第11話 囚われの姫君?

「踊り子に手を出さないかぎり、こちらも何もしない。客として遇するか……。なるほど、わかったと伝えてくれるかな。こちらも踊り子を大事に扱う。自分が保証するとね」


 トリトンの伝令が残した手紙を読み、クロキは御者の男に言う。


「は、はい! 必ずそう伝えます!」


 御者の男はそういうと宴の間から出て行く。

 おそらくウォグチの外にトリトンの伝令がいるはずなので御者の男が出てくれば必ず見つけるだろう。 

 実は先程から強力な視線を感じているのだ。

 レイジ達のものではないのでトリトンの誰かだろうとクロキは思っている。

 御者の男は操られていた。

 相手は強大な力を持つ勇者の仲間であり、他のマーマンも油断をしていたので、特に咎められる事はなかった。

 クロキは残された踊り子を見る。

 踊り子は恐怖で震えている。

 御者の男は彼女の事を知らない。

 ようするにレイジと関わりのある女の子だという事だ。

 現にレイジ達は彼女の安否を気遣っている様子だ。

 なぜ、こんなレイジと一緒に危険な事に参加をしたのかはわからない。

 もっとも、クロキにとってはどうでも良い事であった。


「まあ、そういう事や、ポレの字の安否が不安や。この踊り子に手を出したらいけへんで」


 トヨティマはマーマン達に言う。

 血が頭に上ったマーマン達は残念そうにする。

 自分達の親分が襲われたので無理はない。

 しかし、ポレンの安全のためにも踊り子に手を出させるわけにはいかない。


「そのとおりなのね。彼女を大切に扱わないといけないのでしゅ。ボクちんは彼女を守るでしゅ」


 クランポンも同調する。

 ただ、彼の場合はどこか下心があるのが目に見えてわかる。

 敵と分かった時に真っ先にやらしい事をしようとしていたので、信用はできない。


「すまねえな。暗黒騎士。おめえが嬢ちゃんの側にいれば守れただろうに」


 ダラウゴンが申し訳なさそうにする。

 

「いえ、これは自分の責任でもあります。油断でした……」


 クロキは歯軋りをする。

 もし、ポレンに敵意が向いていたら、クロキも反応していただろう。

 しかし、ポレンが連れ去られたのは偶然であった。

 そのため、クロキはポレンを守れなかったのである。


「まあ、命は無事のはずや……。後でポレの字とこの踊り子はんの交換をどうするか考えへんとなあ。それにしてもポレの字の様子がわかれば良いのやけどなあ」

「確かにそうですね……」

 

 トヨティマの言葉にクロキは頷く。

 客として扱ってくれるらしいが、そのまま信じるわけにはいかない。


「あっ! そういえば思い出したのさ! 殿下の首飾りを使えば様子がわかるかもしれないのさ!」 


 それまで黙っていたプチナが声を出す。

 ポレンの首飾りはモデスがポレンの様子を見るために与えられたものだ。

 その首飾りの宝石が映す光景を遠くから見る事が出来るはずであった。


「そういえば確かにそれがありました。早速様子を見てみましょう。光景を映す鏡のようなものはありませんか?」


 プチナに言われてクロキも気付く。

 過去にアルフォスとの戦った時にモデスは首飾りを通じてクロキの戦いぶりを見ていた。

 そして、その後クロキはモデスから首飾りが映す光景を見る事が出来る魔法を教わっていたのである。


「へえ、なるほどなあ。うちが持っとる鏡がある。それを使いや」


 トヨティマは懐から鏡を出す。

 魔法がかかっている綺麗な鏡だ。

 小さいが映す事はできるだろう。

 クロキは魔法を唱える。

 やがて、鏡が何かを映し出す。


(殿下無事でいてください)


 クロキはそう願わずにいられなかった。



「ねえ、ポレンちゃんどう美味しい」

「はい~。すっごく美味しいです」


 チユキから少し離れた所でリノとピンクのブタが御菓子を食べている。

 ピンクのブタはポレンというらしい。

 最初はえぐえぐと泣いていたが、リノが慰めて御菓子をあげるとやがて泣き止み笑うようになった。

 見た目はピンクの子ブタが直立し、頭に2本の小さな角、お尻からは竜のしっぽが生えている。

 明らかに魔物だ。

 しかし、無邪気にお菓子を食べている姿を見ていると邪悪ではないようにチユキは感じられた。

 リノが言うにはポレンは女の子らしく、可愛いらしい衣装を着せられている。

 ポレンと一緒にいるリノはまるで、ぬいぐるみと遊んでいるようであった。


「まあ、良いわ……。あの子はリノさんに任せて私達は今後の事を話し合いましょう。どうすれば良いかしら。まさか彼がいるなんて……」


 妖霧の街からチユキは転移の魔法を使い脱出した。転移先はビュルサ女王国のトライデンの神殿である。

 そのトライデンの神殿にある一室で集まっているところであった。

 チユキは頭を悩ませる。

 邪神ダラウゴンを倒そうと思ったら暗黒騎士がいたのである。

 過去にレイジは何度も負けているので、急いで撤退したのだ。


「そうだね。まさかクロキがいるなんてね……」

「ええ、そうですわ。クロキさんがいるなんて聞いてないですわよ」


 シロネとキョウカもチユキと同じように困った顔をする。


「本当に厳しいっすよ。諦めて帰るっすか?」


 ナオが諦め顔で言う。

 チユキは思わず頷きそうになる。


「まて、ナオ。まだ失敗とは限らない。俺が奴を倒せば済む話だ」


 レイジはそう言ってナオを見る。


「ちょっとレイジ君。彼はシロネさんの幼馴染なのよ。倒すとかそう言う事は言わないの……」


 チユキはますます頭が痛くなる。

 レイジはどこか対抗意識を持っている。

 そして、どこか楽しそうであった。

 これまでやってこなかった剣の練習をして、自らを鍛えているのだ。

 チユキとしてはレイジが頑張ってくれるのは嬉しいが、相手が相手だけに悩ましいところである。


「そうは言ってもトルキッソスは捕らわれたままだ。このままにはしておけない。奴が邪神の側にいる以上は避けては通れないぜ」


 レイジの言葉にチユキは言葉を詰まらせる。

 確かにその通りであった。

 流石にトルキッソスを見殺しにするのは躊躇われた。


「確かにトルキッソスさんを見殺しにするのは問題があるかもしれません。トリトンの戦士達も怒るでしょうし」


 カヤは妖霧の街の方角を見て言う。

 トリトンの戦士達は王子を助け出すべく、マーマン達を監視している。

 トルキッソスを見捨てたら彼らから非難されるだろう。


「そうようね。まあ、こちらにも人質がいるのだし……。まあ、人質と言って良いのかわからないけど」


 チユキは離れたところにいるリノ達を見る。

 リノとポレンは楽しそうにお菓子を食べている。

 給仕をしているトリトンの若い神官達は複雑な表情だ。

 彼の耳飾りの様子から、現在無事であることはわかっている。

 耳飾りは音しか、しかも陸上なので断片しか伝えないが、それでも貴重な情報源であった。

 

「どこかで交換をしなければいけませんね。すでに連絡をとっています。セアードの額環についてはトルキッソスさんを取り戻してから考えましょう」

「そうね。カヤさん……。とりあえずトルキッソスさんを取り戻してから考えましょう」

 



「なんや、楽しそうやな」


 鏡の光景を見たトヨティマは少し怒ったように言う。

 鏡には美味しそうな御菓子が映っている。

 それをポレンは美味しそうに食べているのだ。

 心配していた身としては怒るのも無理はないだろう。

 しかし、大事に扱われているのは本当のようなのでクロキは安心する。


「殿下~。本当に食いしん坊なのさ……。でも安心したのさ」


 プチナもクロキと同じように安堵した様子を見せる。


「自分も安心しました。しかし、いつまでもこのままではいけません。どこかで人質の交換をしなければなりません」

 

 クロキはそう言ってトヨティマを見る。

 相手と交渉をして、ポレンと踊り子を交換すべきだろう。

 レイジの性格を考えれば美女をそのままにしておかないはずであった。


「まっ、その通りやな、暗黒騎士。でも、何か大丈夫そうやし、慌てんでも良さそうや。ああ、それからあんさんの事やけどな。お父ちゃんの命を奪おうとした者の仲間やなんやから向こうみたいに厚遇を期待したらあかんで。でも、その身の安全はうちが保証したる。それで良いな」


 トヨティマは頷くと踊り子に言う。

 そのトヨティマの顔は少し寂しそうであった。

 短い間だったがトヨティマとしては踊り子の事を気に入っていたのかもしれない。

 しかし、敵だったので、すごく残念なのだろう。

 踊り子はとても申し訳なさそうな顔をしている。


「ごめんなさい。そして、ありがとうございます」


 踊り子はお礼を言う。

 クロキはその言葉に嘘は感じられなかった。

 クロキはポレンの事を考える。

 レイジの仲間達はポレンに良くしてくれているようだ。

 その事をポレンはどう感じるか。

 クロキはその事が少し気になるのだった。

 



★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 更新です。

 やっぱり、筆力が落ちています。しばらく低速で行くかもしれません。

 互いにポレンとトヨティマが無事だという描写のみ、もっと書くことがないか考えてはいるのですが……。


 小説を書く力を上げるために良質なファンタジー小説が読みたい。

 知っていたら教えて欲しいです。


 ノベルバはこの章までは続けます。






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