第23話 運命の導き

 時刻は夜。

 月光がヴェロスの王宮を照らしている。

 シロネはドワーフ製のガラスの窓から、月を眺める。

 リジェナとの話を終えて、シロネとキョウカは用意してもらった部屋にいる。

 隣の部屋ではリジェナが眠っている。

 暴れたのでカヤが眠らせたのだ。

 リジェナはクロキの所に戻りたがったが、重要な情報源なので帰す事はできなかった。

 ちょっと可哀そうだなとシロネは思う。

 リジェナの持っていた転移魔法が込められた石を使えば、クロキの所まで簡単に行く事ができる。

 シロネはそれを使おうかと思ったが、カヤに取り上げられた。

 まだ向こうの状況がわからないのに、そんな危険な事はさせられないからだ。

 誰かが部屋に入って来る気配を感じシロネは振り向く。

 入って来たのはカヤである。


「どうだった、カヤさん」


 シロネはカヤに聞く。

 カヤは先程までチユキと通信の魔法で連絡を取っていた。

 その腕には腕輪があり、腕輪には通信の魔法が込められている。

 通信の魔法は少し厄介な魔法で、互いに通信の魔法が使える者でなければ会話をする事ができない。

 シロネ達の中で、まともに通信の魔法が使えるのはチユキだけだ。だけど、魔法の道具を使えば問題なく会話をする事ができる。

 レーナからもらった腕輪は、通信の魔法を使えない者でも腕輪の力によって同じ魔法が使う事ができた。

 シロネ達は別行動をとる時にチユキからこの腕輪を渡されたのである。

 もし何かあったときにはこれで連絡する手はずになっている。


「どうやら、一度合流したいそうです」


 話しを終えたカヤは左手の腕輪を触りながら言う。


「合流? 向こうで何かありましたの、カヤ?」

「はいお嬢様。どうやら、向こうで問題があったようです。出来る限り急いで戻った方が良いでしょう」


 カヤはキョウカに頭を下げて言う。


「ええ、やっとクロキの事がわかりそうなのに……」


 シロネは当然反対する。

 クロキの手がかりを得たのだこのまま戻る気にはなれなかった。


「ですが、シロネ様。チユキ様の口調では向こうも大変な事になっているようです。私としては戻るべきだと思います。シロネ様は心配ではないのですか?」

「うう……」


 カヤの問い詰めにシロネは頭を抱える。

 クロキと同じように、レイジ達も大切な仲間である。

 仲間が困っているのなら助けに行きたいとシロネは思う。

 どちらかを選ばなければならない状況に迷う。


「カヤ、その言い方は卑怯ですわ。向こうも大変かもしれませんが、折角手がかりが掴めそうなのです。今すぐ戻る事は反対です」


 キョウカが言うとカヤがうっと唸る。


「……、わかりましたお嬢様。今すぐ戻るのはやめましょう」

「ごめんなさい。キョウカさん、カヤさん」


 シロネは2人に謝る。

 キョウカとカヤはシロネに付き合ってくれているのだ。

 レイジ達に問題が発生したのなら、そちらに行きたいはずである。

 感謝するしかなかった。


「それで。これから、いかがいたしましょうか、シロネ様?」

「私としては、このままアルゴアに行こうと思ってるの。ナルゴルに近いからね。それにリジェナさんの事もあるし」


 シロネはリジェナの眠る隣の部屋を見る。

 リジェナは元々アルゴアの人だから、故郷に帰りたいかもしれないとシロネは思う。

 それに折角出会えたオミロスとリジェナがどうなるのかを見届けたいと思っている。


「わかりました。しかし、レイジ様達も心配です。どこかで撤退をお願いします」

「うん、わかったよカヤさん」


 シロネはカヤの言葉に頷く。


(私の事で2人に迷惑をかける訳にはいかないし、あんまり無理はできないかな。だけど、来て早々にクロキに会えたんだから、きっとまだ糸は繋がってるはず)


 シロネは運命を信じて進もうと思うのだった。





 ゴズの目の前に裸の人間のメス達が寝そべっている。

 ゴズは女の顔を見る。

 人間のメスの中では平凡な方だろう。


(不器量なのもいれば、なかなかの美人もいる。だけど、勇者の妹達やリジェナには及ばないな。だが、今はこれで我慢するぜ)

 

 ゴズはリジェナの事を思い出す。

 リジェナは尋問を終えた後、勇者の妹達に連れ去られて行った。

 リジェナに嫌われた哀れなオミロスは、彼女と話す事ができず、すごすごと宿へと戻っていった。

 ゴズは薬を飲まされた事で疼く下半身を静めるため、舞踏会を訪れたメスの何人かを誘って、付いて来たメスを抱き終わった所だ。


(魅力的なパルシスに抱かれて、このメス共は満足だろうぜ)


 ゴズは笑う。

 このメスがゴズの本当の顔を知ったら発狂するだろう。

 だが、ゴズにとってはどうでも良い事だ。

 自身の下半身を満足させればそれで良い。

 ゴズの下半身の疼きはおさまらない。

 あの忌まわしい白銀の魔女に飲まされた薬の影響は消えてくれなかった。

 この疼きを治めるのには、この程度のメスでは全然たりないのである。


(この疼きはリジェナに静めてもらわなければな……)


 ゴズは窓から月を見上げてそう誓う。

 いなくなったと思っていた自身のメスが見つかった。

 リジェナは白銀の魔女クーナに捕らわれていた。

 ゴズはクーナの事を良く知らない。

 なぜなら、ナルゴルの事にはあまり興味がなかったからだ。

 第一、ナルゴルには自身よりも遥かに強い化け物が沢山いる。

 だから、ゴズは近寄りたいとは思わなかったのだ。

 そのため、ナルゴルの事件が耳に入ってこなかった。

 なので、クーナのような、美しい魔女がいた事を知らなかった。


(リジェナの話では、魔王の姫との事だ。あの醜い魔王にあんな美姫が生まれるとは信じがたいが、以前に魔法の映像で見た魔王の妃に似ているからきっとそうなのだろう)


 ゴズは正直に言って、魔王に似てなくて良かったと思う。

 そして、何故かは知らないが、リジェナを連れてヴェロス王国に来たようであった。

 ゴズは舞踏会の間、体を動けなくされていた。

 動けるようになった後、アルゴアに関係する事だからと王の執務室に呼ばれたのだった。

 そして、リジェナに再会した。

 どういう経緯で勇者の妹に捕らわれたのかゴズにはわからない。

 しかし、幸いな事にリジェナを殺す気がなさそうであった。

 再びリジェナを得る機会が巡ってきた。


(やはり、俺様とリジェナは運命で結び付けられているようだな。運命の女神カーサにお祈りをしたくなるぜ。今度こそ、逃しはしない。勇者にも白銀の魔女にも渡さない。俺様のものだ!)


 ゴズは考える。

 どうすればリジェナを手に入れられるかを。

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