勘が鋭いといろいろと困るな

◇◇


――ほら、もう泣くな。泣いて下ばかり向いてたら、空がこんなにも青くて、お日様がこんなにも眩しいって分かんなくなっちまうじゃねえか。



 リーサ・ルーベンソンは家族を驚かせたくて、街の外にある森でしか見られない『花』を採りにいった。

 モンスターが出現する心配はない森であったが、それでも凶暴な野獣と遭遇しないとは断言できない。

 そんな危険な場所にわずか八歳のリーサは一人で向かった。

 しかし、運悪く木の根に足を取られて、ひどく挫いてしまったのだ。

 そんなリーサを、偶然通りかかったフィトが助け出した上に背負ってくれたのだった。

 彼女はあの時の大きな背中を、十年たった今でも忘れない。

 

 そして丁寧に家の前まで送り届けてくれた彼から、彼女は一輪の花を手渡される。

 それは彼女が森で採りたかったものだった。

 驚きに目を丸くする彼女に対して、フィトは恥ずかしそうに顔をそらしながら告げた。

 

――失敗なんか恐れちゃなんねえぞ。誰が何と言おうが、また挑戦しろよな。きっとその勇気は、みんなを笑顔にするからさ。


 その言葉を胸に、彼女はがむしゃらに挑戦を続けた。

 どんなに失敗しようとも、どんなに挫けそうになろうとも、「自分の王子様が嘘を言う訳ない」と言い聞かせて、前に足を踏み出し続けたのである。

 

 そして今――

 

「リーサ・ルーベンソン! そなたの功績を称え、ここに『名誉冒険者号』を授与する!」

「ありがたき幸せ!! 謹んでお受けいたします!」


 と、国王から直々に勲章を授与されるまでになったのだ。

 

 厳かな授与式が終わり、彼女は城から威風堂々と出てくると、大歓声を上げる人々を目の前にして、凛々しい顔を上げた。

 そして、紺碧の空をみつめながら、遠い南の島にいるフィトに想いを馳せていたのだった――


◇◇


 一方、エクホルム島――

 

 俺、フィトは『真紅の戦乙女』から一途な想いを寄せられているなんて、つゆとも知らずに、エルフのクリスティナとともにエンフェルド村に入った。

 

 俺たちが無事に戻ってきたことに、人々は熱烈な歓声で出迎えてくれた。

 そして一番奥で待っていたのは、満面の笑みを浮かべた長老のカイサだった。

 

「おかえり、フィト殿にクリスティナ。地図づくりは順調かい?」


 彼女の問いに、俺とクリスティナは目を合わせて微笑み合う。

 そしてクリスティナが明るい声で答えた。

 

「はいっ! もうあと少しで完成いたします!」

「そうか、そうか。よかったのう!」

「ええ、今まで知らなかった場所のことが知れたのは、本当に良かったわ!」

「ほほ、そうじゃのう。じゃが、よかったのはそれだけじゃあるまい」

「えっ? どういうこと?」


 クリスティナが不思議そうに眉をひそめると、カイサは目を細めながら小声で言った。

 

「ずいぶんと二人が仲良くなったようで、安心したわい」


 その言葉の瞬間に、クリスティナと俺の顔が真っ赤に染まる。

 するとカイサはますます嬉しそうに「かかか!」と大笑いを始めた。

 

 年寄りってのは、『勘』が鋭いもんだな。

 あれだけ耳の遠い大家のばあちゃんも、住人の人間関係にはかなり細かいことまで知っていたもんな……。

 

 しかし今のカイサは、どうも『変な勘違い』をしているようで、目つきがかなりいやらしい。

 まったく……。

 俺とクリスティナじゃあ、種族も年齢も全然違うじゃねえか。

 

 『住む世界が違う』というのが、ぴたりと当てはまるのだ。

 変に『勘』が鋭いと困っちまうな。

 

 そんな風に半ば呆れているのは、クリスティナも同じだろう。

 そう思い、彼女の方へ視線を向けた。

 すると彼女は顔を真っ赤にさせたまま硬直していたのだ。

 俺は目を丸くして声をかけた。

 

「おい、クリスティナ。熱でもあるのか?」


 その言葉に彼女はぶるぶると首を横に振ると、無言で村人たちの輪の中へと消えていってしまった。

 

「いったいなんなんだ?」


 と、首をすくめていると、カイサがすぐ横にきてささやいたのだった。

 

「あんまり鈍いと命取りになるぞい」

「ふん、自慢じゃねえが、モンスターを察知する『勘』だけは誰にも負けねえ自信があるんでな。心配無用ってことだ」


 さて……。

 歓迎もひと段落して、人々が徐々に散らばり始めたところでカイサと向き合った。

 彼女は俺の表情を見て、再び鋭い『勘』を働かせたのだろう。

 彼女の方から「庭で少し話そうかのう」と促してくれたのだった――

 

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