第24話 凶獣フェリオン

 クロキは魔獣達を倒した後、ヘイボスと共に第3層へと降りる。

 荒涼とした景色であり、頬に冷たい風を感じる。


「何だろう? 変な風ですね。ヘイボス殿」


 クロキはそう言ってヘイボスの顔を見ると、その顔は青ざめている。


「大丈夫ですか? 大丈夫ですかヘイボス殿?」

「何とかな。お主は大丈夫のようだな、暗黒騎士よ。このフェリオンの風に触れておるのに……」

「フェリオンの風?」


 クロキが問うとヘイボスは頷く。


「そうだ、暗黒騎士。フェリオンの風は魔法の風。心を恐怖で震わせる。それは神であってもだ。だが、お主とモデスは違うようだ」


 ヘイボスはクロキを見て言う。

 過去にヘイボスは魔王モデスと共にここまで降りた事があった。

 モデスは何ともないが、ヘイボスは今と同じように震えたらしい。

 クロキもモデスと同じように何ともないが、ヘイボスはかなり辛そうであった。


「お主なら、この中でも行動が出来る。来てもらって良かった。この先にフェリオンはいるはずだ。急ぐぞ、暗黒騎士」

「わかりました。ヘイボス殿」


 クロキは頷くとヘイボスと共に空舟で先へと進む。

 この第3層にはあれ程数が多かったマーナガルムやイビルアイにオーバーイーター等の魔物の姿は見えない。

 そして、フェリオンの眷属たる魔獣の姿もない。

 第3層に広がるのは荒野だ。

 一応第1層や第2層には森や湖があり、街があった。

 しかし、第3層にあるのは奥にある巨大なドーム型の建物だけだ。


(まるで霊廟だな。あの建物の中にフェリオンはいるのだろうか?)


 クロキはドーム型の建物を見る。

 ドーム型の建物は巨大で第3層の天井までもある。

 そこを目指して空舟は進む。

 ある程度まで進んだ時だった。

 巨大なゴーレムの一団が見える。

 ゴーレム達は何かを壊そうとしている。

 壊そうとしているのは霊廟の周りにある塔のような建物である。

 その塔から光の帯が、巨大なドームへと繋がっている。


「いかん! あれはフェリオンの封印の1つだ! 暗黒騎士!」

「わかっています! ヘイボス殿!」


 クロキは剣を構えると空舟から降り、ゴーレムへと向かう。

 ゴーレムはクロキに構わず封印を壊そうとしている。

 このゴーレム達がリベザルの封印を解くためのゴーレムだろう。

 近付くとクロキはゴーレム達を斬り裂く。


「さすがだな、一瞬で全てのゴーレムを倒すとはな」

「いえ、このゴーレムは反撃もしませんでしたので、簡単でした」


 クロキはゴーレムの残骸を見る。

 このゴーレム達は封印を解くためにのみ動いていたので、反撃すらしなかった。

 そのため簡単に倒せたのである。


「それよりもヘイボス殿。封印は?」

「かなり壊されておる。直さなくてはいかん」


 そうヘイボスが言った時だった、突然空気が震える。


「これは!?」


 クロキは空気が震えた震源地を探す。

 どうやら、奥に見える巨大な建造物から発せられているようだ。


「どうやら、フェリオンが封印を破ろうとしているようだな。急ぎゴーレム達が壊した封印を修理する。暗黒騎士よ、それまでフェリオンを押えて置いてくれ。危険な仕事だが、お主にしか頼めぬ、すまぬ……」


 震える声でヘイボスはクロキにお願いをする。

 フェリオンの恐怖の風はヘイボスに効いている。

 神族であるヘイボスでこれなら、他の種族ではフェリオンに近づく事さえできないだろう。


「わかりました。行ってきますヘイボス殿」


 ヘイボスを残し、クロキはフェリオンの元へと向かう。

 ドームへ向かうごとに風が強くなるが何とか辿り着く。

 そして、巨大なドーム型の建造物に入るとそれはいた。

 巨人をも飲み込めそうな巨大な顎を持つ狼。

 頭に角が生え、その角が赤く光るとごとに、波動がドームを越えて吹き抜ける。

 その波動はドームの外とは比べにならない程強力であった。

 強力な波動を浴びてクロキはよろける。


(この巨大な狼がフェリオン!? 何というかすごい圧力を感じる!)


 クロキは巨大な狼を見上げてそう思う。

 その狼に無数の光り輝く鎖が巻き付いて、その内の何本かの光が薄くなっている。

 光の鎖を巻き付けられたフェリオンは暴れている。

 ドームを壊そうとしているのだ。


「何者だ?」


 侵入者に気付いたフェリオンがクロキを見て言う。


「自分は暗黒騎士クロキ。貴方を大人しくさせるために派遣されて来ました!」


 クロキがそう言うとフェリオンは顔を近づける。


「匂う。黒い炎の匂い……。なるほど、モデスの手の者か。鎖を解くのを邪魔しに来たのか? 邪魔をするな」


 そう言うとフェリオンは封印を破ろうと体を動かす。

 体を動かすたびに強烈な風が吹く。

 その風に含まれているのは強大な魔力。

 フェリオンが動くたびに封印の鎖が壊れそうであった。

 

「世界を壊さず大人しくしていれば、封印される事もなかったでしょう。今も世界を壊そうと思っているのですか?」

 

 クロキは一応フェリオンに問う。

 フェリオンは過去に世界を壊そうとした。 

 しかし、今もそうとは限らなかった。


「何を言っている? 暗黒騎士? 世界を喰らえ。そうあれと生まれたのだ。世界を食らう事、戦いこそが生きる意義。それこそが喜びだ」


 涎を垂らしながらフェリオンは言う。

 暴れたくて仕方がないみたいであった。

 

「世界を喰らう? 世界を喰らった後はどうするのです? 自らの住む世界がなくなったら生きていけないはずだ」

「その時は次元を超え! 眷属を連れて新たな世界に行くだけだ! その世界を喰らいつくせば次の世界を喰らうまで!」


 フェリオンは笑って答える。

 世界を喰らい、次の世界を喰らい、全てを喰らいつくす。

 全てを喰らいつくした後はどうするのだろうか?

 ただ、わかっているのはモデスのように変わる事はなく、凶獣は凶獣のままという事だ。

 だから、問答はこれで終わりである。

 クロキは目を瞑り、覚悟を決める。


「そうか、ならばここで永遠に大人しくしてもらうよ! フェリオン!」


 クロキは剣を構えて、フェリオンに飛ぶ。

 押えろと言われたが別に倒しても良いはずだ。

 しかし、そうはいかなかった。

 突然クロキは吹き飛ばされ、ドームの壁に叩きつけられる。

 その一撃は思った以上であった。

 壁にぶつかった後、クロキは床へと落ちる。

 体を起こそうとすると体が悲鳴をあげる。

 クロキは大きく咳き込むと口から血を吐く。


「う、嘘だろ……。たった一撃で……」


 クロキはフェリオンを見る。

 たった一撃で鎧を砕き、内臓がやられてしまった。

 自己回復して元に戻すが、何度も受けると危ない。


(魔法の鎖で縛られて全力を出せないはずなのに何て奴だ……)


 クロキはフェリオンを見る。

 フェリオンはクロキを見て楽しそうに笑っている。

 遊び相手が現れた事を喜んでいるようであった。


「どうした? 暗黒騎士? もっと、遊ぼうじゃないか!」


 フェリオンはクロキを嘲る。

 クロキはそんなフェリオンを睨む。


(こんな事で終わって良いはずがない。みんなが自分を信じて待っている)


 だから、クロキは全力で応える。

 

「わかったよ。遊びに付き合うよ。竜よ、力を貸してくれ……」


 クロキは目を瞑ると、中にいる竜に呼びかける。

 暴力的な力が自身の体を満たしていく。


 竜になる。


 フェリオンを相手にするには人間の姿では勝てないので、クロキは竜へと変身する事にする。

 ただし、竜になるのはリスクが多い。

 アルフォスの時のように暴走する可能性があり、また変身を解いた後は下半身が暴走する。

 終わった後はレーナに来てもらわなければならない。

 黒い炎が全身を覆うと、クロキは姿を変えていく。

 凶暴な力に支配されそうになる。しかし、そんな事になれば封印が解けてしまう。

 だから、意識をしっかり持たなければならない。

 

「竜になる!? これは面白いぞ! 来い、暗黒騎士!」


 フェリオンは楽しそうに笑う。

 戦えることが嬉しい様子だ。

 

「グアアアアアアア!」


 竜になったクロキは吠えるとフェリオンに挑みかかる。

 意識が飛びそうになるが、何とかもたせなければならない。

 竜と狼がぶつかる。

 森の下で激しい戦いが始まるのだった。




 知恵と勝利の女神レーナは暴走するオリハルコンゴーレムの最後の1体を何とか倒す。

 オリハルコンでできたゴーレムは固いが、レーナの持つ槍なら貫ける。

 ただ、手間取ったので、かなり時間が経過していた。

 レーナはゴーレムを暴走させたドワーフ達に腹を立てる。

 そして、そんな時だった。

 レーナは地底から波動を感じる。


「これはクロキ? 竜になったのね」


 レーナはクロキが入ったクタルの地下迷宮の入り口の方角を見る。

 そして、竜になった時のクロキを思い出す。


(まさか、竜になるなんて、それほどの相手なのね)


 竜になったクロキは強い。

 あのアルフォスが全く敵わない程だ。

 そのクロキが竜になる。それだけフェリオンは強敵なのだろう。


「問題は後よね……」


 レーナはクロキが竜から元に戻った時の事を考える。

 クロキならばフェリオンに勝てる。

 そこは心配していないが、後の処理は自身がしなければならない。

 その事を思うとレーナは頬が赤くなる。


「さて、コウキの様子はどうかしら?」


 レーナは気になっていたコウキの様子を見に行く事にする。

 そして、驚愕の光景を目にする。


「なぜ、コウキが戦っているの?」


 気配を探り様子を見に行くと、そこではコウキが戦っていた。

 そして、狼達を圧倒している。

 その事は嬉しい事だ。

 我が子が強くて喜ばない親はいない。


(考えてみればコウキが強いのは当然よね。だって、私とクロキの子なのだから)


 目の前で戦うコウキの手に、薄く黒い炎が見える。

 コウキはレーナに気付かず戦っている。

 勇ましい姿。

 その拙いながらも父親の剣技を受け継いでいる。

 レーナはその姿に見惚れる。

 だけど気になる事があった。


「あれは黒い炎。まずいわ、コウキの出自がバレるかも……。何とかしないといけないわね」


 レーナはそう思い、我が子を遠くから見つめるのだった。


 

★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 フェリオン登場。

 これでザルキシス、ディアドナ、フェリオンの三神が全て登場です。

 フェリオンは一応戦いの神だったりします。

 フェリオンを崇める人間の教団もあったりします。もちろん、人間社会からみたら邪教。


 実はフェリオンを美少女にしようか迷いましたが、結局元のままだったりします。

 クロキと戦わせる以上は暴虐な存在の方が良いかなと思った結果だったりします。

 もし、出すとしたら、フェリオンの血を引く狼姫か、カジーガの孫娘を出します。


 

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