第12話 ストレガの女王

 サリアの外街からクロキは城壁の内部へと戻りマギウスの元へと行く事にする。

 マギウスはヤーガを深緑の賢者ラストスに預けた後、賢者の塔に戻ると言っていた。

 そのため賢者の塔へと向かう。

 途中でチユキ、キョウカ、ケプラーと合流する。

 大賢者マギウスは多忙であり、魔術師の資格をもってすらいないクロキでは受付の者が会わせてくれない。

 しかし、同じ賢者の称号を持つチユキやケプラーと一緒ならマギウスの私室まで案内してくれるのである。


「なるほどね、そういうわけで外街まで行って来たってわけね……」


 クロキがカタカケに会い、そこから外街まで行って来たことを説明するとチユキは頷いて言う。

 クロキがいない間、チユキ達はケプラーの案内でサリアを歩いていたようだ。

 昨日サビーナが案内した場所とは違う所で錬金術の工房が多く並んでいたらしい。

 チユキは多くの物を見る事ができて満足したようだが、キョウカは退屈だったようだ。

 未だに欠伸をしている。

 クロキ達は賢者の塔へと歩きながら雑談する。


「しかし、麻薬が蔓延しているとはこれはゆゆしき事態ですな」

「確かにそうね。以前なら管理が行き届いていないって怒るけど、この規模の都市の管理は大変なのよね。エルドも全然管理が行き届いていないし……」


 ケプラーが言うとチユキが額を押さえて呻く。


「それにしても、あの方やっぱり怪しかったですわね」


 キョウカは勝ち誇ったように言う。

 直感が優れているのだろう。キョウカの言う通り、チヂレゲは怪しかった。


「確かにそうですね。後はマギウス殿に報告してからにしましょう。着きました」


 賢者の塔に辿り着きクロキは話を一旦終える。

 チユキとケプラーが来訪を告げると警備の者達はすぐに通してくれて、受付の者は案内をしてくれる。

 塔を上り大賢者の執務室に入ると、そこにはマギウスとガドフェスが話をしていた。

  

「これはケプラー殿とチユキ殿、それにクロキ殿とキョウカ殿も一緒ですか、どうしたのかな? ヤーガの事なら大丈夫だったぞ。すぐに治るそうだ」


 マギウスは大勢で押し掛けたので驚く。


「それは良かったです。実は報告したい事がありまして、伺いました」


 クロキは外街で起こった事を話す。


「麻薬か、場所は違えど人のやる事は変わらんな」


 ガドフェスは皮肉な笑みを浮かべる。


「笑いごとではないぞ、ガドフェスよ。死の教団が何らかの麻薬を流しているのであれば大変じゃぞ。麻薬の吸いすぎで死んだ者がゾンビに変わるやもしれん。もしかするとさらに強力なアンデッドとなる可能性もある。それが大量に発生すればサリアは一大事だ」

 

 マギウスに言われ、クロキとチユキは驚く。

 確かにその通りであった。

 死の教団が流す麻薬ならばその可能性もある。

 マギウスが慌てるのも無理はなかった。


「これは本当に由々しき事態ですな。マギウス殿、どうしますか?」

「そうじゃの、ケプラー殿。う~む、今すぐにでも踏み込みたいが、逃げられても厄介。調査を進めて一気に進めるしかあるまい」

 

 マギウスは溜息を吐く。


「あれ、そういえばマギウス殿。件のチヂレゲの部屋の前で見慣れない聖印らしきものを見たのですが」


 クロキはチヂレゲの部屋の入口にあった見慣れない聖印について話す。


「ふむ、どのようなものかね」

「ええと……」


 クロキは執務室にある黒板に白粉を指に塗って描く。


「これは何でしょう? 見た事がありませんな」

「ケプラー殿は見た事はないか、儂はどこかで見た事があるような。後で調べてみるか」


 ケプラーとマギウスは首を捻る。


「うーん、私はどこかで見た事があるような気がする。でも思い出せないわ」


 チユキも首を捻る。


「おや、まさかこの印を知らんのか? まあ、あまり見かけない印だが、様々な所で結構見かけるぞ」


 そう言ったのはガドフェスであった。


「知っているのか、ガドフェス?」

「この近辺で見かけぬ印だから知らぬのも無理はないかのう。これはストレガの女王の印よ。まさかサリアの近くにその信者がおったとはの」

「ストレガの女王じゃと!? するとかの死神の妻であるあの女神の事か!」

「そこはさすがに知っておるか、マギウス。かの死神の妻である女神。ストリゲス達が崇拝する女神。夜を見張る者、ストレガの女王、万死の母、死と境界の女神ラーサをな」


 ガドフェスは笑う。


 ストレガの女王ラーサ。


 その名前はクロキも聞いた事があった。

 そもそも、死神ザルキシスの事を調べていたら必ずどこかで出てくる名前である。

 ザルキシスの妻にして死の御子達の母である。

 彼女は梟と人間の女性を掛け合わせたストリゲス達が崇める女神であり、運命の女神カーサの姉であった。

 そして、ストレガとはストリゲスの別称であり、またラーサを崇める者達の総称だ。

 ラーサは遥か昔にあった神々の大戦でザルキシスと共に死んだとされている。

 しかし、ザルキシスは生きていた。

 もし、かの女神も生きていたら?

 クロキは嫌な予感がするのだった。

 外を見る。

 再びサリアに夜が訪れようとしていた。


 

 サリアの城壁外にある外街に繋がる森の中。

 既に日が落ち始めており、森の中は暗くなっている。

 外街から森の中には小さな道が出来ていて、奥へと行けるようになっている。

 森の木々は葉が茂り、曲がりくねっており、昼間でも暗くなる。

 小さな道は少し開けた場所に繋がりそこには石で作られた祭壇があり、その前に数名の人間の男女が集まっている。

 いるのは人間だけではない。

 木々の枝に翼を持つ奇妙な姿をした者達が人間達を取り囲むようにとまっている。

 

(まずいな……。すでに失態はバレているよな……)


 チヂレゲの背中に冷たい汗が流れる。

 人間を取り囲むように佇んでいるのはストリゲスと呼ばれる女だけの種族だ。

 他種族の血を吸って生きている。

 彼女達はチヂレゲ達人間の上位者であった。

 それに対して人間は死の神を崇める者達だ。男もいれば女もいる。

 かつてはタラボスもこの中にいた。

 

「下僕共、我らが女王がおいでだ。表を上げよ」


 ストリゲスの1匹がそう言うとチヂレゲ達の前に誰かが降りてくる。

 それは黄金の梟の瞳と両腕が翼になった幼さの残る少女である。

 この少女こそが女神ラーサ。

 ストリゲス達が崇める女神であった。


「下僕共よ、妾の与えた可愛い蝙蝠を失ったようじゃの」


 ラーサがそう言うと人間達はチヂレゲを責めるように見る。

 下僕共と言っている時点で連帯責任となっている。

 実際に失敗したのはチヂレゲだけのはずなのにだ。

 チヂレゲの青ざめた表情で俯く。

 ラーサが許可すれば、この場にいる人間は全てストリゲスによって血を全て吸われてしまうだろう。

 それを望んでかストリゲス達が梟ような目を輝かせる。


「どうやら、少しはやる奴がいるようじゃの……。このままでは埒があかん、よって妾が直接動く事にする。禁書庫に込められた魔力とサリアの者達の命を妾の復活に使わせてもらうぞ。いい加減この姿ともおさらばじゃ。我が夫も力を取り戻した。妾もそろそろモードガルに戻らねばなるまい」


 そう言ってラーサは忌々しそうに自らの身体を見る。

 本来ラーサは妖艶な大人の女性の姿をしていた。

 しかし、先の神々の大戦で多くの魔力を失った。

 そのため、幼い少女の姿になってしまったのだ。

 

「お待ち下さい、女王よ。今サリアには賢者と呼ばれる者達が集まっています。特に光の勇者の仲間である黒髪の賢者はエリオスの女神共に匹敵すると言います。計画を延期した方がよろしいのでは」


 ストリゲスの1匹がそう注進する。


「愚か者逆じゃ。むしろ贄にしてくれる。それに力を失ったとはいえ、エリオスの小娘1匹程に負ける妾ではない。それに息子も来ておるしの、心配は無用じゃ」


 ラーサは笑う。

 するとストリゲス達も同様に笑う。

 不気味な鳴き声が夜の森の中に響きわたるのであった。

 


  

 

 


★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 YouTubeで太陽の牙ダグラムを見てたら時間が過ぎました。

 また、無理をせずに投稿しているので相変わらず短いです。

 文章も以前よりかなり酷くなっているので後から修正するかもしれません。


 そして、ようやく黒幕の登場。

 実はラーサ、カーサと後1柱で三姉妹の予定です。

 また吸血鬼幼女。本当は成人女性の姿。

 同じ設定を使っている作品は他にもあります。パクリと呼ばれても仕方がないですね。

 プ〇コネとか、〇物語とか……。

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