第25話 セアードの女王(10章エピローグ)
蛇の女王ディアドナは鬼岩城があった場所へとやってくる。
すでに城は崩壊しており、辺りは誰もいない。
「お母様。フェーギル将軍は……」
一緒に付いて来た虹の蛇姫ユールグが聞く。
ディアドナとしては虹の都ニルカナイに待機してもらいたかったが、鬼岩城は近く、ユールグがどうしてもと言うから付いて来る事を許可したのである。
「おそらく生きてはいまい……。くっ、まさか光の勇者に暗黒騎士までいて、しかも手を組むとはな。予想外だ」
ディアドナは悔しそうに言う。
もしフェーギルが生きているのなら何らかの連絡、もしくは痕跡があるだろう。
しかし、何もない。そのためディアドナはフェーギルが死んだのだろうと判断する。
(フェーギルめ、何故報告しなかった? 慢心か?)
ディアドナは毒の牙を鳴らす。
大々的に発表していたからダラウゴンの娘が額環を手に入れる事は知っていた。
しかし、暗黒騎士を呼ぶとは予想していなかった。
しかも、人魚の女王メローラも額環を手に入れようと光の勇者を呼んでいた。
そして、どういう経緯かわからないが両者は手を組み、フェーギルと対抗したのである。
フェーギルの敗因は暗黒騎士と光の勇者達を自身だけで対処しようとしたことだ。
その時点で報告していたらディアドナは救援を送っただろう。
だが、フェーギルは慢心からか自身だけで相対した。
それは間違いであった。
(やはり、霊杯の力を直接使うのは無理か間接的に使わねばなるまい)
霊杯から混沌の力を得た者は自身が万能の存在になったかのような気になる。
それは過去の実験からわかっていたことであった。
フェーギルは比較的はその傾向が見られなかったが、例外ではなかった。
霊杯の力は強大だが、副作用も多く使いにくい。
ディアドナはそう考え霊杯の力を慎重に使おうと思う。
「フェーギル将軍。安らかに眠ってください……」
横ではユールグが目を閉じフェーギルの魂の安寧を祈っている。
そんなユールグを見てディアドナは溜息を吐くのであった。
◆
珊瑚の都アトランティアに戻ると海王トライデント人魚の女王メローラが出迎える。
「よくぞ戻りました」
メローラは涙ながらにトルキッソスを抱きしめる。
少しやつれている。
かなり心配していたようだ。
「心配をさせて申し訳ございません、母上」
トルキッソスはメローラに謝る。
「そうよ。トルキッソス心配したんだから!」
「そうそうトル君。心配したよ~」
姉であるマーメイドの姫達も集まる。
「レイジ殿。息子を助けてくれて感謝する」
息子が無事である事を確認したトライデンは頭を下げる。
「ああ、だがトヨティマ姫が助けようと思わなければ、無理だった。彼女にも感謝してくれ」
レイジがそう言うとトライデンとメローラは微妙な顔をする。
(やっぱり、複雑な気持ちになるわよね。今まで争っていたんだから)
チユキはトヨティマの事を考える。
彼女はトライデン達をどうしようとか全く考えていなかった。
つまり、セアードの額環が彼女の手に渡っても、問題はない。
もっとも心変わりする事も考えられるが、額環を取り戻す事はできない。
何しろ額環はトルキッソス自身が返還したのだ。
それを取り戻すのは変である。
だから、額環が取り戻せなくてもチユキ達に責任はないのである。
おそらくメローラも額環を取り戻せとは言えないだろう。
だから、この件はこれでお終いであった。
「はい、彼女にはお礼の言葉を後程送りましょう。しかし、今は息子が戻ってきた祝いをしたいと思います。レイジ殿、どうか我らの礼を受けて下さい」
トライデンは話題を変えてそう言う。
あまり深く考えたくはないようだ。
「まあ、宴を受けない理由はないな。みんなも良いだろ?」
「賛成~。疲れたもん」
「そうっすね。ここらでぱーっとやるっすか」
レイジが言うとリノとナオが賛成する。
「できればクロキも一緒が良かったんだけどな」
「そうですわね、私もクロキさんと一緒が良いのですわ」
シロネとキョウカが残念そうな顔をする。
シロネの幼馴染の暗黒騎士は海神の所へと戻ったのでここにはいない。
もちろん、海神の娘トヨティマと魔王の娘ポレンも一緒だ。
「仕方がありません。お嬢様。彼らは彼らで楽しむでしょうから、邪魔をすべきではないでしょう」
カヤはそう言ってキョウカを慰める。
カヤは暗黒騎士の彼をキョウカに近づけたくないようだ。
しかし、キョウカはそうではない。
もうチユキは暗黒騎士の彼が操られているとは思わなかった。
自分自身の意志で行動している。
(やっぱり、色々と気になる事があるわよね。帰ったら調べてみようかしら)
邪悪の権化である魔王。
その娘からは邪悪さは感じなかった。
このまま魔王と争っても良いのかとチユキは思ってしまうのだ。
だから、神話等を調べてみようと思う。
もちろん帰ってからの話だ。
「まあ、残念かもしれないけど今は楽しみましょう」
チユキはそう言ってレイジの側に行く。
アトランティアが少し騒がしくなるのであった。
◆
「これでうちがセアードの女王や!」
トヨティマが宣言するとマーマン達が歓声を上げる。
クロキ達は再びウォグチへと来ていた。
そして、先程の台詞は何度も聞いていた。
トヨティマはかなり酒を飲んでいて、酔っぱらっている様子だ。
近くの街から来た踊り子が躍っている。
さすがにもう邪魔は入らないだろう。
セアード内海沿岸にある都市のダラウゴン教団はかなり大きいようだ。
代わりの踊り子を用意できるところからそれがうかがい知れた。
「もうそれ何度目なのトヨちゃん。飲みすぎだよ」
横にいるポレンがトヨティマを窘める。
「固い事言うなよ、ポレの字~。それにしても暗黒騎士がこんな良い男やったなんて、全く隠すなんてなあ。どうや、暗黒騎士! うちの所に来んか?」
「それはダメ~! 先生はナルゴルのなの! 一緒に戻るの!」
そう言うとポレンはクロキに抱き着く。
既にクロキは兜を外している。
良い男だと言われてもレイジやアルフォスに比べるとさすがに落ちるのでクロキはむず痒くなる。
(今頃はレイジ達も宴をしているのだろうか?)
アトランティアには綺麗なマーメイドや
こちらも綺麗な踊り子がいるが、ポレンやトヨティマがいるのでクロキに寄って来る者はいない。
もっとも寄って来られてもクロキとしては困るだけだ。
「殿下~。殿下も飲みすぎなのさ~。閣下が困っているのさ~」
プチナがポレンを窘める。
プチナもかなり飲んでいる。
とても甘い果実酒の空き瓶が沢山転がっている。
「うう、そうなの先生~。私、綺麗になるから~。困らないで~。私が抱き着いて大丈夫な格好良い殿方は先生ぐらいなの~」
ポレンは泣きそうな顔をするとさらに抱き着く。
ちょっとだけクロキは困ってしまうが、それを言うわけにはいかない。
「がははは、楽しんでいるようやな」
トヨティマを挟み、クロキ達の反対側にいるダラウゴンがクロキ達を見て笑う。
しかし、そのダラウゴンの目は少し寂しそうである。
セアードの額環は元々ダラウゴンがメローラに送った愛の証だ。
しかし、その愛は届かなかった。
なぜ、トヨティマがこの額環を自身の物にしようとしたのか?
それは未だにメローラを忘れられずにいる父親に教えたかったのだろう。
貴方を愛する者は他にいる、だから忘れろと。
クロキはそう考える。
トヨティマがセアードの額環をそこまで欲しがっていなかった事からもそれが伺いしれた。
ダラウゴンを慕う者は多くいる。
マーマン等の海の民がダラウゴンの家族なのである。
クロキが宴会場の中央を見ると踊り子と一緒にマーマン達が裸踊りをして楽しそうにしている。
ダラウゴン一家は楽しそうであった。
(さて、宴会が終わったら、ナルゴルに帰らないとな。きっと心配している)
クロキはポレンを慰めながらナルゴルの方角を見る。
ナルゴルにはクーナもいる。
そろそろ、戻らないと迎えに来るだろう。
紺碧の海は穏やかで、名残惜しそうであった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
2021/8/15
朝からマウスのクリックが効かなくなって大変でした。
結局原因がわからず、マウスを買い替えました。買ってから1年4ヵ月しか経過してないのに……。
こんなに早く悪くなるでしょうか?
おかげで半日潰れました(T_T)
そして、10章もこれで終わりです。
正直に言うと難しかったです(;´・ω・)
海の中で生きる民を書くのがこれほど難しいとは……、自身の想像力の貧困さに泣きたくなります。
やはり、想像しやすい陸の者達を書くべきかもしれません。
11章ですが、コウキの話を書く前に章を挟みたい。
ですがその前に設定資料集を書こうと思います。
ですから、11章は9月5日から、8月22日は設定資料集の続きになります<(_ _)>
外伝はしばらくないです、シェンナを主人公にした話を考えたのですが、またにします。
最後に一応地図の案を公開しようと思います。
見たら「えっ?」と思うかもしれません。
ただ、途中までであり、後で変更するかもしれないので資料集には載せず、カクヨムの活動ノートとTwitterのみになると思います。
近日中に公開します。
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