第13話 賢人会議

 クロキからサリアの外街での出来事を聞いた翌日。

 チユキは賢人会議へと出席する。


 賢人会議。


 それは魔術師協会の最高意思決定機関である。

 賢者の称号を持つ者と魔術師協会の会長、そして事務長で構成され、年に1回開催されるのが一般的だ。

 ただ、事情がある時は年に2回だったり、2年に1回だったりもする。

 主に行われるのは次の会長と事務長の選任と予算の承認、そして様々な問題に関して方針を定める事である。

 ちなみに副会長は魔導師達で構成される導師会の推薦から会長が任命する。

 会長と事務長の任期は選任から次の賢人会議までで、再任は何回でも認められる。

 現会長ペントスは13年在任していて、タラボスが不祥事を起こした時はその責任をとり辞任しようとしたが、マギウスが止めた。

 理由は後任にふさわしい者が現時点でいないからである。

 魔術師は基本的に自身の魔術の研究に没頭したいと思う者の方が多く、組織の運営を嫌がる者が多いのである。

 ペントスもどちらかといえばその1人だが、組織の長としての才能があったのでマギウスにお願いされて会長となっている。

 そもそも、タラボスを副会長に任命したのは現時点では特に問題は明るみになっておらず、そんな状況で導師達の推薦を足蹴にする事ができなかったからだ。

 またタラボスを推薦した導師はかなり多く、ペントスの責任を問う者は少ないので留任には誰も異議を唱ええられなかった。

 このためペントスは今も会長職に就いているのである。


(うう、昨晩の記憶が思い出せない……。あの後何があったのよ……)


 チユキは昨晩の事を思い出す。

 マギウス達と賢者の塔で話し合い、明日は賢人会議なのでそれが終わってから対策を練る事になった。

 問題はその後である。

 チユキはキョウカと共にクロキと食事をする事になった。

 理由はキョウカがどうしてもとクロキにお願いしたからだ。

 当然、チユキも同伴する事にした。

 ただ、食事をした後の記憶が急に曖昧になったのだ。

 どうやらキョウカに魔法薬や魔法香を併用した何かの魔法を使われたらしい。

 理由はわからないが、キョウカはとぼけるばかりだ。

 チユキは後でリノにキョウカの事を調べてもらおうと思う。


「それでは、今期の財政状況を伝えたいと思います」

 

 事務長のイリピーが立ち上がる。

 イリピーは40代後半の商人上がりの男で、魔術師ではない。

 魔術師協会の事務をするのは主に非魔術師が行うのが通例であり、イリピーはその事務局の長である。

 実質的にサリアや協会の運営を行っているのは実はイリピー達非魔術師であり、彼らがいるおかげで魔術師達は安心して研究に打ち込めるのだ。

 そのイリピーは資料を元にサリアや魔術師協会の現在の財政について説明する。

 財政状況は決して良くはないが、破綻するほどではない事がチユキにはわかる。


「以上です。賢者様方。どうでしょうか?」


 イリピーはそう締めくくると賢者達を見渡す。

 賢者の称号を持つ者はチユキを含めて8名。

 

 大賢者マギウス。

 放浪の賢者ガドフェス。

 深緑の賢者ラストス。

 星見の賢者ヤーガ。

 黄金の賢者ケプラー。

 妖艶の賢者サビーナ。

 練技の賢者ギムリン。

 最後に黒髪の賢者チユキである。

 

 チユキを含む賢者達は特に何も言わない。

 賢者の称号を得るには一般よりもはるかに魔力が高く、優秀な魔術師か、特殊な魔術の技能を持っている者でなければならない。

 チユキは神に匹敵する魔力を持っているから賢者の称号を贈られたのである。

 もしくは魔術師協会に勧誘されたと言っても良いだろう。

 会長ペントスは優秀な魔術師だが、魔力はそこまで高くなく、賢者とはなれなかった。


「すまんな。どうにもそういうのは苦手でな。お主が問題ないというのなら間違いないじゃろう」


 深緑の賢者ラストスが言う。

 ラストスは苔色のローブを纏った老人で、マギウスやガドフェスと同じぐらいの時を生きている。

 かつてはこの3名で三賢者と呼ばれていて、サリアの創設に関わっていたりする。

 彼はサビーナとは違う心霊術の使い手で、エルフに匹敵する精霊魔法を使う事ができ、また優秀な獣使いビーストテイマーでもある。

 薬草学、植物学や森の獣の生態に精通し、彼の記した書物は医学に大きな貢献をしている。

 普段はサリアの東にあるエルフが住む森の近くに住み、滅多にサリアに来ることはない。

 賢者の中でチユキと同じようにあまり弟子がいなかったりする。

 なぜなら、ラストスの魔術はあまりにも才能ありきのもので、学ぶことが難しいからだ。

 精霊と交信する能力を持つ者は少なく、数える程しかいない。 


「うむ、ラストスの言うとおりじゃ。特に問題という事はないようじゃの、イリピー達事務局の労力には頭が下がる」

「い、いえ、大賢者様にそう言っていただけるとは」


 イリピーは恐縮する。

 このサリアにおいて非魔術師は魔術師よりも下の扱いを受けるのが通例だ。

 しかし、マギウスはそんな事を気にせず非魔術師にも頭を下げる事を平気でする。

 マギウスの高弟の中にはそれを良しとしない者もいるようであった。


「儂もそう思うぞ。何せイリピーは儂が連れて来た男だからな、がはははは」


 練技の賢者ギムリンが笑う。

 彼は人間ではなくドワーフである。

 ギムリンはドワーフの技を人間でも使えないだろうかという、ガドフェスの問いかけを面白そうだと思い、サリアに来たのである。

 そして、錬金術の知識と自身のドワーフの技を掛け合わせ、人間でもある程度の魔法の道具を作れる技を編み出した。

 現在サリアにある魔法の道具のほとんどは彼とその弟子となった人間の魔術師達が作りだした。

 ギムリンは本来魔術師とは言えないが、例外として魔術師として扱われ賢者の称号を与えられたのである。

 そして、イリピーはそんな彼と取引をしていた商人であり、その才を買われて魔術師協会の事務局へと入ったのである。

 

「ねえ、まだ続くの。いい加減飽きてきたわ」


 そう言ってサビーナが欠伸をする。

 イリピーが報告しているあいだ彼女はずっと眠たそうにしていた。

 サリアの財政に興味はないのだろう。


「すまんな、サビーナ殿。それではどうしようかの。他に議題はあるかな? なければ賢人会議は終わりにしようかの」


 マギウスが笑って言うと賢者達は頷く。

 よほどの事がないかぎり賢人会議はこんな感じのようだ。

 すぐに終わってそれまでだ。

 しかし、本当なら話す事はまだある。

 万死の女王ラーサに関わる者が暗躍しているのだ。

 それを議題に出来ないのは疑わしいサビーナがいるからだ。

 チユキはサビーナを見る。

 サビーナの感情は読めない。

 彼女は何かを隠している。もしかするとチヂレゲとかいう魔術師と同じようにラーサに関りのある者かもしれなかった。 


「そうじゃのう。それでは導師達を集めて宴会と行こうかの。ラストス。久しぶりじゃから付き合えよ」


 ガドフェスが言うとラストスは困った顔をする。

 もしかすると酒が苦手なのかもしれなかった。


「ふむ、この賢人会議が開催される時は1年に1回、それに合わせ近隣の魔術師も多く集まっている。皆で大いに話し合う事にしよう」


 マギウスの声で賢人会議はお開きになる。

 実は賢人会議に会わせて導師を含む魔術師達の成果の発表会も同時期に行われるのだ。

 そのため、近隣から多くの魔術師達が集まっている。

 中には遠いアリアディア共和国から来た魔術師もいるようだ。

 現在サリアはお祭り状態。

 何かをするのなら今かもしれなかった。


 

 クロキとキョウカはサリアの街を歩く。

 周りを見ると明らかにサリアの外から来たみたいな魔術師の姿が見える。

 まるでお祭りのようであった。


「あのキョウカさん。そんなにくっつかれると……」

「あら、良いじゃありませんの。恥ずかしがることはありませんわ」


 先程からキョウカがくっついて歩くのでクロキとしては困ってしまう。

 人も多く中々前に進めなかった。

 これから図書館に向かう予定である。

 チヂレゲは禁書庫に入りたがっていた。

 そのため、念のために禁書庫の蔵書を調べてみようと思ったのだ。


「あれ、ミツアミさんじゃありませんの?」


 クロキとキョウカが一緒に歩いている時だった。

 前方にミツアミが歩いているのを発見する。

 ただ、少し様子がおかしい。

 足取りがしっかりしていない。


「何か様子が変ですわね。声を掛けてみますわ。ミツアミさ~ん!」


 キョウカは声を掛けるが返事がない。

 クロキとキョウカは顔を見合わせる。

 聞こえない距離ではない。

 早足で近づき前に立つ。


「これは……」


 クロキはミツアミの様子を見て言葉が出なくなる。

 前に立ちふさがれたというのにクロキ達を避けて前に行こうとする。

 まるで、クロキ達が認識できていないようだ。明らかに様子がおかしい。

 

「ミツアミさん!」


 クロキから腕を離したキョウカがミツアミの頬を両手で叩く。


「えっ、あれ? キョウカ様? あれ? あれ、私何でここに? あっそうだ図書館に行かないと……。あれ? 何で図書館に? あれ?」


 ミツアミは突然眠りから覚めたようにキョウカを見る。

 クロキとキョウカは再び顔を見合わせる。

 

「図書館に急いだ方が良さそうですね」

「ええ、クロキさん。放ってもおけませんし、ミツアミさんも一緒に行きますわよ」


 クロキとキョウカはミツアミを連れて図書館へと向かう。

 そして、入った時だった。

 入り口で倒れているカタカケを発見する。


「カタカケさん!」


 クロキはカタカケに駆け寄る。

 外傷はない。気絶しているだけのようだ。

 明らかにサリアで何かが起ころうとしていた。






★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新です。

 文章がさらに酷くなっています。キョウカとの事をぼかして書いているのは上手く書く自信がないからだったりします。後で修正するかもしれません。

 誤字があったら報告お願いします。


 ダグラムはかなり昔の作品なのに今見ても面白いです。

 なぜ放送当時は不評だったのか? 

 世の中の不条理を感じます。

 

 そして、今年ももうすぐ終わりですね。

 年を重ねる事に書く気力がなくなりつつあります。せめてこの物語だけは終わらせたい。

 何とか頑張ります。

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