第27話 砦の崩壊

 チユキとシロネは砦の中央部に入るとそこには巨大な竜羽虫ドラゴンフライがいて、その上には竜人アズムルが立って見下ろしている。


「行け! 勇者の女達を倒すのだ!」


 竜人アズムルが号令を出すと竜羽虫ドラゴンフライが動き出す。

 すると砦が大きく揺れる。


「うわ! 揺れる! チユキさん! このままじゃ砦がっ!」

「わかっているわ! シロネさん! 脱出するわ!」

「でも! コウキ君達が!」


 チユキはシロネが言いたい事がわかる。

 コウキ達がどうなっているのかわからない状況だ。


「わかっているわ! でも、時間がない! エルフ達があの子達を保護している事を祈るしかないわ!」


 チユキはそう言うと唇を噛む。

 エルフ達はチユキ達程ではないが、かなり強い。

 コウキ達と一緒にいるなら助けてくれるはずだ。

 

「キシャアアアアアア!」


 竜羽虫ドラゴンフライが襲ってくる。

 竜羽虫ドラゴンフライは羽の振動で砦の壁を崩壊させながら迫る。


「シロネさん脱出するわよ!」

 

 チユキはそう言って竜羽虫ドラゴンフライに背を向けて走り出す。

 竜羽虫ドラゴンフライの頭が当たるその瞬間2人は通路に入り躱す。

 

「追え!!」


 アズムルの指示で竜羽虫ドラゴンフライが穴に顔を突っ込み、チユキ達を追う。

 

「ちょっと! 砦が壊れるわよ! 貴方達が作ったんじゃないの!?」


 チユキは逃げながらアズムルを見る。

 アズムルは砦が壊れようが気にしていない。

 そもそも、チユキが逃げているのは出来る限り砦を崩落させたくないからだ。

 高火力の魔法を使えば竜羽虫ドラゴンフライを一撃で倒せただろう。

 それを知らないアズムルはチユキ達が竜羽虫ドラゴンフライを恐れて逃げていると思っているのか追いかけてくる。

 実はリザードマン達と戦っているのはレイジがほとんどでチユキ達が戦う事がなく、アズムルはチユキとシロネの実力をほとんど知らないのである。

 竜羽虫ドラゴンフライは砦を崩落させながらチユキ達を追う。


「しつこいわね。転移が使えたらよかったのだけど……」


 チユキは後ろを見ながらそう言う。

 砦は結界を張られていて転移魔法が使えない。

 クーナの蝶を除き、魔法で脱出は出来なかった。

 チユキとシロネは走る。

 そして、やがて出口へと辿り着き、飛び出す。

 その次に竜羽虫ドラゴンフライも砦を飛び出す。

 その時だった砦が轟音を響かせて崩れる。

 

「チユキ! シロネ!」


 呼ぶ声が聞こえる。 

 チユキとシロネが外に出ると砦の近くの丘にレイジとリノにキョウカとカヤが立っている。

 リノが呼んで来たのだろう。

 また、他にも何名かの戦士達が一緒にいる。

 砦の異変に気付き、駆けつけたようだ。

 チユキとシロネは仲間達の所へと行く。


「チユキさん、シロネさん。良かった無事だったみたいだね」


 リノは2人が無事なのを見て笑う。


「ええ、私達は無事だけど……」


 チユキは周囲を見る。

 一緒に入って来た人達の姿が見えない。

 もしかするとまだ砦の中かもしれない。


「うおお!」


 突然声がする。

 するとチユキ達の近くの場所の地面から誰かが出てくる。

 知っている顔だ。


「ソガス司祭!?」


 地面から出て来たのはソガスである。


「いやあ、砦が揺れて危なかったですが……。抜け道があって助かりましたぞ」


 ソガスはチユキ達を見て笑う。

 どうやら、砦には抜け道があり、そこを通って来たようだ。


「無事だったようですね……。他の方はいないのですか?」

「いえ、私だけです……。残念ですが……」


 ソガスは首を振る。

 どうやら、他に続く者はいないようだ。


「そう……。だとしたら急ぎ、救出しないといけないわね」


 チユキは残骸となった砦を見る。

 まだ、埋まっているのなら急いで助けないといけない。


「そうだな、俺があれの相手をする。チユキ達は救助に急いでくれ」


 レイジは空を見上げる。

 残骸となった砦の上を竜羽虫ドラゴンフライが飛んでいる。

 レイジは剣を抜くと空へと飛ぶのだった。


 


 コウキとオズとボームは地下の抜け道を通って砦の外へと出る。

 

「まさか、こんな所に抜け道があるなんて」


 先頭を行くオズが呟く。

 コウキもそう思う。

 普通にしていたら気付かないような場所に抜け道があり、そこを通ると砦の崩落に巻き込まれずに脱出できたのである。

 出て来た先は砦から少し離れた場所で入った場所からはかなり離れている。

 元に戻るには砦を回って歩かなければいけない場所であった。


「うん、助かったよ~。この抜け道を知らなかったら大変だったね」

 

 最後に抜け道を出たボームは息を大きく吐くとその場に座り込む。


「ああ、そうだな。うん? あの道化師は」


 オズはそう言うと抜け道を除き込む。

 誰かが続いて出てくる気配はない。

 この抜け道は道化師が教えてくれた。

 何でもこういった抜け道は複数あり、その1つを使ってコウキ達は脱出したのである。

 運が良ければ砦に入った者の何人かは脱出できたかもしれない。

 そして、コウキ達が脱出する時に一番後ろにいたのである。

 その道化師がいなくなってしまった。 


「多分大丈夫だよ……。あの道化師はね」


 コウキは首を振る。

 あの道化師が砦の崩落ぐらいで死ぬとは思えなかった。

 

「そうだな、あの道化師が死ぬとは思えない。それにしても、とんでもなく怪しい奴だったな」

「そうだね。何者なんだろう……」


 オズとボームは考え込む。

 しかし、考えてもわかるはずはなかった。


「あ~、やめやめ。こんな事を考えてもどうしようもないよ。あ~あ、お腹空いた~」


 ボームは考えるのを止めて呟く。

 それを聞いたコウキとオズは笑う。


「ははは、ボームらしいや」

「全くだ。」

「何だよ。コウもオズも笑う事ないだろう」


 ボームは少し怒った顔をする。

 もちろん本気で怒ったわけではないだろう。

 3人の間で暖かい空気が漂う。


「あの~。コウキ様。そろそろ動いた方が宜しいかもしれません」


 突然声が掛けられる。


「えっ、ルウ姉さん」


 コウキは振り返る。


「はい、ここで待っていました。」


 ルウシエンと2名のエルフが姿を見せる。

 実はルウシエン達が側にいたらしい。

 彼女達は必要がないときは姿を消している。

 この抜け道からコウキ達が出てくるのを知っていたようだ。


「そろそろ、砦が崩れ、何か恐ろしいものが出てくるそうなのです」

「そうそう、早く脱出した方が良いよ」


 オレオラとピアラが頷いて言う。

 そんな時だった。

 砦から巨大な虫が出てくる。

 竜のように長い羽虫。

 竜羽虫ドラゴンフライが飛び出すと砦が崩壊を始める。


「何だよ? あれ!?」


 ボームは空を見上げて言う。

 巨大な竜羽虫が空を舞っている。


「ここから離れた方が良いでしょう。おそらく、あれだけではないはずです。そうでしょ、ピアラ」

「うん、そう。あの中には怖ろしい数の虫の気配を感じた……。砦から出てくるかもしれないよ」


 ピアラは震えながら言う。

 コウキは知らないが風エルフナパイアには虫を操る能力があり、虫を感知する能力にも長けている。

 ピアラはあの中でかなりの数の虫の気配を感じていたのだ。

 ピアラの言う通り、砦が崩壊するとその残骸から何かが出てくる。

 最初に出て来た竜羽虫ドラゴンフライの小型版だ。

 その上にはリザードマンが乗っている。

 リザードマンも虫も崩落で潰されなかったようだ。


「こちらに来るかもしれません。離れましょう。後はレイジ様にお任せすれば大丈夫です」


 ルウシエンはそう言ってエルドの方を見る。

 コウキもその方角を見ると空中に光る剣を持った誰かが飛んでいる。

 光の勇者レイジに間違いなかった。

 ここからだと小さいがそれでも、すぐに誰かわかる。


「ゆ、勇者様だ! 勇者様が来てくれたんだ!」


 レイジの姿を見てボームが嬉しそうな声を出す。

 勇者レイジは英雄である。

 多くの子どもがレイジに憧れているのだ。

 当然オズもボームもそうである。

 

「ああ、勇者様が来てくれたんなら、もう大丈夫だ」


 オズも安心したような表情になる。

 巨大な竜羽虫ドラゴンフライやリザードマンの乗る竜羽虫ドラゴンフライがいくらいようと光の勇者レイジが負ける姿は想像できない。

 それはコウキも同じである。

 光の勇者と巨大竜羽虫ドラゴンフライの戦いが始まろうとしていた。


 

 

 

 

 



★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


もう11月です。早いですね。

設定資料集ディアドナ編を公開しました。

良かったらどうぞ。


ここでレイジの登場。まだ、ドラゴンフライをコウキにぶつけるのは早かったりします。


話題のAIイラスト。カクヨムでは表紙と挿絵が不可能なのであまり意味がないかもしれません。

ぜひとも、運営様には表紙挿絵機能の実装をお願いしたいです。

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