蘇れジャンクエンジン⑥

 さて、プレスカブグリップヒーター付きのステーターコイルが届きました。未使用新品の部品なのでピカピカです。これを組み込めば発電容量の大きなジェネレーターが完成です。


「まぁ、上手い事行かん様にできてるわな。嫌がらせか?」


 ジェネレーターからの配線を見るとモンキーやスーパーカブと微妙に配線が違います。コネクターは同じで付くは付きます。


「一見、部品は無事に取付けできているのに機能しない状態。ビギナーにとって最も混乱する状況です。でも大丈夫。私にはサービスマニュアルがあります。配線図を見れば何が違うかは一目瞭然です」


 サービスマニュアルは非常に高価です。


「何と1万円くらいします。中古でも高値で取引されています」


 エンジン単体を組むだけなら『虎の巻』を買えば良いでしょう。でも、配線を調べたりする方は買っておけばわからない事が有るたびにバイク店へ聞くことが減ります。私の場合は近所にバイク店が無いので買いました。私の本棚にある最も高価な本です。


「コネクタは共通ですが、プレスカブのみピックアップコイルの配線が違います」


 ホンダが何を思ってこの様にしたのかは不明ですが、要するに繋いだだけではエンジンがかからないのです。配線を切って新しいコネクタに付け替えれば早いのですが、それをすると今度はプレスカブへ付け換えようとした時にまた配線をやり直しです。そうなると転売も出来ませんし、何と言っても配線図と違う事になりますから誰かが手にした時にパニックになる恐れがあります。


「部品に手を加えたく無い方は変換コネクタを作ると良いでしょう」


 幸いな事にコネクタは買えます。配線ですが、今回は中国製キットバイクにホンダエンジンを載せる時の変換ハーネスをベースにします。これに市販の6ピンコネクタと防水ギボシを使って作れば楽です。


「6ピンコネクタはカー用品店にありますが、バイク用品店で買う物の方が金具の造りが良いのでお勧めです」


 先ほど出て来た変換ハーネスは配線の色がホンダ純正と同じなのでベースにピッタリです。


 ステーターコイルを付けて、フライホイールを取り付けます。取付け部のボルトを修正してあるのでナットがスムーズに回ります。


「エンジンオイルを入れてから、クランクシャフトを30回くらい回してエンジン内部にオイルを巡らせておきます。最後にスパークプラグを取り付けてエンジンの完成です」


 ホンダモンキーの純正キャブレター・マニホルドを取り付けて車体へ積んで試運転です。きちんと組めていれば動くはずです。火入れは何度エンジンを組み立てても緊張する一瞬です。エンジンは無事に動き出すでしょうか?


 プルン……プルン……プルン……


 最初からエンジンがかかる訳ではありません。まずは別のプラグを取り付けて火花が出ているかを確認です。火花が出ていればキックの感触を確認します。圧縮は有るでしょうか? プラグコードをエンジンのプラグへ戻し、キャブレターにガソリンが入り混合気が出来るまではキックを続けます。


「良い火花・良い圧縮・良い混合気があればエンジンは始動するはずです」


 プルン……ププン……バルルル~ン!


 エンジンがかかった瞬間に今までの苦労は報われます


 続けて4速ランプが点灯するかのチェックです。ピンクのエコノミーランプスイッチと電源のプラスをランプに繋げてシフトしていきます。ニュートラルランプは点いているのでOK。1・2・3とシフトチェンジをしていきます。いよいよセル無しカブ乗りにとって憧れの4速です。ランプは点くでしょうか?


「4速……シフトOK。ランプ点灯……OK!」


『ジャンク・不動・部品取り』が『実動エンジン』に生まれ変わった瞬間です。しかもセル無し4速ミッションです。まるで『幻の4速エンジン』と呼ばれる82~83年頃の1リッターあたり180km走ると言われたエンジンの様な外見です。


「同じエンジンを作った方、決してヤ〇オクに『幻のエンジン?』とか言って出品したりしないでください。幻じゃないです」


 ジャンクの寄せ集めなので決して美しいエンジンとは言えませんが、オイル漏れをしておらず、消耗品であるOリング・ガスケットは全部交換。内部のベアリングも使い込んであった所は交換してある実用には十分なエンジンです。


 エンジン本体は五千円くらい。そこへガスケットや使用不可能だった部品を中古に換えてトータルで2万5千円くらいでしょうか?ミッション周りを変えていなければもう1万円くらい安くで直っていたと思います。今回は手持ちに使える部品が多かったので安くで修理出来ました。


「これは私が手持ちの部品が使えるか否かを判断できるからです。サービスマニュアルは使用限度のデータが載っていますので、今回の様に自分で作業する方は買っておく方が良いでしょう」


 これで4台目のエンジンは修理完了です。チェーンを調整したり、外した部品を元に戻して走れるようにして車庫代わりの物置に片付けます。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る