?」

「いえ、光っている蝶らしきものを見かけやしてね……」


 イカヅチは怪訝な顔をする。


「蝶か? そんな虫等気にするな、行くぞ」


 テリオンは豚の丸焼きの方へと行く。

 こうしてサレリアの夜は更けていくのだった。



 テリオン達とは別の場所。

 クロキ達もまたサレリアに来ていた。


「暗黒騎士……。何だ? あれ?」


 クロキは騎士団支部を襲った者達の事を考える。

 暗黒騎士は魔王モデスに仕える者の中で一部の者のみが名乗る事を許される。

 暗黒騎士になった者は闇鎧ダークアーマーを授けられ、その鎧の闇の力を同じ暗黒騎士は感じ取る事ができる。

 しかし、先程の暗黒騎士の鎧は黒いだけで闇の力を感じない。

 ようするに偽物である。

 勝手に暗黒騎士を名乗った者がいる事にクロキは不快になる。

 ただ、その暗黒騎士は倒されると消えてしまった。

 まるで存在していなかったようであった。


「幻影が形を持っていたような感じだぞ……、クロキ。確かに変な奴だな」


 側にいたフードを被ったクーナも首を傾げる。

 クーナは美人過ぎるのでフードを被り気配を消さないと目立つので、うかつ人の街を歩けない。

 クーナは周りを気にして行動するのが嫌いなので、クロキはいつも説得が大変だったりするのだ


「幻影が形を持つか……。夢の戦士ドリームウォーリアなんかに近い奴かな。断言は出来ないけどね」


 クロキはかつて見た夢の戦士ドリームウォーリアの事を思い出す。 

 神や竜等の強力な魔力を持った生命体は眠っている間に夢を具現化させる事が出来る。

 具現化した夢は様々で都市を作る事も可能だ。

 生命を具現化する事も可能であり、夢で出来た竜や戦士も作る事も可能だ。

 夢で出来た生命体は自己の意思を持つ事もあり、独立して行動もできる。

 もっとも、元となる生命体が眠りから覚めたら、具現化した生命体は瞬時に消えてしまう。

 強さも元の生命体よりも遥かに弱い者しか作れない。

 だが、神や竜が生み出す生命体は普通の人間よりも強いだろう。

 先程見た暗黒騎士を名乗った者はそれなりに強かった。

 もし、あれが夢の戦士ドリームウォーリアなら、かなりの力を持った生命体がいる事になる。

 

「なるほどな、確かに夢が具現化した者かもしれないぞ。存在が希薄だったからな」


 クーナは頷く。


「まあ、推測だけどね……。そういえば、クーナ。怪しい奴はいなかった? 一応いるかもしれないし」


 クロキはクーナが蝶を飛ばしていた事に気付いていた。

 クーナの蝶は様々所に入る事が出来る。

 周囲に怪しい者がいたら気付くだろう。


「ああ、それなら人間とは違う者達が入りこんでいるようだぞ」

「えっ、そうなの?」

「ああ、そうだぞ、クロキ。まあ、先程の幻影とは無関係のようだがな」


 クーナは首を振る。


「無関係か……。暗黒騎士といい、一体何者だろう?」


 クロキは空を見上げて言う。

 夜空には星が瞬き、煌いている。

 クロキは占星術の力が欲しくなるのだった。


 



 



 



★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


更新です。

完成版シロネとチユキを近況ノートにのせています。

良かったらどうぞ。

マグネットマクロリンク版の方はTwitterにもあげていますのでそちらで見る事も可能です。

実は既にポレンとイシュティアとトトナは完成していたりします。

ただトトナは少し出来が不満……

また、リノもキョウカもカヤも出来ています。ナオはもっと手無しが必要かも。

どこかで公開出来たら良いなと思っています。

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