第17話 道化師との出会い

 魔術師ゴシションの部屋。

 コウキの目の前に道化師が立っている。

 道化師は仮面を被っているので表情はわからない。

 しかし、笑っている仮面と同様に笑っているようであった。


「ご、ごめんなさい。勝手に入ってしまって……」


 コウキは頭を下げる。

 目の前の道化師はゴシションの仲間かもしれない。

 コウキは勝手に入った事を謝る。


「別にかまわないよ~。ふふ、それにしても、君がその像を取るとはね~」


 道化師は楽しそうに言う。


「あの、その像は?」

「ふふ、聞いたことはないかな。光の勇者を倒した暗黒騎士様の事をね~」


 道化師は踊りながら言う。

 暗黒騎士の事はコウキももちろん知っている。

 暗いナルゴルの地を支配する魔王の配下。

 その力は凄まじく光の勇者すら退けたという怖ろしい奴だ。

 なぜその像がここにあるのかコウキは気になる。

 

「あのゴシション先生は魔王を信仰していたのですか?」

「さて、どうだろうねえ。わからないなあ。ただ、聞いたところによると魔術師は何も信仰しないらしいよ。信じるのは自己の理性だけみたいだからね」

「そうですか……」


 コウキはその話を聞いて少し安心する。


「それにしてもさあ、君は父親の事を知っているのかな?」


 急に父親の事を聞かれてコウキは戸惑う。

 コウキは父親の事をあまり知らない。

 母であるレーナが何も語らず、また父親のところには行かないでとだけ言われている。

 その父親はナルゴルにいる。

 ナルゴルは悪人が行くところ、それが常識だ。

 

(ナルゴルにいる父親。自分の父親は悪い奴だった……)


 コウキは首を振る。

 悪人である父親の事はなるべくなら語りたくない。

 知りたくもなかった。


「知りません。知りたいとも思わないです」


 コウキははっきりと言う。

 これまで、コウキは両親の事をなるべく話さないようにしてきた。

 言えば父親の事を聞かれるかもしれないからだ。

 だから何も語らないようにしてきた。


「そう、僕は知っているよ、君の父親の事。教えてあげようか?」


 道化師は何かを含むように笑うとコウキの顔に自身の顔を寄せる。


「いえ、知りたくないです」


 コウキは逃げるように下がり、距離を取るとはっきりと答える。


(こいつは何なのだろう? 自分の父親の事を知っている?)


 そう思い道化師の顔を見る。


「でもいつか引き合うよ。きっとね。いずれ、君の目の前に暗黒騎士が現れる。その時君は何を選択するのかな。くししししし」


 道化師は楽しそうに踊る。

 

「あの、ところで貴方はいったい……。ゴシション先生の知り合いなのですか?」


 コウキは道化師を問い詰める。

 見た目どおり怪しすぎる者だ。

 ここにいたのだからゴシションの仲間だと思うのが当然だろう。


「さて、どうだろうね。僕はただの手伝いだよ。それにしても、まさか君が捜査しているとは思わなかったよ。これは面白いね~」


 道化師は笑う。

 それは何かを企んでいるような表情であった。

 

「さて、そろそろ行くよ。また会おうね王子様~」


 道化師はそう言うと倒れる。

 コウキは慌ててその体を支える。

 思った以上に軽い。

 コウキは道化師の仮面を外す。


「えっ? 人形? どういう事?」


 仮面の下は人形の顔であった。

 つまり、コウキは人形と話をしていた事になる。

 訳のわからないままコウキは部屋に取り残されるのだった。





 チユキはコウキ達が去った後、一人部屋に残る。


「ナオさん。どうだった?」


 チユキはこの部屋に入って来た者に声をかける。

 すると突然部屋の中央にナオが姿を現す。

 ナオが気配を隠したなら、気付くのは容易ではない。

 チユキが気付いたのはナオがわざと気付かせたからだ。


「わからないっすね、ハムレさんの頼んだ暗殺者は事件前に潰したっす。残党がいるのなら別っすが」


 ナオは首を振る。

 ナオはハムレが依頼した暗殺者を捜索していた。しかし、成果はなかったようだ。

 

「そう、それじゃあ実行犯は見つからなかったというわけね」


 チユキは溜息を吐く。

 これで実行犯が見つかればオズとその妹を返す事はできる。

 しかし、実行犯が見つからない以上はオズとその妹が実行犯と見られるかもしれなかった。

 これでは2人を返す事はできないだろう。


「まだまだ、油断はできないっすね。そもそも、どうやって殺したのかわからないっすよ」

「それなんだけど、ナオさん。実は虫の捜査を頼んでいたファブル殿から、面白い事を聞いたの」


 チユキはファブルから聞いた事を話す。


「宝石虫っすか……。それじゃあ、その首飾りを調べた方が良いっすね。今どこにあるっすか?」

「オーディス神殿よ、あの時大畑殿が着ていた服は重要証拠として、ソガス司祭が預かっているわ」

「なるほど、確かハムレさんも一緒に神殿に預かってもらっているっすよね。まあ、彼が犯人とは限らないっすけど」

「そうね。でもハムレを犯人という事にしておいた方が良いわね。これで大畑家の御家騒動という事にしておけば、貴族達が争わなくてすむわ」


 チユキは少し安心する。

 大畑家の御家騒動であれば、貴族達は争いをしなくなる。

 もし、別に犯人がいるとしても、ハムレを犯人としておいたほうが得なのである。

 だから、ハムレを犯人として公表する予定なのだ。


「確かにその方が良いっすね。でも、何から何までオーディス神殿に頼みまくりっすね」

「まあね、この宮殿を犯罪捜査の拠点にしたくないから仕方がないわ。正直に言うと犯罪捜査は私達がやりたくはないし、別の捜査機関を作りたいけど……。難しいわ」


 チユキは頭を振る。

 そもそも、犯罪捜査は部下達に任せたい。

 しかし、そのための人材育成が進んでいなかった。そのため、オーディス神殿に頼り切りになる。

 ナオはその事を問題視しているようであった。


「そういえば、ナオさん。耕作地で起きている事は知っているかしら?」

「耕作地? 何があったっすか?」


 チユキはナオに耕作地で起きている事を説明する。


「そんな事があったっすか……。一見普通に見えるっすから、気付かなかったっすよ……」


 ナオは申し訳なさそうに言う。

 耕作地は一見普通の風景にしか見えなかった。

 ナオといえど常に何かを観察するのは難しい。

 偵察能力に優れたナオの目をもってしても耕作地で起きている事はわからなかったようだ。

  

「そう、ナオさんでも気付かないなんて。今回の事件、私達の裏をかいているわ。今までの相手とは違うみたいね」


 チユキは考える。

 今までこんな事はなく戸惑う。

 そんな時だった。

 部屋の外から侍女が来客を告げる。


「チユキ様。ソガス司祭様がお見えです」

「ソガス司祭が? まあ、良いわ会いましょう」


 チユキは首を傾げて言う。

 ソガスとは面会の予定はない。

 だけど、ソガスにはハムレを預かってもらっている。

 その事かもしれないので入ってもらう事にする。


「お目通りありがとうございます。チユキ様」


 扉を開けるとソガスとオーディスの信徒らしき者が2人入ってくる。


「どうしたのですか? ソガス司祭? 預かってもらっているハムレ殿に何かあったのですか?」


 チユキはハムレの事を聞く。

 ハムレをオーディス神殿に預けているのは彼が大畑の報復にあうかもしれないからである。

 制裁を加えるにしても、法に従って行うべきである。

 私刑は許すべきではない。


「いえ、ハムレ殿の事ではなくですな……。説明してくれるか?」


 そう言ってソガスは後ろにいるものに説明を求める。


「実はゴシションという魔術師に邪教崇拝の疑いがありまして、その真偽を確かめに来たのです。どうか、その者と合わせていただきたい」


 オーディスの信徒らしき者が説明する。

 もしかするとソガスの後ろにいるのはオーディス信徒の異端審問官かもしれないとチユキは推測する。


「ゴシション先生が? そういえばゴシション先生はどこに行ったのかしら?」


 ゴシションは耕作地へ行ってから戻ってきてはいない。

 チユキも行方が気になるところであった。


「もし、おられないのでしたら、部屋を調べさせていただきたい」

 

 ソガスの側にいたオーディスの信徒はそう言う。


「はあ、仕方がないわね……」


 チユキは溜息を吐くのだった。

 




★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新です。

 AIでイラストを作成できる記事を見て、世の中の進歩はすごいなと思いました。

 しかし、商業利用はダメみたいですね。

 ちょっと残念だったりします。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る