第21話 幻蝶迷宮

 チユキ達は船の残骸で作られた砦へと入る。

 砦の入り口は狭く、通路もまた狭かった。

 そのため、隊列は縦に長くなる。

 砦の中は暗いがチユキの浮遊する魔法の光球で歩く周囲を見る事は出来る。

 通路の壁はすぐにも崩れそうなボロボロの木材は脆そうで威力の高い魔法は使えなさそうである。

 最初はブイルが連れて来た戦士達が先頭だったが、危険すぎるのでチユキ達が先頭に立った。

 コウキとオズとボームの3名の少年はチユキ達の側にいる。

 こうなった以上はチユキ達の側にいる方が不安はないだろう。

 ただその少年達の後ろにはブイルとソガスが並んで歩き、ブイルはコウキ達が逃げ出さないように見張っているような感じであった。


「うう~、やっぱり、何だか不安だな……。怖い魔物が待ち構えていたらどうしよう?」


 ボームは不安そうな声を出す。


「がははは、それなら大丈夫だ、少年よ。我々にはシロネ様が付いている。シロネ様は剣技だけなら勇者様を超えるらしいからね。おそらくは世界で一番の剣士だろう。そんなシロネ様が付いているんだから心配いらぬぞ」


 そう答えたのは一緒に付いて来た戦士だ。

 彼はシロネの崇拝者で、シロネから少しだけ剣技を学んだ事もある。


「あの~、それは言いすぎだよ。私よりも上の剣士はいるよ。ナルゴルにさ……」


 側で聞いていたシロネは頬を掻いて言う。

 

「ナルゴルに……。もしや暗黒騎士ですか?」

「うん、そう……。もう、さすがに敵わないかな。昔は私の方が強かったのにな」


 シロネは寂しそうに言う。

 シロネと暗黒騎士の彼は同じ剣を学んでいた。

 そして、子どもの頃はシロネの方が強かったらしい。

 もっとも、今は勝てないだろう。


「ねえ、チユキさん。ちょっとまずいかも、精霊さん達が応えてくれないの……」


 リノが周囲を見ながら言う。

 チユキはその言葉に驚く

 リノは相手に精霊使いがいても、格下の相手ならばその支配を奪い取ることが出来る。

 しかし、それが出来ない。

 つまり、ほぼ同格か格上の相手がいる事になる。


「それはヤバいわね。リノさんよりも強そう?」

「ううん。それはわからない。結界が張られていて相手に有利な状況だから。でも、それでもかなりの力だよ」


 リノは断言する。

 だとしたら撤退した方が良いかもしれない。

 チユキがそう思った時だった。


「チユキさん。見て前の方が光っている。何かあるみたい」

 

 シロネが前方を指さす。

 チユキが作った魔法の光とは違う光が前方から見える。


「一応確認してみましょうか……」


 チユキ達は警戒しながら進む。


「これは?」


 それも見た誰かが声を出す。

 進んだ先は少し広い部屋になっており、そこには光る花が咲き溢れていた。


「なんとこれは美しい……」


 部屋に入った戦士達が口々に感嘆の言葉を出す。



「ねえ、チユキさん……」

「わかっているわ、リノさん……。撤退しないとまずいわね」


 チユキは頷く。

 チユキはこの光る花に見覚えがあった。

 この花はナルゴルで咲く花だ。

 なぜ、この花がここに咲いているのか悪い予感しかしない。


「うわ~、綺麗な花だな~。妹達に持って帰ろう」

「ちょっと、ボーム」

「おい、ボーム」



 コウキとオズが止める間もなくボームが前に出る。

 

「待ちな……」


 チユキが呼び戻そうとした時だった。

 光る蝶が目の前を飛ぶ。


「えっ、これって!?」


 リノが驚く。

 何時の間に現れたのか気が付けば部屋中に沢山の光る蝶が飛んでいるではないか。

 

(この蝶は!? という事は!)


 チユキは光る蝶を見て驚く。

 チユキだけではない。

 戦士達も蝶につられて部屋に入り、幻想的な光景に驚く声を出す。


「さて、よく来たな。待っていたぞ」


 突然の声と共に花畑の中心に誰かが現れる。

 それは銀髪の美しい少女であった。

 その場にいた者達は突然現れた少女に驚き、その美しさに見惚れてしまい動けなくなる。



「現れたわね、クーナ! これは貴方の仕業ね!? どういうつもり!?」


 シロネが剣を抜き少女に向ける。

 

 白銀の魔女クーナ。


 過去に何度も会っている少女である。

 その彼女がどうしてここにいるのだろうか?

 何となく想像が出来るが、考えたくもなかった。


「吠えるな、シロネ。これは予定になかったが……。少しだけ劇に付き合ってもらうぞ」


 クーナがそう言った時だった。

 周囲の蝶がさらに増える。

 

「みんな逃げて!」


 リノが叫ぶが遅く、チユキとシロネとリノを残し、一緒に来た者達は全員消えてしまう。


「ちょっと! みんなをどこにやったのよ!」


 シロネは詰め寄るが、蝶を使いクーナは距離を取る。


「安心しろ、全員この中だ。クーナは殺さん。だが、今この中には蜥蜴も来ているぞ、急がなくてはあの子を除き全員死ぬかもしれんな。まあ、クーナにはどうでも良いことだ。それでは行かせてもらうぞ」

「待ちなさい! クーナ!」


 シロネは再びクーナに詰め寄ろうとするが、寸前で姿を消されてしまう。


「逃げられちゃった。何をしようとしているのかな?」

「わからない。でも、クロキの企みじゃないと思う……。クロキはこんな事をしない」


 リノの問いにシロネはそう断言する。

 それはチユキも同じである。

 何度か会ったが、彼はこんな事をしなさそうだ。

 

「まあ、多分そうなのでしょうね。でも、一度戻ってレイジ君を呼んだ方が良いわね。連れ去られた人達が気になるけど……」


 正直に言うとチユキ達だけでは対処できない。 

 最初から仲間で最強のレイジを連れて来るべきであった。

 

「私は残るよ。みんなが心配だから……」

「でも、危険よ。シロネさん。彼女の相手を1人だけでするなんて」

「ううん、あの子自身は動かないよ。多分……。彼女の言う通り、危険なのはリザードマンだけだと思う」


 シロネは首を振って答える。

 どこか確信を持っているようだ。


「チユキさん。レイジさんはリノが呼んで来るよ。この中だと精霊さんも答えてくれないし……。チユキさんはシロネさんに付いてあげて」


 なおも止めようとするチユキをリノが止める。

 精霊と交信できないリノはほとんどの力が使えない。

 シロネだけでは心配なのでチユキも残るべきであり、呼びに行くのはリノに任せた方が良さそうだ。


「わかったわ、リノさん。お願いね」

「うん、リノに任せて」


 リノは笑うとは来た道を戻る。

 

「あの子達は無事かしら?」


 チユキはコウキ達の事を考える。

 エルフ達も付いて来ていたはずだが、あっさり攫われてしまった。

 まあクーナが相手では抵抗するのも無理だろう。

 チユキは蝶が消えた花園を見て心配するのだった。 




 

★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 自宅のパソコンの調子が悪いです。

 すごく遅い。

 今回はクロキとコウキの再会まで書く予定でしたが、ちょっとこれ以上は無理です。

 それに何か変換もおかしい。

 なぜその変換になるとツッコミをしたくなるような変換がされます。

 理由はなんでしょうね……。


 ちなみに先週の台風、自分は無事です。窓も我ませんでした。

 静岡の方は大乗部でしょうか?

 

 以上のようになぜそうなる?というような漢字に変換されます……。

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