第18話 森の中での戦い1
オークの女族長ボルダの乗る
6頭の
この城を拠点にボルダ達は各地で略奪をしている。
最後にボルダの乗る
これが、ボルダ軍団の進軍の形であった。
「いくよ野郎共! エルフの都を襲撃だ!」
「「「グワアアアアアアアアアアアアアアアアアグ!!」」」
ボルダの掛け声に配下のオーク達が雄叫びを上げる。
その雄叫びには期待が含まれている。
スケベなオーク達はこれから襲うエルフの事であった。
美しいエルフを凌辱できるのだから当然だろう。
期待をしているのはボルダも一緒だ。
もちろん、雌オークのボルダの目当てはエルフではない。
いけ好かない女共が持つお宝だ。
エルフの都は沢山の宝石で彩られているとボルダは聞いていた。
「美しい宝石はあたいのような美女にこそふさわしい…」
笑うとボルダは今まで集めた宝の1つを手に取る。
宝は首飾りで巨大なダイヤモンドを中心に小粒のサファイアとエメラルドが嵌め込まれている。
「ぐふふふふ。これよりも、もっとすごいお宝があるのかしらねえ。絶対に手に入れてやるよ」
ボルダは首飾りの中央にあるダイヤモンドを舐める。
この世において宝石ほど、ボルダを魅了するものはない。
世界中の宝石を集める事がボルダの夢だ。
「ふふ、母様。あたしは妖精騎士に興味があるわ。寝台でどんな声で鳴いてくれるかしら」
「ええー!? 姉様が上に乗ったら折れてしまうわよ。顔は良いだろうけどね。剥製にして愛でるだけにした方が良いんじゃない」
「うーん。やっぱり、そうなのかしら。顔は良いのに残念ね」
ボルダの娘達が楽しそうに喋る。
ボルダはこれまでに子どもを2000匹以上生んだが、その中で娘は10匹ぐらいだ。
喋っている娘の姉達はすでに独立して、遠くの地で暮らしている。
ボルダと同じように多くの男共を従えているはずであった。
オークの雌はオークの雄を操る力がある。
しかし、雌が生まれる確率は低く、それぞれの地で群れを作る。
それがボルダ達オークなのである。
「偉大なるオークの大族長ボルダ様と姫様方。ご機嫌ですね」
ボルダの側にいる
ラミアは蛇の王子ダハークの元から派遣されて来た者だ。
ボルダの城に滞在して、魔法で補助をするのが役目である。
オークは魔法が苦手であり、エルフの迷いの魔法を打ち破る事は出来ない。
ラミアがいなければ、森の中で迷ったあげく、妖精騎士達によって削り取られていただろう。
しかし、ラミアの探知能力により、正しい道を進むことができる。
「まあね。エルフは宝をたんまりと持っているそうじゃないかい? それを本当に全部あたいのものにしてもかまわないのだろうね?」
「もちろんです、ボルダ様。もっとも、エルフ達を倒せたらの話になりますが」
ラミアは頭を下げて言う。
「ふん、正面からの殴り合いでならエルフに負けやしないよ」
ボルダは笑う。
エルフ達は魔法には強いが、力が弱い。
正面から戦えば負ける事はない。
「それよりも、天上の奴らは本当にこちらに来ないのだろうね? さすがにあれの相手はできないからね」
「それは大丈夫です。我れらが王子が天上の者達を押えます。その間に好きなだけ略奪をなされれば良いのです」
「ぐふふ、わかっているさ」
ボルダはその言葉に頷く。
エルフの都を占領するつもりはない。
いくらなんでも、それは危険である。
ボルダはラミアを見る。
ラミアの主である蛇の王子が何を狙っているのかボルダにはわからない。
だけど、利益があるのなら、乗らない手はない。
だから、ボルダは進撃する。
「お相手はエルフとドワーフだけ。ボルダ様が天上の奴らを相手にする事はないでしょう」
「ドワーフ? エルフはドワーフと仲が悪いんじゃないのかい? 奴らは鈍足だが、固いんだよね」
ボルダは昔の事を思い出す。
過去にドワーフの集落を襲った事がある。
その時に反撃を受け、敗走した。
ボルダにとって苦い思い出である。
だから、猪騎兵すら止めるドワーフの技術力を侮る事はできない。
ボルダはそれを危惧する。
「それについては調べています。奴らもこちらの侵攻する道筋を探っているようです」
ラミアは説明する。
ナパイアの斥候がうるさく飛び回っているようであった。
ナパイアは風エルフとも呼ばれ、素早い上に空を飛び、
戦闘力は皆無だが、進撃方向を探られたらやっかいであった。
「大丈夫なのかい? うん? どうしたんだい」
ボルダが大丈夫なのか問おうとした時だった。
前方の配下の動きが遅くなる。
「どうやら、エルフ共が足止めに来たようですね」
「なんだって?」
ラミアの言葉でボルダは匂いを探る。
オークは鼻が良く、遠くの匂いを感じ取る事ができる。
確かにエルフの匂いが前方に感じられた。
「映像を出しましょう」
ラミアが魔法で前方の様子を映し出す。
その映像の中ではオレイアドの
美しい
その男知らずの女達が呼び出した土の中位精霊である
「男との楽しみを知らない女なんかの魔法に止まっているんじゃないよ! 蹴散らしな! グワアアアアアアアアアアアアアアグ!!!!」
ボルダは雄叫びを発する。
ボルダの雄叫びは配下のオーク達を滾らせる効果がある。
力を増したオーク達が猪を駆り、進撃する。
さすがの
「さあ、もっと進撃するよ! エルフ共の都はもうすぐだよ!」
ボルダ達はさらに進撃する。
しかし、途中まで進んだところで再び遅くなる。
「今度は何だい!?」
ボルダは苛立つ。
今度はエルフの匂いがしない。
かわりに石と鉄の匂いが感じられた。
ボルダは嫌な予感がする。
「どうやら、ドワーフのゴーレムが現れたようですね」
ラミアが再び魔法の映像で前方の様子を映し出す。
映像の中でボルダの配下達を石で出来た人型が前方を遮っている。
ドワーフ共のストーンゴーレムであった。
その上空にはドワーフの乗る
ストーンゴーレムはかなりの数だ。
映像の奥を見ると数は少ないがアイアンゴーレムの姿も見える。
「侵攻の道筋が読まれていたとは思えません。おそらく、全方位にゴーレムを配置していたのでしょう。まさか、これ程の数を防衛に割くとは、ドワーフ達も奮発しましたね」
ラミアは嬉しそうに言う。
ボルダにはなぜラミアが嬉しそうにするのかわからなかった。
しかし、
「さっさと蹴散らすんだよ! うかうかしていると増援が来ちまうよ!」
ボルダは叫ぶ。
ゴーレムの数は多いがあれだけの数なら突破できる。
問題は手間取ると増援が来ることであった。
全方位に配置しているのなら、かなりのゴーレムが他にいるのだろう。
その全てが来たら、さすがに突破できない。
ボルダ達がどこから進撃しているのか、既にエルフ達にバレているはずであった。
時間をかけると大変な事になる。
ボルダは再びラミアを見る。
その顔は笑っていた。
◆
ゴブリン王子ジャーギの乗る一際大きな
この館を拠点にジャーギは人間達を略奪するのだ。
その次に
「さあ、行きますよ! オーク共の後に続くのです! だが、決して急いではいけません! エルフの軍団はオークに任せ、我々はおこぼれをいただくのです!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアギャ!!」
ジャーギがそう言うと配下のゴブリン達が叫ぶ。
決して急いではいけない。
エルフ達は強い。正面からは戦えない。
不意を突き横から戦うのだ。
だから、馬鹿なオーク共に矢面に立ってもらわなくてはならない。
そもそも、ジャーギの配下の多くは歩兵であり、進む速度は遅い。
歩兵はゴブリンの戦士を中心にゴブリンの歩兵と人間の奴隷兵で構成されている。
ゴブリンの歩兵はともかく人間の奴隷兵の足はとても遅い。
幻覚キノコの効能で従順になっているが、代わりに身体能力が落ちているのだ。
しかし、あまりにも遅すぎるのでジャーギは苛立つ。
「人間共を鞭で叩き、急がせなさい! あまりにも遅い奴は食っても構いません!」
ジャーギは側近であるゴブリン戦士長に伝えて、命令させる。
人間は家畜であり、働かせ、使えなくなったら肉として喰うのだ。
動けない人間はゴブリンの餌であった。
「偉大なるゴブリンの王子ジャーギ様。どうかお慈悲を……」
突然、側に侍らせていた妾の1人が頭を下げる。
妾は人間の雌だ。
とある人間の巣を襲ったときに攫い、顔が良かったので側に置くことにしたのである。
(そういえば、この雌のつがいが奴隷にいましたね)
ジャーギは奴隷の中にこの女の夫がいた事を思い出す。
何度もこの女の体を抱いたが、心までは夫にあるつもりなのだろう。
だが、それはジャーギを楽しませるだけである。
「仕方がありません。良いでしょう、貴方の夫は助けます。ただし、今夜私を楽しませなさい。良いですね」
「はい。ジャーギ様」
人間の雌は頭を下げる。
もちろん、夫を助けるというのは嘘だ。
そもそも、ジャーギは奴隷の管理には興味がない。もう死んでいるかもしれないのだ。
嘘を吐く必要はないが、その方が楽しめそうだからジャーギはそう言ったにすぎない。
(そろそろ、この雌も飽きて来ましたね)
ジャーギは新しい雌が欲しいと思う。
もちろん次に狙うのはエルフである。
強力な魔法を使うが、1匹や2匹なら攫う事も可能なはずであった。
エルフは人間の雌よりもはるかに美しいので、ジャーギは今から楽しみであった。
「殿下! 大変です!」
ジャーギが妄想に浸っていると側近の
ジャーギの養育係であり、呪術の師でもある。
ゴブリンの中では強い魔力を持ちジャーギの副官を務めている。
もっとも、ジャーギに比べれば弱い魔力だ。
角のないゴブリンの魔力ではどんなに努力しても限界がある。
角ありし者であるジャーギは、選ばれしゴブリンであった。
「爺! 何があったのです!?」
「はい。音乱しの風がなぜか弱まっているのです。もう一度、風を吹かす儀式を行う必要があります」
その言葉にジャーギは驚く。
(そういえば、風が弱くなっていますね。どういう事ですか?)
ジャーギ達の周りには音乱しの風が吹くようにしている。
この風はジャーギと側近である呪術師達の儀式によって吹かせたものだ。
音乱しの風が吹く場所では、誰も歌えなくなり、外から歌が聞こえなくなる。
ゴブリンは歌が苦手であり、音乱しの風が止めば、エルフの歌が聞こえてしまう。
そうなれば、戦いどころではなくなる。
「わかりました。すぐに儀式を行います。呪術師達を呼びなさい」
ジャーギは立ち上がると儀式の準備をする事にする。
小範囲ならともかく、音乱しの風を軍団全体に吹かせるは大変で、普通なら不可能である。
しかし、ジャーギはそれを行う事ができる。
(これだけの風を吹かせる私は優秀なのだ。父上もそれがわかっていない。なぜ、弟を後継者に選んだのですか?)
ジャーギは弟の事を考えて歯ぎしりをする。
後継者争いに敗れたジャーギは生まれた地を出て行かねばならなかった。
ジャーギはいつか必ず戻って、自身の方が優秀だと思い知らせてやると誓う。
「残念だけど、貴方の風はもう吹かない」
突然、ジャーギの頭上から声がする。
ジャーギが見上げると翼が生えた女が飛んでいる。
美しい女である。
その女は剣の切っ先をこちらに向けている。
「て、天使!? 馬鹿な!?」
ジャーギは驚き、後ろに倒れ尻を床に激しくぶつける。
天使はゴブリンの相手をしない。
なぜなら、それはハンマーで蟻を潰すようなものだからだ。
天使にとってゴブリンは虫のようなもの。
人間を使う事はあっても直接殺しに来る事はない。
天使は冷たい目でジャーギを見下ろしている。
周りにいた妾達が額を床に付けて天使を讃える声を出す。
人間の雌にとって天使は敬うべき存在だからだ。
「捕らえた人達を解放させてもらうわ!!」
天使は怒りの視線をジャーギに向けるのだった
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
オークの元ネタはグレンデル。グレンデルは種族でオークナスです。
そこからオークが生まれたようです。
つまりグレンデル=オーク。またグレンデルよりも母親の方が怖ろしいという記述があるので、オークは女性の方が強いのかなと思い、こういう設定にしました。つまり女性が強い社会です。
対してゴブリンは男社会にしました。
自分がこの小説で一番やりたいのは神話や騎士物語に出てくるような異世界を作りたいという事です。その中にはドロドロした話も含まれます。
例えばアーサー王物語は部下に妻を寝取られて、姉との間に出来た子と殺し合います。
そんな、世界を作りたかったのです。そのためのレイジやシロネでした。
だけど、やりすぎて読まれないのでは意味がない。そこが難しいところだったりします(´;ω;`)
以上なろうでの後書き転載。
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