第18話 魔術師の行方

 チユキ達はゴシションの部屋へと行く。

 理由はゴシションに邪神崇拝の疑いがあるからだ。

 ソガスが連れて来たのはおそらく魔女狩人だろうとチユキは推測する。

 名前はブイルといって、正直に言うとあまり好きになれない相手だ。

 彼らは自身の信仰を第一に考え、滞在している国の法を無視する傾向にある。

 そのため狂信者と呼ばれる事もある。

 正直、彼らにはこの国に滞在して欲しくない。

 側にいるソガスも申し訳なさそうにしている。

 おそらくブイルが無理やり押し掛けたのだろう。

 そして、ゴシションに貸している部屋の前まで来た時だった。

 部屋の扉が開き誰かが出てくる。


「えっ、コウキ君? なんで?」


 チユキは扉から出て来た人物を見て驚く。

 扉から出て来たのはコウキであった。


「えっ、えーと、ゴシション先生にお会いしたくて……。その……」


 コウキはチユキから目を反らして言う。


「ほう、その子は何者ですかな? 調べさせてもらってもよろしいですか?」


 チユキの後ろにいたブイルが前に出て来て鋭い目を向ける。


「ちょっと、コウキ君は怪しくないわよ! ねえコウキ君、どうしてゴシション先生の部屋にいたの?」


 チユキは慌ててコウキを弁護する。

 しかし、なぜゴシションの部屋にいたのかわからないので理由を聞く。


「は、はい。ゴシション先生の事が気になって、あの日からずっとお会いしていないですし……」


 コウキは静かに答える。

 ゴシションが嘘を吐いていると言っていた事をチユキは思い出す。

 それからゴシションが留守にしている。

 あまりにも帰りが遅い。

 確かに気になるとチユキも思う。


「そうね、私も気になるわ。うん、それは?」


 チユキはコウキが手に持っているものが目に入る。


「むっ、これは暗黒騎士の像? なぜ、子どもがそれを持っている?」


 ブイルがコウキを問い詰める。


「いや、その……。ゴシション先生の部屋にあったんです。ゴシション先生がいなくなった原因にこの像が関係しているかもと思って……」

「そうなの? 確かに気になるわね」


 コウキはそう言って弁解するとチユキは相槌を打つ。

 どうして、暗黒騎士の像をゴシションが持っていたのか気になる。


「本当かね? 私にはそうは思えないがね」


 ブイルは疑わしそうにコウキを見る。

 間違いなくコウキを疑っている。


「ちょっと、コウキを疑っているの?」

「もちろんです。黒髪の賢者殿。彼自身が自覚なくても、知らないうちに邪教に染まる事はありますからな」


 ブイルは堂々と言う。


「あの~。もしかして、彼を取り調べとかするつもりっすか? そんな事はさせられないっすよ」


 後ろからついてきたナオが険しい顔をする。


「ナオさんの言う通りよ。そもそも彼は女神から直接ここに預けられた子。彼が邪神を崇拝するはずはないわ。まあ、その暗黒騎士が邪神かどうかと言われたら、違う気がするけど……」


 チユキとしては何度から助けられたので暗黒騎士を邪神と言い難い。

 しかし、ブイルにとってはそんなチユキの考え等知ったことではないでしょう。


「そういえば、彼は大畑殿が殺された時に、あの屋敷にいましたな」

「ソガス司祭!」


 ソガスが余計な事を言うのでチユキは彼を睨む。


「ほう、それはますます怪しい……。神に選ばれた子とは思えませぬな。まさか、この少年があの事件の実行犯である可能性もありますな」


 ブイルは目を細めて言う。


「ちょっとソガス司祭!」


 チユキはソガスを睨む。


「い、いや、チユキ様。そうは言われましても。知らぬうちに手を貸している事はあるでしょうし……」


 ソガスは弁解するように言う。


「いや、待つっすよ。そもそも、ゴシション先生が犯人だとかを決めつけるのは早いっすよ。まずはゴシション先生から話を聞くっすよ」


 ナオはそう言ってゴシションを庇う。


「その通りだわ。まずはゴシション先生を探すべきだわ」

 

 チユキは再び頷く。


「ふむ……。その少年をあくまで庇う。さてどうしましょう……。そうだ、彼にもゴシションとかいう魔術師を探す手伝いをしてもらいましょう。それでどうですか?」


 ブイルは少し考えるとそう言う。


「ちょっと、危険な事をさせるつもり!」

「待ってください! チユキ様!」


 コウキはチユキが何か言おうとするのを止める。


「自分も行かせて下さい」


 コウキははっきりとそう言う。


「良い返事ですな。自らの潔白を行動で示そうとするのを止めるべきではありませんな」

 

 ブイルは何かを企んでいるような顔をして言う。


「もう、コウキ君は潔白だと言うのに……。あっ、そうだわ、ソガス司祭。あの日大畑殿が身に着けていた首飾りを調べさせてもらえません? 虫博士のファブル殿が気になる事を言っていたので、それを調べてからでも良いですか? それを調べたら大畑殿が殺された方法がわかって、その事件とは無関係だとわかるかもしれません」


 チユキは手を叩いて言う。

 ファブルが言う通り、首飾りが宝石虫ならば、それが殺害方法かもしれない。

 そして、それを調べたら、実行犯が何者かがわかって、コウキが潔白である事の証明になるかもしれない。


「わかりました。それでは今から行きましょうか」

「いえ、今日はやめましょう。首飾りの検証にはファブル殿にも立ち会ってもらいたしね。彼は今休息中のはずだもの」


 今すぐにでも行きたいが、ファブルはずっと実質軟禁中であり、疲れているはずだ。

 首飾りが宝石虫ならば彼に立会いが必要であり、無理はさせるわけにはいかない。


「そうですか、ブイル殿もそれで良いですか?」

「ああ、構わんよ。少年命拾いをしたな」


 ブイルはそう言ってコウキを見る。

 コウキはずっと項垂れたままであった。



 コウキは部屋へと戻る。

 大変な事になったと思った。

 今度は自身が疑われたのだ。

 ゴシションの部屋に無断で入った事が疑われる原因であり、自身の行動が招いた事であった。

 像は没収されてしまった。

 コウキが解放された後、チユキ達はゴシションの部屋を捜査し始めた。

 もしかすると、何かを見つけるかもしれない。

 

(あの道化師は何者だろう。自分の父親の事を知っていた)


 コウキは道化師の事を話さなかった。

 自身の父親に関する事はできるだけ知られたくなかったのだ。

 あの道化師は暗黒騎士の像に何かをしていた。

 その理由はわからないままだ。


(それにしても、あの人……。すごい殺気だったな……)


 次にコウキはソガスと一緒にいた者の事を考える。

 ブイルは敵意を隠そうともしなかった。

 オーディス信徒の中には邪教徒を絶対に許さない者もいると聞いた事があった。

 明日はオーディス神殿で首飾りを見て、その後ゴシションを探す予定だ。

 耕作地の奥は魔物が多い地域なので、危険である。

 しかし、自身の潔白のためコウキはそこに向かわなくてはいけない。

 コウキは明日に向けて用意をするのだった。 



 ゴシションの部屋には様々な本があった。

 その中には邪神に関するものもある。

 だが、チユキとしてはそれでゴシションが怪しいとはならなかった。

 そもそも、魔術そのものが邪神である魔界の宰相ルーガスが編み出したものである。

 そのため、オーディスの司祭と魔術師は相性が元々悪いのだ。

 魔術師協会という互助組織がなければ、多くの魔術師が魔女狩人によって狩られていただろう。

 現に魔術師協会に属さない魔術師は犯罪と同じ扱いをされる事が多いのである。

 

(まあ、彼らから見たら、魔術師なんて全員邪教徒よね)


 チユキは賢者サビーナの事を思い出す。

 彼女の父親は悪魔であり、マギウスに保護される前は魔女として実際に狩られそうになっていた。

 魔術師協会はオーディス教団と協定を結び協会の会員には手を出させないようにしている。

 そのかわり、人間社会への発展に貢献する事を約束した。

 しかし、オーディス信徒の中にはそれを不満に思う者もいて、影で魔術師を殺す者もいるそうだ。

 ブイルがそのような者かはわからないが、注意が必要であった。

 

「これだけの禁書を持っているとは、やはりゴシションとかいう魔術師は邪教の信徒のようですな」


 ブイルはルーガスの書を持って言う。

 チユキとしてはそれだけで邪教徒とは言えないと言いたかった。

 基本的に広く普及している魔術の教本はルーガスの書を要約したものだ。

 その原本を持っていても魔術師ならばおかしくない。

 現にチユキだって持っているのだ。


「ブイル殿。貴方はあくまで外から来られた方です。ゴシション先生を裁く権利はありません」


 チユキは釘を刺すように言う。

 外から来た者が勝手に警察と同じ事をするのを認めるつもりはない。


「むう、わかっておりますぞ。しかし、邪教徒は抹殺すべきです。そこは正しい裁きをされるものと思っております」


 ブイルは顔をしかめて言う。


「あの……。チユキ様もブイル殿も穏便に」


 ソガスが困った表情で言う。

 チユキとしては面白くなかった。


(一体誰が、こんな男に情報を与えたのよ)


 チユキはそんな事を考える。

 誰がブイルに通報したのだろう?

 チユキは姿を見せない通報者に憤りを覚える。


(それにしても、なぜゴシション先生は暗黒騎士の像を持っていたのかしら? まあ、実際に会って聞いてみないとわからないわね)


 チユキはコウキから没収した暗黒騎士の像を見ながらそう思うのだった。







 





★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新です。

 ようやく、夜が過ごしやすくなりました。

 

 今度はコウキが疑われています。

 さて真犯人は誰でしょう。

 一応ヒントらしきものは出していますが、ぶっちゃけ推理要素はほとんどなかったりします。

 

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