第19話 森の中での戦い2

 森の中で戦いが始まり、チユキは魔法でその状況を見る。

 エルフとドワーフの軍団がオークの軍団と戦っている。


「チユキさん。どうやら間に合ったみたいっすね」

「そうね、ナオさん。最初のゴーレム達が頑張ってくれたわね」


 チユキはナオに頷く。

 エルフの都アルセイディアの一歩手前でオークの達の進撃を止める事に成功した。

 進撃する道筋がわからなかったから、ゴーレム達を分散させて各方面を守らせている。

 分散させたので、どうしてもそれぞれの守りは薄くなる。

 そのため、最初にオークの軍団に当たった部隊は足止めが任務になる。

 最初の部隊の頑張りで、ゴーレムの移動が間に合い、アルセイディアの防衛に成功したのだ。

 巨大猪であるパイアの重戦車であっても、オリハルコンゴーレムを突破する事はできない。

 突撃さえ止めてしまえば、後はエルフの弓騎兵で削り取れば良い。

 オーク達はエルフを追いかけようとするが、猪騎兵は小回りが苦手だ。

 ケリュネイアに乗った妖精騎士達を捕えられない。

 妖精騎士タムリエルの指揮でエルフの軍勢がオーク達に矢を射かける。

 エルフの矢は魔法を帯びているので強靭なオークの皮膚を貫ける。

 それでも、耐久力の高いオーク達は耐えているが、徐々に数を減らしている。


「後は私達の番ね。ここでゴブリンを叩いておかないと」


 チユキはゴブリン達を見る。

 エルフとドワーフの軍勢の全てはオークと戦っている。

 全軍を当てているからこそ、オーク達を止められたのだ。

 ここでオーク達に援軍、もしくは別動隊がアルセイディアを狙ったら形勢は逆転するだろう。

 敵の数がどれだけいるのかわからないが、残りのゴブリン達はチユキ達で絶対に止めないといけない。

 すでにリノの魔法で、ゴブリンの不快な風は止んでいる。

 この魔法の風は音を乱すので、中で喋ると変な声になるので好きではない。

 シロネは先行してゴブリンの親玉の所に行っている。

 ただ、白銀の魔女クーナはどこかに行ってしまった。

 しかし、今回は敵ではないので問題ない。

 元々戦力には数えていないのでチユキは気にしない事にした。

 風が止みリノの歌声が響き渡る。

 綺麗な歌声が苦手なゴブリン達が逃げ出し始める。


「ナオさん。それじゃあ、捕らわれた人達を誘導してくれる。私は周囲を警戒するから」

「わかったっす!」

 

 ナオは獣人形態になると、走り出す。

 人間は綺麗な歌声が苦手というわけじゃないので、そのまま残っている。

 ナオはその人間達を誘導して、安全な所に逃がすのが役目だ。

 リノの頼みで緑人グリーンマン達が来ている。

 彼らに保護を頼むつもりだ。

 チユキは魔法で周囲を警戒する。

 ゴブリン以外の相手がいる可能性もあるからだ。

 チユキはそれを警戒する役目だ。

 ただ、大軍ではないだろう。

 そんな奴がいればさすがに痕跡が残る。

 もちろん、蛇の王子のように強い単体の敵がいるのなら別である。

 空でも戦いが繰り広げられている。

 その様子をチユキは見る。

 蛇の王子と騎士姿のアルフォスが戦っている。

 歌と芸術の神と呼ばれ、戦いとは無縁の神のように思えるが、かなり強いようであった。

 そのアルフォスと天使達の攻撃により、蛇の王子は押されている。


(手助けする必要はないみたいね)


 チユキがそう思った時だった。

 魔法の警報がチユキに危険を知らせる。

 何者かがこちらに来ている。

 私は急いで魔法の防御壁を作ると、その次の瞬間に魔法弾が飛んでくる。


「どうやら防がれたようね。もう少し隠密に徹するべきだったかしら」

「誰!?」


 チユキは魔法弾が来た方向を見る。

 すると、そこには下半身が蛇の女がいる。

 一瞬ラミアかと思ったが、ちょっと違う。

 頭に角が生え、魔力もラミアに比べると段違いに高いようだ。

 チユキが作った魔法の防御壁の一部が壊れている。

 

「何者なのかしら?」

「まさか誤算だったわ。光の勇者の仲間が来ているなんて。どうしてここにいるのかしら? 貴方達が来るなんて聞いていないわ」


 角の生えた蛇女がチユキを見る。

 その目は邪魔者を見る目だ。よほど、チユキ達がここにいるのが予想外だったのだろう。


「下半身が蛇のところを見ると、蛇の王子の仲間みたいね。貴方達に答える必要はないわ」


 チユキはそう言うと杖を構えると、魔法の通信で、仲間達を呼ぶ。

 相手をするには1人だけでは厳しいかもしれない。


「黒髪の女チユキ。お前の事は調べさせてもらっているわ。かなり、やるようだけどこのボティスに勝てるかしら。力づくでも何故ここにいるのか喋ってもらうわよ」


 名乗るとボティスは逆手に持った短剣を構える。

 その柄には大きな宝石がついている。


(おそらく、魔法の杖の代わりね。武器としても杖としても、使えるようにしているのかしら)


 チユキは防御の魔法を使いボティスの攻撃に備える。


「チユキさん! 大変っす! 蛇さん達がこちらに来ているっす!」

「何ですって!?」


 突然ナオから魔法の通信が入るとチユキは声を出す。


「ふん、残念だが、仲間は来ない。お前は一人だけだ」


 ボティスがそう言うと周囲からラミアやゴーゴンが出てくる。

 来ているのはボティスだけではないようであった。

 もしかするとシロネやリノの所にも来ているかもしれない。

 チユキは少しだけ汗をかく。


「いくぞ! チユキ! 計画の邪魔になる要素はこのボティスが速やかに排除する!」


 



「ああ、天使様……。私達を救いに来て下さったのですね」


 ゴブリンの王子の側にいた人間の女性達はシロネに跪くと頭を下げる。

 天使と言うわけではないが、説明するのは面倒なのでシロネは黙っている事にする。


「うん、助けにきてあげたから、後ろに下がっていて、そいつを殺すから」

「ひいい!」


 シロネがそう言うとゴブリンの王子ジャーギは情けない声を出して後ろに下がる。

 シロネはチユキからゴブリンの生態を少し聞いた事がある。

 ゴブリンは男性社会で、その王族は必ず角を持っている。

 角を持ったゴブリンは他のゴブリンよりも優秀で部族を率いる力がある。

 だから、王の子であっても角を持たなければ王族にはなれない。

 王族のいないゴブリンの部族は指導者がいなくなり、弱体化するので、他の部族の奴隷になる。

 そのため、角を持ったゴブリンは大切に育てられる。

 ただし、2匹以上角を持った子が生まれると、王位を巡り争いになるそうだ。

 そして、角持ちのゴブリンは、同じ角持ちのゴブリンから生まれやすいらしいので、王となった者はハーレムを作る。

 そのハーレムの中にはゴブリンではない他種族も入る。

 ただ、ゴブリンの王はオスが多く、また人間の方が好みみたいなので、ハーレムに入れられるのは人間の女性が多くなる。

 このゴブリンの王子は人間の女性を攫って酷い目に合わせた。

 シロネにとって許せる相手ではない。


「馬鹿な! 偉大なるゴブリンの王になるはずの私がこんな所で!」

「何馬鹿な事を言ってんの?」


 シロネは剣を構えるとゴブリンの王子の頭を突き刺す。

 ゴブリンの頭は石のように固く普通の刃物では傷1つ付かないが、シロネの剣は魔法の剣だ。

 バターを刺すように簡単に貫ける。

 頭を貫かれたゴブリンの王子は足をジタバタさせるとやがて動かなくなる。

 ジャーギが倒れると護衛のゴブリン達は我先にと逃げ出す。

 指導者がいないゴブリンは脅威ではない、放っておいて大丈夫だろうとシロネは判断する。

 周囲の女性達がシロネに救いを求めるように見ている。


「この人達を安全な場所まで、送らなければいけないわね」


 シロネは剣を鞘に納めると女性達を移動させる事にする。

 そう思った時だった、シロネは強烈な敵意を感じる。

  

「シロネ! 上だぞ!」


 突然叫び声が聞こえるとシロネの頭上に魔法の盾が展開する。

 その直後黒い何かが魔法の盾に当たる。

 魔法の盾で防ぎきれなかった黒い何かが周囲を焦がす。

 魔法の盾のおかげでシロネと女性達は無事である。

 シロネは上を見上げる。

 そこには巨大な蛇の頭が見える。

 蛇の頭は1つではなく、複数ある。

 しかし、その首は根元の部分で繋がり、その口から真っ黒でその口から何かの液を垂らしている。

 涎は地面に落ちると土を焦がし、木々を枯らす。

 シロネはその多頭の蛇を知っていた。

 ヒュドラと呼ばれる魔物だ。

 しかし、今まで見たヒュドラよりもはるかに大きい。

 ヒュドラの上空には1名の女性が浮かんでいる。

 ただ、その女性は人ではない。 

 背中には蝙蝠の羽が生え、下半身は蛇である。


「気を付けろ、シロネ。少しやる奴が出て来たみたいだぞ。それに上位の魔獣は強敵だ」


 いつの間にかシロネの側に来たクーナが鎌を構える。


(この子が魔法の盾を張っていなければ私はともかく、彼女達は危なかったかもしれない)

 

 シロネは周囲の女性達を見てそう思う。

 女性達を救いたいと思っているシロネとしては助けられた事になる。

 

「良くわからぬが、計画を邪魔しようというのか?」


 一名の下半身が蛇の女性は憎しみの目を向ける。


「計画? どういう事よ!?」

「答える必要はない! 愛しき王子の邪魔をするのなら潰すまでだ! 行け!」


 シロネは叫ぶが、女性は答えず代わりにヒュドラに指示を出す。


「来るぞ、シロネ!」

「わかったわよ! 貴方と共闘するとは思わなかったわ!」


 シロネは剣を構え蛇達と対峙するのだった。


 ★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 ザファラーダと戦わせても良かったのですが、ヒュドラに変更しました。

 蛇女はダハークの愛妾の一匹です。


 暑さのせいか、体がだるいです。一応土日に更新予定ですが、無理だったら休みます(>_<)

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