第19話 オミロスとリジェナ1
「そうか、オミロスとかいう奴がリジェナを探しているのか。ならば、お前よりもオミロスを探した方が良いのかもしれないな」
目の前の白銀の魔女がそう言うとゴズの体が自由になる。
ゴズは白銀の魔女クーナに別室に連れ込まれると魔法で体を拘束されて、リジェナについて知っている事を喋らされてしまったのである。
(この魔女に全て話してしまった……。それにしてもリジェナの事を聞いて来るのはなぜだ?)
そこまで考えてゴズはある事に思いつく。
(まさか、リジェナを攫ったのはこの白銀の魔女なのか?)
そもそも、白銀の魔女がリジェナの事を知っている事がおかしいのだ。
しかし、攫ったのが白銀の魔女なら、リジェナを知っていてもおかしくなかった。
確かめなければとゴズは思う。
「もう良いぞ、後は好きにしろ。クーナは行く」
そう言ってクーナは去ろうとする。
「お待ちください、クーナ様!!」
ゴズは呼び止める。
そちらの用は終わっても、ゴズの用は終わっていない。
「なんだ、ゴズ? 何かまだあるのか?」
クーナが不機嫌そうに聞く。
不機嫌そうな顔をしてもその顔は美しかった。
「もしかしてクーナ様が……リジェナを?」
「おまえに言う必要は無い」
しかし、クーナは冷たく答える。
「それだけか? ならばクーナは行くぞ」
再びクーナは去ろうとする。
ゴズは何とか引き留めようとして、急いでクーナの前に回り込む。
「おっ、お待ちくださいクーナ様! そっ、そうだ! 実はこの国には特産品の果実酒があるらしいのです! どっ、どうでしょう! 1杯付き合っていただけませんか?お土産に持って帰ると閣下も喜ばれるでしょう」
慌ててゴズは答えると、胸に手をやる。
ゴズの懐には媚薬がある。
(これを目の前の魔女に飲ませてやろう。この媚薬を飲めばいかに強力な魔女といってもただの発情したメスに成り下がるはずだ)
そしてベッドの上でリジェナの事を聞きだしてやろうとゴズは思う。
しかし、それを聞いたクーナの目がさらに冷たくなる。
「飲ませたいのは果実酒だけか?」
「なっ!? 何の事でしょうかゴブ!!?」
慌てたためか、ゴズは口調がおかしくなる。
「愚かだな、お前は……。あまりにも愚かだ。魅力も知性もクロキにはかけらも及ばない。このまま黙って行かせてやろうと思ったのだが身の程を知るべきだな」
そのクーナの言葉を聞いてゴズの背筋に冷たい物が走る。
(ま、まさか!? 気付かれた!?)
ゴズは気付かれたのかと思い慌てる。
「あの……。私はただ果実酒を一緒に……」
「それは嘘。お前程度の魔力ではクーナに嘘はつけない。お前のその懐にはゴブリンの女王から与えられた媚薬が入っているのだろう」
その言葉を聞き目が驚きで限界まで開かれる。
(やばい! 媚薬の事を知っている!)
ゴズはバレたと思い逃げようとする。
「クーナの目を見ろ」
しかし、ゴズが逃げるよりも早くクーナの目が光る。
するとゴズの体が動かなくなる。
「お前が持っている媚薬は、お前が飲み干せ」
そのクーナの言葉を聞くと、ゴズの手が勝手に動き懐から小瓶を取り出す。
(や、やめて~!! これは飲んではいけない物なんだよ~!!)
ゴズは心で叫ぶ。
一滴二滴でもかなりの効果のある媚薬である。
この量の媚薬を飲むと正気ではいられなくなるだろう。
ゴズは抵抗するが、手が勝手に動き媚薬を口へと運ぶ。
媚薬はとても甘く、ゴズの口の中に広がっていく。
半分ほど飲んだ時だった。
ゴズの下半身が震える。
「おふっ……おふっ……」
ゴズは変な声を出す。
(こ、股間がいきり立つ)
劣情が股間から湧き上がって来るとゴズはクーナを見る。
美しい白銀の髪に、大きな胸。その体からは甘い芳香を漂わせている。
ゴズはこれほどまでに美しい女性に会った事がない。
たまらなかったゴズはクーナに襲い掛かろうとする。
「えっ……あふっ……」
しかし、ゴズは半歩進んだところで足が地面に張り付き動かなくなる。
まるで金縛りにあったかのようであった。
「醜い顔がさらに気持ち悪くなったな……。正直、存在自体が不快だ」
クーナは冷たい瞳でゴズを見下す。
その瞳を見た瞬間だった、ゴズの下半身に電流が走る。
ゴズは両手で股間を押さえてびくびくと動く。
「あへっ……」
情けない声を出しゴズは漏らしてしまう。
股からこぼれた液体が床を汚していく。
「お前は舞踏会が終わるまでそこで悶えていろ」
クーナはゴミを見るような目向けると、冷たく言い放ちどこかに行く。
「待って……クーナ様……あへ……あへ……」
しかし、何もする事ができず、涎をたらしながら立ち尽くすしかなかった。
◆
シロネがいなくなり、踊る相手がいなくなったオミロスは、1人になれる場所を探す。
ダンスをしないのはシロネの都合だ。
この国の王であるエカラスに対しても問題ないはずであった。
オミロスが見る限り、ヴェロス王国と国交を結べそうであった。
だから、無理して踊る必要もないと判断する。
オミロスは王宮を少し歩く事にする。
そして、ある程度歩いた時だった。少し空腹を感じる。
オミロスは昼食以降何も食べていない事に気付くと、食事が用意された部屋へと行く。
その部屋は広く様々な食べ物が置かれていた。
全て舞踏会へ来た各国の王侯貴族に用意された物だ。
オミロスは感嘆する。
これほどの御馳走を今まで見た事がなかったからだ。
子羊の肉が中に挟まれたパン、濃密な魚醤を付けて焼かれた鰻の串焼き、ニンニクと香草をつめて焼かれたガチョウの丸焼き、蕪と人参と玉ねぎのスープ。
どれもおいしそうな匂いを漂わせている。
「さすがヴェロス王国だ、豊かだな。アルゴアにはこのように色々な種類の食べ物はないな」
オミロスは子どもの頃を思い出す。
オミロスは子どもの頃、豆のスープばかり食べていた。
もっとも、それは今でも変わらない。
オミロスはそこで思いつく。
「リエットに何か持って帰ってやりたいな」
オミロスの年下の従妹は一緒に来たがっていた。
遊びに行くわけではないので置いて来たのである。
御馳走の話を聞いたら羨ましがるに違いなかった。
「あまり行儀が良くない事だが、アルゴアには食べ物がたくさんある。これだけあるのだ何も問題はないだろう」
オミロスは懐から手拭き布を取り出す。
まだ使っていないので綺麗なままだ。
オミロスは焼き菓子等を持って帰ろうと思い、菓子類が置いてある場所を探す。
場所は程なく見つかった。
その場にある焼き菓子を手に取る。
焼き菓子は甘いヴェロス果実を薄く切って小麦に包んで焼かれた物だ。
オミロスはそれをいくつかを手に取り布で包む。
「これぐらい有れば良いだろう」
他にも持って帰りたいが、こういった食べ物を持って帰るための容器がないのでオミロスは諦めるしかなかった。
その時、オミロスは一人の女性に目が行く。
その女性はいくつかの食べ物を手に取り何かの容器に入れていた。
彼女が何をしているのか一目瞭然だ。
オミロスと同じように食べ物を持って帰ろうとしているのだ。
「上には上がいるな……。同じように貧しい国から来たのかもしれないな」
オミロスは焼き菓子を少々持って帰るのが精いっぱいだが、彼女はあらゆる食べ物を取っているようであった。
オミロスはその女性の顔を見ようとする。
女性の顔は前髪と髪飾りの布で少し見えにくい。
「えっ!?」
思わずオミロスは驚きの声を出す。
彼女が顔を少し動かした時に彼女の横顔が見えたのである。
その顔はオミロスがこの世で誰よりも会いたい人の顔だった。
女性の側に駆け寄る。
「リジェナ」
オミロスがそう呼ぶと女性がこちらを見る。
その顔は驚きで目と口が限界まで開かれていた。
「オミロス……」
女性が呟く。
ゴブリンの巣穴にいるはずのリジェナがそこにいた。
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