第16話 ストリゲスの塔1
「昨日はお楽しみだったみたいだな」
クロキは離れの部屋から出てガリオスの家に行くと開口一番そう言われる。
(えっ? 何の事?)
正直何も覚えていないので何も言い返せない。
(そもそも昨晩は何があったのだろう?)
クロキにはレーナの狙いがわからなかった。
本来なら急いでここから逃げなくてはいけない状況のはずだ。
……はずなのだが。
……何故か大丈夫そうだった。
というのもレイジ達の動きがクロキに対して無い。全く無い。
朝起きてクロキは長い時間混乱していた。
すぐに逃げなければいけない状況なのに、汚してしまった部屋の掃除をしっかりとしてしまっていた。
その後、逃げなければまずいと気付いた時にはかなりの時間が経過していたのだ。
部屋を見るとすごく綺麗になっている。
(綺麗にしようと思い頑張りすぎたようだ。シーツなんか柔軟剤も使ってないのにふっかふかだ。ホント何やってんだろ……)
これだけ時間が経っても何もしてこない。この部屋を襲撃に来る気配もなかった。
(レーナはどうこうするつもりがないのだろうか? それとも、レーナは自分の事をレイジに伝えなかったのだろうか? それとも伝えたけどレイジにとって自分の事など取るに足らない存在であるため何もしてこないのだろうか?)
クロキは色々と考えるが結論は出ない。
とりあえず、一番最後が特にありえそうだと思った。
それはそれで腹が立つが、実際の所はどうなのかわからない。
「クロ。彼女は?」
レーナの事を言っているのだろう。ガリオスがニヤニヤと笑いながら聞く。
「それが起きたらいなくて……」
クロキは正直に答える。
(レーナの行方は自分が知りたいぐらいなのだけど)
その言葉にガリオスが驚く。
「おかしいな誰か通ったら気付くはずなんだがな……」
おそらく飛翔の魔法でここから離れたのだろう。
レイジ達の所に行ったのだろうか?
ガリオスも首を傾げている。だがわからない以上どうしようもない。
「それからクロ。鏡を見た方が良いぜ。すげえ顔になっているから」
ガリオスが笑いながら言う。
「?」
クロキはガリオスに言われて鏡のある洗面所に行く。
この世界の鏡は金属を磨いた物だ。少し映りが悪いが充分に見る事ができた。
顔にひっぱたかれた跡がある。そして他には沢山の紅い何かがあった。
「これって何の跡……?」
だが、顔を洗った方が良さそうだ。
水をためているツボから水を汲み顔を洗う。
「なかなか落ちないな……」
呪いでもかかっているのか紅い物はなかなか落ちない。
そのうち落ちるとは思うが、今日は顔を隠してすごした方が良いのかもしれないとクロキは思う。
「ガリオス先輩にクロ殿はいますか!?」
大声が突然鳴り響く。
(レンバー卿の声だ。何かあったのかな?)
クロキが居間の方に向うとレンバーがいた。
「先輩!!クロ殿! 力を貸して下さい」
そう言うとレンバーは頭を下げるのだった。
◆
シロネが空を見上げると、空はあいにく曇りだ。
城壁の外を歩くのはあまり楽しくなさそうであった。
(でもまあ、今日一日はあの恥ずかしい鎧を着なくて良いし、贅沢は言ってられないかな)
シロネを除く勇者の仲間達は変質者探しをしているはずであった。
(帰れる方法が見つかると良いのだけど……。でも、正直に行ってチユキさん以外はあまり帰りたくないみたい)
シロネはそんな事を考える。
(では私はどうだろう?)
シロネは自らの気持ちが良くわからない。
みんなと一緒にいるのは楽しい。だから帰れなくなってほっとした所もある。
まだみんなと一緒にいられると思うと嬉しくとも思う。
だけど、帰りたくない訳では無い。
帰る事が正しいのだろうし、元の世界には会いたい人もいる。
だから帰れなくなった原因である暗黒騎士は許せない。
シロネはそんな奴に負けた事を悔しく思う。
そして、その暗黒騎士と再戦するのかもしれない。
再戦の前に少し体を動かしたい。
そんな、もやもやした気持ちを吹き飛ばしたくてシロネは塔に行くのだ。
背伸びをして、息を整える。
誰かが側にくる。
この国の騎士であるレンバーだ。
今日はシロネと共にストリゲスの塔に向かう予定であった。
「シロネ様。揃ったようです」
レンバーが報告するとシロネは振り返る。
城壁の外の門の近くには様々な武装をした集団がいる。
彼らは塔の調査のためにロクス王国から手伝いに来てくれた者達だ。
シロネに探知スキルが無いので、チユキがロクス王国から人員を派遣するよう要請したのである。
もちろん王国は人員派遣を承諾した。
実際ストリゲスの被害に会うのは彼らなのだから当然だろう。
派遣された人数は12名。
ナオが来れない分、調査は数でカバーしなければならない。
シロネはメンバーの方を向くと少し頭を下げる。
「皆さん今日はよろしくお願いします」
シロネが挨拶するとメンバー達はそれぞれ頭を下げる。
メンバーを見る。
まずはこの一団のリーダーであるレンバー。
彼はロクス王国で代々続く騎士の家系出身で彼自身も騎士だ。王国でもかなりの地位にいる。
次に実質的なリーダーであるガリオス。
元騎士らしいが今は自由戦士をやっている。急な事だったのにこれだけの人数を集められたのは彼の手腕による所が大きいとシロネは聞いている。
そして
魔術師ニムリ。ロクス王国の魔術師でこの一団の参謀を務める人だ。容姿といい一般的な普通の魔術師である。
後、自由戦士が8名いるがさすがに覚えきれない。
取りあえず主要な人物の4人だけ覚えておこうとシロネは思う。
この12名とシロネを合わせた計13名が塔の調査メンバーだ。
「それでは行きましょうか皆さん」
シロネがそう言うと少しざわめきが起こる。
「あのシロネ様……よろしいでしょうか?」
1人の人物が出て来る。レンジャーのストルだ。
「なんですか?」
「ここから塔まで半日以上かかるのですが、塔の近くで野営でもするのでしょうか?何も用意していないのですが……」
ストルが心配そうに言う。
「ああ、それなら大丈夫です。移動用の魔法を使いますから」
シロネが言うとメンバーが顔を見合わせる。
リノ程ではないがシロネは風の精霊魔法を少し使える。
その風の精霊を使った魔法に先頭を行く人の速さと同じ速さで後続の人が移動できるようになる魔法がある。
シロネが先頭を走れば30分以内には全員塔に着くはずであった。
説明するとシロネを除く全員が顔を見合わせる。
どうやら不安に感じているらしい。
だけど、シロネはこれ以上説明するのは面倒だった。
だから先に進むことにする。
「それじゃあ、行くよ!!」
シロネは風の魔法を発動させるのだった。
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