第22話 黒い霧1
「ゾンビだっ!!」
「門が開いている!! なぜだ!?」
「助けてくれ!!」
ガリオス達が駆け付けた時には既に門は開かれていて、多くの人々が騒ぎ始めていた。
「おい! 門が空いているぜ! 門番は何をやっているんだ!?」
ストルが大声を出す。
当り前だが、門番は魔物が近づいてきたら門を閉めるのが仕事だが、それが果たされていない。
「クロの言うとおりでしたね。大変な事が起こっているみたいです。ゾンビ達がこれ以上中に入らないようにしなければいけません」
ゾンビは動きが遅く、まだ門の近くの広場にいるだけであった。
しかしゾンビの数は多く、放っておけば大変な事になるのは明白であった。
ニムリはそう言うと
シロネ程の魔力があれば、触媒無しでも魔法を使う事ができるが、ニムリの魔力では触媒無しに魔法を使う事が出来ない。
また、光の魔法の方がアンデッドに有効だが、ニムリはその魔法を使う事が出来ない。
それでも無いよりはましであった。
ガリオスの剣が赤く光る。
「ありがとうよニムリ先生! いくぜみんな!」
「「おおっ!」」
ガリオスの号令の下、自由戦士達がゾンビに挑む。
ゾンビは強くは無いが、倒しにくい相手だ。
自由戦士達はゾンビを倒そうと必死になるが、簡単に倒れない。
「まずいですね。このままでは……。しかし、なぜ増援が来ないのでしょう?」
ニムリが疑問を口にする。
ガリオスはニムリの言う通りだと思った。
このままでは押し切られるだろう。
騎士や王宮の兵士達が動いている気配はない。
その時突風が吹いた。
「何が……」
風がやんだ後、ガリオスが目を開けると門の近くにいたゾンビ達がいない。
代わりにいたのは光の翼を持つ少女。
塔で共に戦ったシロネであった。
「天使様だ!!」
「天使様が助けに来てくれた!!」
周りの人間が口々に言う。
「ここは私が抑えるから急いで避難して!!」
シロネは振り向くと笑うのだった。
◆
チユキは
門の付近ではシロネと自由戦士達がゾンビ達を抑えている。
「間に合ったみたいね」
次にチユキは北を見る。ロクス王国は南の正門の他に北に裏門がある。
そこも危ないかもしれないので、そこにはキョウカとカヤに行ってもらっている。
また、リノとサホコには負傷者の救助や都市内部の巡回をしてもらうように頼んでいた。
そしてナオにはゾンビの原因となっているであろうストリゲスの捕縛に向かわせている。
後はレイジの陽光の魔法でゾンビ達を一掃する。
それが、チユキが立てた対処法である。
「これでうまく行けば良いのだけど……」
チユキは呟く。
(なぜこんな事になったの? おそらく監視している事がばれたのね。ルクルスは大丈夫かしら?)
さっさと退治しておくべきだったかもしれないと、チユキは後悔する。
「待たせたなチユキ」
「いえ、あなたにしては速い方よ」
チユキは振り向きレイジに答える。
レイジはマイペースだから、いつ来るかわからない、遅い時もある。
チユキは少し皮肉を込めて言ったのだが、レイジは相変わらず涼しい顔だ。
「それじゃ、やるとするか」
レイジの手が光り輝き始める。
近くにいるチユキは目が明けられなくなる。
レイジがその光を空へと放り投げる。
その光は夜空を照らし、再び太陽が登ったのかと錯覚させるほどだ。
極大の陽光の魔法である。
光属性に特化したレイジならではの技であった。
その陽光はロクス王国の全てを照らし、ゾンビも一網打尽できるはずであった。
チユキは下を見る。
「えっ、そんな……」
王国が黒い霧のようなもので包まれている。
太陽の光で照らされた事でチユキはその事に初めて気付く。
「あれは、夜の衣……」
レイジもまた驚き霧を見る。
主に闇に生きる種族が使う事が多い。
ロクス王国を覆う霧は夜の衣と同じであった。
「確かに
前回戦った時のストリゲスにはこれほどの魔法を使える者はいなかったようにチユキは思う。
もしかすると、強大な魔物が裏にいる可能性があった。
「これ程の魔法を使う奴がいるなんて。レイジ君。ナオさんの助けに行った方が……」
チユキはそう言いかけてレイジの方を見る。
レイジは王宮の方を見ている。
その様子がおかしい。
「レイジ君?」
「チユキっ!!」
レイジが突然声を出す。
「ど、どうしたのレイジ君?」
「アルミナが危ない! 後は頼む!!」
「ちょっとレイジ君っ!!」
チユキが止める暇もなくレイジの姿が消える。
追跡移動の魔法であった。
「もう……。勝手なんだから……。こっちはどうするのよ?」
チユキはレイジがいなくなった空間に文句を言う。
このまま王宮に行って文句を言ってやりたくなるが、それどころではなかった。
チユキは急いでナオの所に行く事にする。
ナオは回避能力が高い代わり攻撃力が低い。そのため苦戦する事があるからだ。
(ストリゲス程度なら問題はないけど、それよりも強い魔物かもしれない。急いだ方が良いわね)
チユキは魔法でナオの位置を探る。
一刻の猶予も無かった。
◆
剣を受け止めるとキンという音がする。
「そんな……ルクルス卿。なぜ……?」
レンバーは剣を振るった目の前の男に呼びかける。
剣を振るってきたのは勇者様を守るための神殿騎士のルクルスだ。
彼はこの国に来た神殿騎士達の大隊長であり、レンバーは何度か話をした事がある。
彼は他の神殿騎士達と違い、レンバー達を見下したりする所がなく、人格的に優れた人物に見えた。
(なぜだ!? ルクルス卿!? なぜ、王城を襲う?)
レンバーはルクルスの剣を防ぎながら疑問に思う。
塔より戻り、王に報告をした後で武装もそのままでアルミナに会いにいった。
そして、アルミナと話している時に突然悲鳴が上がったのが始まりだった。
レンバーは異変を感じ取り、アルミナと王を安全な場所に移動させるため走っている所をルクルスに出会った。
その時ルクルスはレンバーの同僚の騎士の1人を倒した所であった。
周囲を見ると衛兵や他の騎士も何人か倒れているのが見える。
レンバーは正直何が起こっているのかわからなかった。
その後ルクルスはレンバー達を確認すると、突然向かってきて剣を振るって来たのである。
そして、レンバーは何とか最初の一撃を受け止めた所であった。
「なぜです?ルクルス卿! なぜ我々を襲うのです!!」
しかし、ルクルスは何も答えない。声が届いてないようであった。
そこでレンバーはようやく気付く、ルクルスの眼が正気ではないことに。まるで、感情を無くしてしまったかのようだ。
だが、今のレンバーにはそんな事を気にしてる暇はない。
ルクルスと剣を交える。
その相手の剣は速く、レンバーは防ぐのがやっとだった。
(強い! さすが聖レナリアの神殿騎士だ!)
普通騎士になる者はその国でも高い身分の子弟である。
レンバーもロクス王国の貴族の出身だ。
しかし、神殿騎士は血筋よりも実力を重視する。
実力さえあれば、身分の低い者でも騎士になる事ができる。
逆にいえば、実力がなければ身分の高い者でも神殿騎士にはなれない。
レンバーの目の前にいる男は、その神殿騎士の隊長になれる程の実力者なのであった。
「レンバー……」
レンバーの後ろにいるアルミナが不安そうな声を出す。
アルミナが後ろにいる以上、レンバーは倒れるわけにはいかなかった。
ルクルスはさらに剣を繰り出してくる。
その剣は速く重い。
レンバーは守るのがやっとであった。
何度目か剣を合わせたときだった、突然ルクルスが剣を引き下がっていく。
「何が……」
レンバーは疑問に思う。
このまま戦えば負けていたからだ。
レンバーが疑問に思っていると、ルクルスの後ろから何者かが出てくる。
「お前は薬師オルア……」
その人物の事をレンバーは知っていた。
2週間前にこの国に来た薬師のオルアである。
レンバーはオルアを見る。
オルアは目が悪くいつも黒い布を目に巻いていた。それが今は解かれている。
「ストリゲスだったのか……」
レンバーはオルアを睨む。
オルアの目は人間の目ではなかった。その目は丸く大きく白い部分が黄色かった、それは梟の目、ストリゲスの目である。
そして、レンバーは気付く。昨日の晩に倒れた神殿騎士が最初に運ばれた所がオルアの店だった事に。
「そうかあの時に……」
気付くが後の祭りだ。
「お前は他の騎士とは違い、少しはやるようだね」
オルアが笑って近づいてくる。
(まさか人間に化けて入って来る奴がいるとは……)
王国への入国は同盟国の市民かロクス市民の紹介がなければ原則入国させない。
しかし、もちろん例外がある。それは入国希望者が魔術師等の特別な技能を持っている場合だ。
理由はもちろんそういった技能者が国にいる方が国の利益になるからである。
オルアも薬の知識に精通していた事から王国への滞在を許していたのである。
しかし、これからは技能者といえども入国を制限した方が良いかもしれないとレンバーは考える。
もっとも次があればの話だが。
「さてその姫様をこちらに渡してもらおうか。勇者を倒す道具になってもらうよ」
「そんな事をさせるか!!」
レンバーは剣を振りかざし突撃する。
(この女を倒せば全ておわるはずだ。オルアは油断してルクルス卿を後ろに下げている。今がチャンスだ!)
レンバーはそんな事を考えるが、それは甘い考えであった。
オルアが腕を振るうと何かが飛んでくる。
「なっ!!」
レンバーは慌てて防御の姿勢を取るが遅く、全身に激痛が走る。
飛んで来たのは鳥の羽であった。
羽が矢のように飛んできて、レンバーの体を貫いたのである。
「ふん、人間風情にやられるわけがないだろ。私の
オルアはレンバーの様子を見て笑う。
「くそっ……」
レンバーは膝を付く。
体が痺れて動くことができなくなっていた。
「レンバー!!!」
アルミナが悲痛な叫び声を上げる。
「アルミナ、逃げるんだ……」
レンバーはそう言うが同時に無理だろうとも思う。
逃げるには来た道を戻らねばならず、そちらは行き止まりだ。
アルミナに逃げ場は無かった。
(なぜこんなにも私は非力なのだろう。好きな女1人守れないなんて……)
レンバーは涙が出そうになるが、どうにもならなかった。
オルアが近づくとレンバーを蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされたレンバーはそのまま通路の端に転がる
オルアはそのままアルミナに近づいていく。
「さあ、こっちに来るんだよ!」
「いやー!! 助けてレイジ様―――!!」
「ふふっ勇者を呼ぶのかい。それは……」
オルアが何かを言いかけた時だった、アルミナの前が光輝く。
「なに!!」
オルアは飛んで後ろに下がる。
「レイジ様っ!!」
アルミナは嬉しそうな声をあげる。
光が収まった後、そこに立っていたのは勇者レイジであった。
「アルミナ!!助けに来たぜ!!」
レイジが笑う。
その勇者を見るアルミナの表情はレンバーには見せた事のない表情であった。
レンバーは複雑な表情で2人を見守るしかなかった。
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