第17話 図書館の怪物

 迷宮と化した禁書庫。

 禁書庫は絶えず動き、侵入者の行き先を阻む。

 迷ったカタカケ達はチヂレゲ達と出会ったのである。

 そして、今度はクロキと遭遇したのであった。


「クロキ殿……? 何かあって戻ってきたのですか?」


 カタカケはクロキを見る。

 クロキは先に入って奥に行っていた。

 戻って来なければカタカケ達と出会わない。

 しかし、よく考えてみたらおかしい。なぜチヂレゲ達に先に出会ったのだろう。

 先に行ったクロキが先に出会わなければおかしい。

 カタカケは疑問に思う。


「いや、カタカケ殿が危なそうなので助けに来たのですよ……」


 そう言ってクロキは横の女性を見る。

 

「クロキ殿? そちらの方は?」

「こちらはダンタリアス。この禁書庫を管理している者ですよ。彼女はこの禁書庫で起こっている事を見る事ができるんですよ。それでカタカケ殿達が入っている事を知ったのです」

「そうなのですか……」


 カタカケはクロキの横にいるダンタリアスを見る。

 とんでもない美女だ。

 これ程の美しい女性はキョウカに続いて2人目である。

 しかし、頭の左右から角が生えている所を見る限り人間ではない。

 ダンタリアスに表情はなく何を考えているかわからない。

 彼女が迷宮を操っているらしい。

 そう考えるとクロキがチヂレゲ達と先に出会わなかったのは彼女の差し金かもしれない。

 カタカケはそんな事を考える。


「何よ、あんたは? まあ、良くわからないけど、そっちの角が生えたのがこの迷宮を管理しているの? だったら協力しなさい。女王様もお喜びになるわ」


 ミズクがダンタリアスを見て言う。


「ストリゲスのようですね。なぜ私が貴方のような下等な生き物の相手をしなければならないのでしょう?」

「なっ!?」


 ダンタリアスに下等生物と呼ばれミズクの顔が険しくなる。

 かなりキツい性格のようだ。

 それはクロキも知らなかったようで驚いた顔をしている。 


「貴様! 管理者だが何だか知らぬが! 偉大なる夜の女王ラーサ様に仕えるこの私を下等生物だと! これでも喰らえ!」


 再びミズクの目が光る。

 しかし、クロキもダンタリアスも特に何の反応もない。

 その様子にミズクは狼狽する。


「麻痺の魔眼ですね、私には効きませんよ。さて、侵入者が自由に歩き回るのも不愉快です。排除させてもらいましょう」


 ダンタリアスがそう言うとその手に一冊の本が現れる。

 ダンタリアスはその本を開き呪文を唱える。

 すると何もない空間から複数の鎖が現れミズクへと絡みつく。


「がっ、ぐう。何よ! これは……。苦しい…!」


 鎖にがんじがらめにされてミズクは苦しむ。


魔法の鎖マジックチェーンによる縛り……。もしかして、その本の力?」

「はい、そうですクロキ様。私はここの書物にある魔法のほとんどを使う事ができます。さて残りの者も捕らえましょう」


 ダンタリアスはそう言ってミズクの仲間達を見る。


「ひいっ!」

「逃げろ!」


 逃げ出すミズクの仲間達。

 チヂレゲは突然現れたクロキに訳も分からず立ったままだ。


「危ないチヂレゲ!」


 カタカケはチヂレゲを突き飛ばす。

 カタカケは目を瞑る。

 しかし、鎖は襲ってこない。


「クロキ様、なぜ邪魔をするのです? その者も侵入者ですよ」

「いや、まあ。そうかもしれませんけど。カタカケ殿達は見逃してくれませんか?」


 カタカケが目を開け、上を見ると、いつのまにか側に来ていたクロキが鎖を握っている。

 カタカケに向かった鎖を全てつかみ取ったようだ。

 ミズクの周囲では鎖によって締め付けられたチヂレゲの仲間達が苦しそうにしている。

 クロキがいなければカタカケも同じようになっていただろう。


「嘘……。動きが見えなかった……」


 後ろからミツアミの驚く声。

 クロキの事を只者ではないと思っていたが、やはり何か特別な力があるようであった。


「カタカケ。何故助けてくれたんだ……。俺はお前を殺そうとしたのに」


 チヂレゲがこちらに来る。

 その表情は信じられないという感じだ。


「わからない……。体が勝手に動いていたんだ」


 カタカケはなぜチヂレゲを助けたのかはっきりとした理由はわからない。

 だけど、一歩間違えれば自身もチヂレゲと同じ道に進んでいたかもしれない。

 だからだろうか、放っておけなかったのかもしれない。


「お待ちなさい。助かってはいませんよ。今度は確実に仕留めてあげましょう」


 ダンタリアスがカタカケとチヂレゲの話を遮る。

 そのダンタリアスの周囲には本が空中に浮遊し光っている。

 さらに強力な魔法を使うつもりのようだ。


「待って、ダンタリアス。彼も見逃してあげてくれないか」


 カタカケが待ってと言おうとした時だった。

 間一髪クロキが止める。


「そうですか。クロキ様が言われるのでしたら、そうしましょう。ただし、自由に歩く事は許しませんよ」

「ありがとう。ダンタリアス」


 クロキはお礼を言う。

 カタカケとチヂレゲはクロキを見る。


「なぜ、助けてくれたのですか……」

 

 カタカケは問う。

 クロキにカタカケ達を助ける理由はない。

 だから聞いてしまう。


「いや、本当に何でだろう? 特に理由はないな」


 クロキは首を傾げて言う。

 悩んでいる様子から、本当に理由はないようだ。


(良い人だな……。本当に何者なんだろうか?)


 カタカケはクロキの正体が気になる。

 そもそも、禁書庫の利用を認められている時点で普通ではない。

 側にいるダンタリアスという悪魔はこの禁書庫の管理者らしいが、なぜ悪魔の姿をしているのだろうかとカタカケは疑問に思う。

 この禁書庫は女神トトナが地上に預けた書物が収められているとカタカケは聞いている。

 だとしたら管理者が悪魔の姿なのはおかしいのではないだろうかと思うのだ。

 もっとも、怖いので何も聞かないのだが。


「さて、そろそろこの者達が何をしようとしているのか聞きましょう」


 ダンタリアスは鎖で縛られているミズクに近づく。

 ミズクは苦しそうに呻く。


「抵抗しても無駄ですよ。貴方の記憶を奪います」


 ダンタリアスはそう言うと空中から一冊の本を取り出し開く。

 後ろから見えるが何も書かれていないように見える。

 その本が光るとミズクへと飛ぶ。


「あっ!? ぐっ!」


 ミズクの苦しむ声。

 カタカケの見ている前でダンタリアスの白紙のページが文字で埋まっていく。

 光が収まるとミズクは静かになる。

 その目が虚ろだ。

 何をしたのか怖くなる。


「あの~。ダンタリアス? 何をしたの?」


 クロキも疑問に思ったのかダンタリアスに聞く。


「この者の記憶を奪い本に収めました。これでこの者は抜け殻です。放っておいても良いでしょう」

「えっ?」


 カタカケ達の目の前でミズクが鎖から解放される。

 ミズクは特に呆けた様子で何もする様子がない。


「ちょっと!? 今のって邪悪なる知識神ルーガスの知識を奪う魔法なんじゃない!? どうして、それを!?」


 ミツアミが驚く声を出す。

 言われてカタカケも思い出す。

 ダンタリアスが使った魔法は知識を奪う魔法のようであった。

 魔法の込められた何も書かれていない白い用紙に相手の記憶と知識を文字として奪い取る魔法である。

 奪い取られた者はこれまでの記憶をなくし痴呆状態になってしまう。

 これは邪悪なる知識神ルーガスを崇める魔術師が使う魔法である。

 当然この魔法を使う事は禁忌であり、しかし過去にこの魔法を使った魔術師がいて、カタカケはその事を思い出す。

 使った魔術師は逃げて今でも行方知れずであり、被害者の魔術師は今でも療養中である。

 

「知識を奪う魔法って、過去に行われたあの……? でも、あれは大掛かりな儀式が必要だって聞いたけど。そんな感じは……」


 カタカケは首を振る。

 カタカケが聞いた話だと件の魔法は大掛かりな儀式をしなければいけないはずであった。

 しかし、ダンタリアスは簡単に使う事が出来た。


「下等な種族の魔力ならばそうでしょうが、トトナ様にこの場を任されている私ならばこれぐらい出来ます」


 ダンタリアスはさも当然のように言う。


「ええと、トトナ様に任されている貴方がその魔法を使うの?」

「何を言っているのかわかりませんが、トトナ様はルーガス様より多くの書物を預かり、そして、トトナ様は私にその書物を預けました。ルーガス様の魔法を使う事はおかしくないはずです」

「え、ええ……」


 カタカケとミツアミは顔を見合わせる。

 知識と書物の女神トトナは邪悪なる知識神ルーガスと敵対関係にあるはずだ。

 しかし、ダンタリアスの様子はそうではない。

 カタカケはわけがわからなくなる。


「ダンタリアス。奪った記憶は元に戻せるのかい? 出来れば戻して欲しいのだけど」

「戻すのですか? 出来なくはないですが……。まあ、用が済めば必要ありませんから良いでしょう」

「そう良かった。ありがとうダンタリアス」


 クロキが御礼を言うとダンタリアスは不思議そうな感じを見せる。

 ダンタリアスはミズクから奪った書物を読む。


「クロキ様。どうやら、この書庫の魔力を使い万死の女王を復活させるのが目的のようです」

「そう……」


 ダンタリアスとクロキが何かを相談する。


「俺達どうなるんだろう……」

 

 座り込んだチヂレゲが呟く。

 カタカケもこれからどうなるかわからない。

 地上に返して欲しいがクロキ達にその暇があるかわからない。

 

「おや、どうやら誰かが入って来たようですね。マギウスの首飾りを持っているようですが、何者でしょう?」


 突然ダンタリアスは上を見て言う。

 まだまだ、何かがありそうなのであった。



 


 


 

 





★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


更新です。

ル〇ンクエストのサ〇ターのカルトに知識と記憶を奪う魔法がありますが、似たような魔法を使いたいという回だったりします。

人間が使うには大掛かりな儀式をしないと使えない設定。

ダンタリアスは禁書庫の中でなら神族と同等の力があり、儀式なしでこの魔法を使う事ができます。


来週は再就職の研修で、休むかもしれません。もちろん出来る限りは執筆します。

もし延期の時はTwitterかカクヨムの近況ノートでお知らせします<(_ _)>

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