第18話 魔導書の世界

 チユキ達は禁書庫へと入る。

 受付に誰もいなかったのが気になるが、構わず先に進むことにする。


「すごいわ! 魔導書グリモアがこんなに沢山! これ1冊だけでも、相当なものよ!」


 サビーナが驚嘆の声を出す。

 チユキも同じ思いだ。

 この書庫の本の全てから魔力を感じる。

 この書庫にある本は、ただ本ではなく魔導書なのである。

 1冊だけでもかなりの希少だというのに、それが大量にここにあるのだ。

 魔術を極めたいと思う魔術師ならば興奮するのも当然だろう。


「ふふ、さすがね。さすが知識神トトナの蔵書。あの御方が欲しがるわけだわ」


 サビーナは恍惚とした表情で周囲を見る。

 

「ねえ、サビーナさん。あの御方って誰のことかしら?」


 側にいたキョウカが首を傾げて聞く。


「あっ!? いえ!? 気にしないで!? なんでもないわ! おほほほ! そうだわ、迷宮になっているみたいだし、手分けして進んだ方が良いのじゃない?」


 口を滑らせた事に気付いたサビーナが誤魔化すように笑う。

 

「それはやめておいた方が良いと思うわ、サビーナ殿。この首輪は1つしかないのだから、一緒に進んだ方が安全よ」


 チユキはマギウスから預かった首飾りを見せる。

 禁書庫を安全に進むにはこの首飾りが必要らしい。

 つまり、首飾りがないと危険という事だ。

 首飾りが1つしかない以上、一緒に進むしかない。


「うっ、確かに。何か危険な事があるらしいわね。もしかすると魔導書が襲ってくるかもしれないわ?」


 チユキにそう言われてサビーナは残念そうな顔をする。

 魔導書が襲ってくる事はあり得る事であった。

 意思を持つセンシェントソード等、意思を持つ道具がこの世界にはある。

 魔導書が意思を持ち許可なく入って来た者に襲ってくる可能性があった。

 もしかすると書かれた内容の魔法を使ってくるかもしれない。

 反撃して魔導書を破ってしまったら何のために入って来たのかわからないだろう。


「ねえ、サビーナさん。貴方、何か目当ての本があるのでしょう? これが終わったら、クロキさんに頼んでみたらいかがかしら?」


 キョウカはサビーナが残念そうにしているので提案する。


「あら、それなら……。うーん、ええと、やっぱり、それは無理ね」


 サビーナは一瞬だけ喜ぶが、すぐに否定する。


「何で無理なのか、聞きたいわね……」


 チユキは厳しい目をサビーナに向ける。

 サビーナが求めているものはチユキ達に頼みたくないみたいであった。

 そんな時だった。

 周囲の本棚が動き出す。

 

「何? 何が起こっているのかしら?」

「落ち着いてキョウカさん。集まって分断されないようにして」


 チユキ達は集まる。

 本棚の動きが止まると奥へと続く道が出来る。


「どうやら案内してくれるみたいね……。行きましょうか?」

「罠かもしれないわよ」


 サビーナが警戒して言う…


「いえ、ここは先に行くべきですわ。私達はここに入った怪しい方々を捕まえるために入ったのですもの。堂々とすべきですわよ。それにクロキさんを待たせては行けませんわ」


 キョウカはそう言うと先に進む。


「中々度胸があるわね」

「確かに……。でも、キョウカさんの勘は当たるみたいだし。私達も行きましょう」


 チユキは後に続く。

 キョウカは直感で動く傾向がある。

 理性を第一とするチユキとは真逆であった。

 しかし、その行動は正しい事が多く。

 チユキはキョウカの行動を見直すことにした。

 先に進んだ時だった。

 クロキの姿が見える。

 その周囲には複数の人影。

 ただ、その半数以上は鎖に縛られている。

 また、知っている者もいる。


「クロキさんお待たせいたしましたわ」


 クロキの姿を見たキョウカはその姿に抱きつく。


「あの〜、キョウカさん。そんなに抱きつかれると、その〜」


 抱きつかれたクロキは困った顔をする。


「良いじゃありませんの。私達の仲ですわ」


 キョウカはクロキの様子に構わずその腕に胸を押し付ける。

 腕に豊満な胸を押し付けられたクロキはますます困った顔をする。


「いちゃついている所、悪いけど、そこで鎖で囚われているのが侵入者かしら? それにどうしてミツアミさんもいるの? もしかして貴方も侵入者なの?」


 チユキはミツアミを見る。


「い、いえ! 私がなぜここにいるのか自分でもわからないんです! 決して入りたくて入ったんじゃないんです!」


 ミツアミは慌てて弁明する。


「えーと、あの。彼女の言っている事は本当ですよ。何者かに魔法をかけられてここに入ったみたいなんですよ。心霊術で解く必要があるかもしれません。そして、隣のカタカケ殿は彼女を止めるためにここに入ったらしいです」

「そうです。ミツアミさんを止めるために入ったのです! わざとじゃないんです!」


 クロキがミツアミを擁護するとカタカケが頷く。


「なるほど……。心霊術といえばサビーナ殿だけど、やってくれるかしら」

「もちろん。一体誰なのかしら魔法をかけたのは?」


 サビーナは笑って了承する。

 ただ、その笑みがチユキには白々しく見えた。


「それから、鎖で囚われているのが侵入者だと言うのは正しいです」

「なるほどね。では最後に聞きたいけど隣にいる角が生えたのは誰なの?」


 チユキはクロキの隣にいる角の生えた女性を見る。

 かなり美女であり、キョウカに匹敵するだろう。

 この中で一番気になる相手であった。


「クロキさん。私も気になりますわ」


 キョウカも少し頬を膨らませて聞く。

 クロキに寄り添うように立っているのが気になるのだろう。


「ええと、彼女はダンタリアス。この禁書庫の管理者です。キョウカさん達をここの案内してくれたのも彼女なのですよ」

「そうなの……。良く見ると形を持った幻影みたいね」


 チユキはダンタリアスを見る。

 過去にリノが作り出した、形を持った幻影と同じ感じがする。

 もしかすると彼女も実体がないのだろう。


「でも、これで解決ね。侵入者も捕らえたみたいだし。だけど、折角入ったのだからこの中を見学したいのだけど良いかしら?」


 サビーナはダンタリアスにお願いする。


「正式な許可を受けた者ならば、私が拒否する事はできません。ですが侵入者は他にもいます。それまでは緊急事態なので閲覧は遠慮してもらいます」


 ダンタリアスは淡々と表情を変えずに言う。


「えっ!? まだいるの!? 本当に想定外だわ!? ん? もしかするとあの方が……!?」


 サビーナは驚くと何かを考え込む。


「ちょっとサビーナ殿? もしかして、心当たりでもあるの?」

「いえいえ、何でもないわ。おほほほ」


 チユキに問われたサビーナは再び誤魔化すように笑う。


「ダンタリアス。目的はわかったのだよね? 何が狙いだった?」

「クロキ様。目的はこの迷宮の魔力そのものです。その魔力で自身の力を取り戻すつもりなのでしょう。中心部へと向かっています」

「止められないの? ダンタリアス?」


 クロキが問うとダンタリアスは首を振る。


「無理ですね。かの女神は見通す目を持っています。止めるのは難しいでしょう。間もなく到達します」

「そう……」

「ですが、目的が魔力ならば対処のしようがあります。中心部に近い書籍を避難させます。そこでなら戦いも可能でしょう」


 クロキとダンタリアスは相談する。


「ねえ、ちょっと2人だけで話を進めないでよ。今どういう状況なのよ」

「そうですわ。侵入者がいるのなら私達も手伝いますわよ」


 チユキとキョウカが話に割って入る。


「そう、そう。速く行きましょう。あの方……。侵入者がどなたなのか知りたいわ」

 

 サビーナも先へと進もうと急かす。

 なぜかやる気がある。


「は、はあ……。できれば貴方には、カタカケ殿達を連れ帰って欲しいのですが」


 クロキは困ったように言う。

 しかし、サビーナは構わず先に進もうとする。


「行きましょう、クロキ様。この者達は私が何とかします」

「そう……、わかった。ええと一緒に来てくれる?」


 クロキは振り向きチユキ達を見る。

 

「もちろんですわ!」

「まあ、仕方がないわね」


 キョウカが頷き、チユキも頷く。

 入って来ているのが、かの死神の妻なら放置しておくのは危険である。

 チユキも侵入者の動向が気になるのだった。





★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 朝から研修があったのですが、何とか更新出来ました。

 また津波警報でびっくりです。

 設定資料集も後少しで更新できそうです。


 サビーナの正体はまた今度。

 実はグリモアと戦うシーンも考えていましたが、没にしました(>_<)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る