第176話 誰かが彼女を愛してる(3)
「や、わざとじゃないから・・ほんと、」
八神は急にトーンが下がった。
逆に高宮の怒りが頂点に達し、
「あんたって人はっ!!」
襟首を締め上げてしまった。
「お、おちつけ!ほんと、偶然だからっ!」
八神は必死に抵抗する。
「許せないっ!」
おれ以外に
おれ以外にっ!
彼女の体に触る男がいるなんてっ!!!
そこに南が通りかかる。
「あ、なにしてるん!」
慌てて二人を止めた。
「こっ、この人がっ!」
高宮はもう口が空回りしてしまった。
「もう落ち着いて、」
ようやく二人を引き離した。
「は~? 加瀬のオッパイ触った~?」
「声がでかい!」
高宮は南の口を押さえた。
「だから、事故なんだってば・・」
八神は泣きそうになりながら言う。
「まあ、事故ならしゃあないなあ、」
南も頷いた。
「そうでしょ? なのに、こいつがいきなり怒り出して、」
「ぜったい、やましい気持ちあったんだっ!!」
「え~、そりゃ八神だって男やもん。 触りたくなっちゃうよねえ?」
南の問いかけに八神は思わず、
「そりゃそうですよ、」
と本音を言ってしまい、
「やっぱりわざとだっ!」
高宮は聞き逃さなかった。
「アホか、」
南はため息をついた。
高宮は仕事があるため仕方なく部屋を出て行く。
「あ~、ひどいめに遭った・・」
八神はネクタイを直した。
南はそんな八神を見て、
「美咲ちゃんに殴られたの? すっごいバリバリ跡残ってるやん、」
ぷっと吹き出した。
「え~? もう、ほんっと大変でしたよ。 地下に閉じ込められたって言っても信じてくれないし。おまけに。 昨日加瀬のヤツが鼻血出したもんで、おれのシャツにも血がついちゃって。 これはなんなんだ、とか。すんごい問い詰められて。 しかも、昨日は美咲の誕生日で、約束もしてたから。 めっちゃくちゃ怒って・・んで、ひっぱたかれて・・」
思い出すだけで目が潤んでしまう。
「あ~あ~。」
南も想像してちょっと同情した。
「だから、ホントのこと全部話して。 加瀬と一緒だったことも。 まあ、なんとか怒りは鎮まりましたけど。 ほんっと感情の起伏が激しくて、すぐ手が出るし・・」
「合コンはオッケーなくせして、そこはアカンねんなあ。まあ、カワイイやん。 めっちゃ心配したと思うよ。 あんたのこと心配で。」
「・・まあ、」
ちょっとだけ照れてうつむいた。
「んで・・どやった?」
「は?」
「加瀬のオッパイ触った感想。」
ニヤっと笑う。
「えっ」
八神は絶句してしまった。
「けっこうあるやろ。 あたしも最初びっくりしたもん。」
「・・ん、まあ。 見た目と違うもんだなあと、」
ボソっとそう言った。
「も、ほんま彼氏がテクあるからさあ! 大きくなっちゃったんじゃないの?」
南は暢気に笑って八神の背中を叩いて出て行ってしまった。
「ちょっと! 想像だけ置いてかないでくださいっ!」
出て行く南の背中に思いっきりそう言った。
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