第3話 子ども達の事情

 剣の乙女シロネと黒髪の賢者チユキと言葉を交わしたオズの元へと少年達は集まる。

 戦士の修練所へと通っている少年達は24名。

 いずれもそれなりの氏族に連なる子だ。

 さすがに全ての希望者を入れる事は出来ないので、一定の要件を満たした子を入れたのである。

 そんな中でコウキだけは違った。

 そもそも、コウキはどこの氏族にも属していない。

 親の影響か子どももある程度は家柄を重視する。

 コウキは母親から自身の出自を話す事を禁じられているし、父親の事も知らない。

 レーナ神殿の司祭に拾われた子という事になっている。

 そのためか、他の子との間に壁が出来てしまっていた。

 唯一ボームという小太りの少年だけはコウキと仲良くなった。

 ボームの親は岩中という新興貴族に仕えている。

 その岩中の当主はボームを修練所に通えるようにしてくれた。

 親も新興貴族に仕える者であり、ボームの両親は平民と変わらない。

 由緒ある氏族の出ではないためか、ボームも他の子に遠慮している部分もあり、2人は仲良くなったのである。

 ただ、普通だったらいじめられる境遇にある2人だが、そうはならなかった。

 それはオズの影響である。 

 オズは大畑というエルド最大の貴族に属する貴公子である。

 しかし、家柄を鼻にかける事はなく、コウキにも礼儀正しく接する。

 もっとも家柄の良い少年がそうなので他の子もそれに倣ったのである。

 また、努力家でコウキと並ぶ剣の腕前であり、オズは少年達のリーダー的存在となった。

 

「良いなあ、オズ! シロネ様と話せて! さすが、大畑様の所の貴公子だな!」


 1人の少年がそう言うとオズの周りにいる少年達が頷く。


「はは、そうかな? まあでもシロネ様が気にしてくれると嬉しいな」


 オズは少し笑うとそう答える。

 少し離れた所で見ていたコウキはその様子を見ていつも不思議に思う。

 オズは貴公子と呼ばれる事を嫌がっているように見えるのだ。


「オズは謙虚だなあ。それが良いんだけどな」


 少年達はオズを讃える。

 そんな時、コウキのオズの目が合う。

 すると、オズが近づいて来る。


「コウ! 君はシロネ様やチユキ様と話さなくて良いのかい?」


 近づいて来たオズは突然そう言う。

 横にいたボームがなぜオズがコウキにそう言ったのかわからず、呆けた顔をする。

 

「いや、別に……」


 コウキはなんと言って良いかわからず、そう答える。

 実はコウキはシロネやチユキと何度も話しをしている。

 むしろ、かなりお世話になっていると言っても良い。

 最初はそこまで会話する事がなかったが、エルフに攫われた事件の後、かなりの頻度で会うようになった。

 だけど、コウキはそれを誰にも言うつもりはなかった。

 なぜなら、お世話になっているハウレナ司祭が目立つ行動はしないように言っていて、またコウキもひけらかすような事をしたくなかったからだ。

 

(もしかして、オズは知っているのかな)


 コウキは疑問に思う。

 オズの問いはコウキの事情を知っているようであった。


「どうしたんだ? オズ?」


 コウキの所に行ったオズを不思議に思った少年達がこちらに来る。


「いや、何でもないよ。ああ、そうだみんな。今度我が家に来ないか? 夕食を御馳走するよ」


 オズがそう言うと少年達は一瞬顔を見合わせるとほぼ全員が行くと言い出す。

 大貴族から誘われたのだから、当然であった。


「コウ、ボーム。君達も来て欲しい。どうかな?」


 オズはお願いするように言う。

 コウキはそのお願いに切羽詰まった何かを感じた。

 

「えっと、御当主様に相談してから決めるよ、ごめんね、オズ」


 ボームが謝る。

 ボームの当主と大畑の家はあまり仲良くないと聞いている。

 だから、ボームは当主に行って良いか聞かなくてはいけなかった。


「自分も聞いてみるよ。神殿の仕事も手伝わないといけないから……」


 コウキもそう言う。

 事実、コウキが仕事をしているのも本当だった。

 また、それとは別にコウキを離してくれない者もいる。

 だから、行って良いか聞かなくてならない。


「そうなんだ……。家の事情があるなら仕方がない。でも、良い返事を待っているよ」


 オズはそう言ってコウキを見る。

 その目はどこか不安そうであった。



 修練所での訓練も終わりコウキはレーナ神殿へと戻る。

 エルドのレーナ神殿は勇者の宮殿の庭の一角にある。

 出来た当初は司祭であるハウレナと1人の使用人がいるだけの小さな神殿であった。

 しかし、コウキが住むようになり、それからさらに住む者が増えて、かなり狭くなっている。


「お帰りなさい。コウキさん」


 神殿に入るとルウシエンが出迎える。

 エルフの姫である彼女も今はレーナ神殿の侍祭である。

 最初は影にいるように言われていたが、それだとあまりに不便なので表に出る許可を貰った。

 さすがにもう攫う事はしない様子あり、侍祭の仕事も特に嫌ではないらしい。

 ただ物珍しいエルフの神官を見に貴族達が訪れるのが、面倒らしかった。

 

「ただいま帰りました。ルウ姉さん」


 コウキは練習用の剣を棚に置き、帰って来た事を報告する。

 ルウシエンは優しく綺麗であり、攫うのでなければ良いお姉さんである。

 コウキとしても嫌がる理由はない。

 だから、普通に接する。


「今日はどうでしたか?」

「あの、それなのですが、ルウ姉さん。オズから晩餐に誘われました。行っても良いでしょうか?」

「オズ? それは何ですか?」

「えっと……、前に話していた修練所で共に学んでいる者です」

「えっ、そうなの? ごめんなさい? 中々覚えられなくて」


 ルウシエンは謝る。

 オズの名前を出したのは3度目であり、覚える気がないようであった。


「あの、それで行っても良いのでしょうか?」

「それはダメですよ、何となく怪しそうです。もしかするとコウキさんを捕まえて閉じ込めるかもしれません」


 チユキが聞いていたら、「どの口がそんな事を言うのよ」と言われそうな事をルウシエンは口にする。


「あの、姫様……。それは不味いんじゃあ……?」


 突然空中から何者かが姿を見せる。

 ルウシエンに仕える風エルフナパイアのピアラである。

 彼女は姿隠し魔法が得意であり、普段姿を見せない。

 姿を見せない状態でエルドの王宮の御菓子をつまみ食いしているらしかった。


「何が不味いの、ピアラ?」

「いや~。姫様。何度か修練所の様子を見に行ってたのだけど。そのオズって人間ヤーフの子は結構、美形……、じゃなくて貴族とかのらしいから、下手に断ると王子様が修練所に行きにくくなるんじゃないかなと……」


 ルウシエンに睨まれたピアラは怯えながら何とか説明する。

 実はピアラは何度か姿を消して修練所に様子を見に来ている。

 そのため、ルウシエンよりもコウキの事情に詳しかったりする。


「貴族? 人間ヤーフの貴族なんて、無視しても良いんじゃない?」


 ルウシエンは首を傾げる。


「姫様。ピアラ殿の言われる通りです。一度勇者様達に伺った方が宜しいのではないでしょうか?」


 奥の部屋にいた誰かが出てくる。

 山エルフオレイアドのオレオラである。

 声が聞こえていたのだろう。奥の部屋から出てくる。

 ルウシエン、ピアラと共にこのレーナ神殿に住むエルフであった。

 もう一名いるのだが、それは樹海にあるエルフの都に報告に行っていていなかったりする。


「オレオラ、貴方まで。貴方達がそう言うのなら、仕方がない。気が進まないけどそうするしかないわね」


 ピアラとオレオラから説得され、ルウシエンは渋々と頷く。

 前の事件以来、ルウシエンとレイジを除く勇者達との仲は最悪であった。

 そのため、ルウシエンは聞きに行きたくないのである。


「コウキ!」


 そんな時だった。突然小さい影が神殿に入って来て、コウキに抱き着く。


「サーナ様!? 申し訳ないです。今日は遅くなったので行くのが遅くなりました」


 コウキは抱き着いてきた小さな影に謝る。

 抱き着いてきたのは光の勇者レイジと聖女サホコの間に生まれた女の子であるサーナだ。

 この間まで赤ん坊だと思ったのにすでに走れるまでになっている。

 チユキが言うには凄まじく成長が速いらしい。

 両親に似てすごく綺麗であり、このまま育てば美少女に育つだろう。

 赤ん坊の頃からコウキに懐いていて、今もそれは変わらない。

 サーナはコウキが会いに来てくれないと機嫌が悪くなるので、毎日顔を見せるようにしている。

 それが今日はまだだったのである。

 抱き着いたサーナはルウシエンを見ると不機嫌そうに横を見る。

 サーナとルウシエンの仲は悪い。

 原因は自分だと知っているので、コウキは居心地が悪くなる。


「ごめんね、コウキ君。サーナが邪魔をしちゃって」


 サーナの後から母親であるサホコが入って来る。

 サホコは優しく穏やかな女性で、エルドに住む者達から聖女と呼ばれている。

 一緒に来たようだ。

 サホコを見てコウキは少し気が楽になる。

 さすがのサーナも母親の前では大人しいので、ルウシエンと喧嘩はしない。


「いえ、サホコ様。ああ、そうだ。サホコ様に伺いたい事がございます」

「私に?」

「はい」


 コウキは頷くとルウシエンに代わって今日の事を話す。

 サホコは勇者の仲間であり、彼女に聞いても問題ないはずである。

 オズの頼みを無下に断るのは気が引けた。

 まだ、子どもではあるが、コウキの置かれた状況は大人の事情が大きく関わっているのであった。







★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新です。今回はまだまだ事件は起こっていません。


 ちなみにGWなのに何も創作活動が何も出来ませんでした。

 いや、GWだからこそ予定が急に入るのかもしれません( ;∀;)


 

 ルウシエン再登場。

 またコウキ達は子どもなのに大人の事情が大きく関わっています。

 魔物や、身分制があるこの世界、子どもであっても容赦はなかったりします。

 すぐに大人にならなければならない……。悲しいです。

 

 本当は自分が子どもらしい子どもを書けないだけなんですけどね……(*ノωノ)


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