第175話 誰かが彼女を愛してる(2)

「八神さん、彼女に殴られてないかなぁ。」


夏希は急に八神が気になって言った。


「彼女?」


「うん。 八神さんね、幼なじみの彼女とつきあってて、昨日彼女の誕生日だったんですって。 すっごい怒られるって怖がってた。」


「あの人彼女いるの?」


そこに驚きだった。


「もう2年くらいつきあってるとか言ってたけど。 なんでそんなに驚き?」


「なんかおれより1つ年上だけど、あの人ほんっと子供っぽいし。」


「貧乏だから結婚できないんだって! かわいそうでしょ?」


夏希はお茶碗を片手に首を傾けながら言った。



こっちも


子供っぽいけどさ。



そんな彼女を見て高宮はふっと苦笑いを浮かべた。




翌朝、少し早めに出社した高宮は休憩室でコーヒーを飲んでいた。


そこに八神がやって来た。


「あ、おはようございます、」


ちょっと彼の顔をうかがうように会釈をした。


「あ・・うん。」


八神は彼に会って、ハッとしてちょっと顔を隠すようにうつむいた。



なんだ??



その様子があまりに不自然で。


気になって彼の顔を覗き込んでしまった。



「なんだよ、」


八神が迷惑そうに顔を上げたとき、


「え! どうしたんですか? それ。」


高宮は思いっきり指を指してしまった。


「えっ!」


八神は慌てて左の頬を押さえた。



「すんごいミミズ腫れになってますよ。」


「わかってるわい!」


八神はブスっとしてコーヒーをカップに注いだ。



やっぱ


殴られたのかな


彼女に・・。



想像してしまう。


しかし、触れてはいけないことのような気がして黙ってまた新聞を広げて読んでいた。



八神はそんな高宮をチラっと上目遣いで見ながら、



こいつがねえ。



夏希の胸を触ってしまった感触をバッチリ思い出してしまった。



あ~、想像する。


やだやだ!



高宮は八神の視線に気づき、


「なんですか?」


逆に質問した。



八神は少しドキンとして、危うくコーヒーをこぼしそうになってしまった。


八神は急に腹立たしくなり、


「ほんっと、ゆうべはおまえの『アホ』な彼女のせいで、どうなることかと思った!」


と高宮に言い放った。


「はあ?」


「ほんっと! 常識知らずで迷惑かけられっぱなし!」


それにはちょっとムッとして、


「先輩であるあなたの責任もあるでしょ、」


と言い返してしまった。


「ほんっと! 規格外れのアホだから! おかげで・・おれなんか、あらぬ疑いをかけられて! 」


「彼女に殴られたんですか?」


先回りしてそう言われ、


「くっ。 なんか、魔女みたいな爪してっから! ほんっとまだヒリヒリして・・」


ちょっとテンションが下がって、頬を押さえた。


「加瀬ごときに! おれがなんかするわけでもないのに!」


悔し紛れにそう言うと、


「失礼じゃないですかっ、」


高宮もあまりの言いようにムカっとした。


「ほんっと、あいつとなんか仕事したくなかったし!」


八神はキレそうになってしまった。


「ほんっとあんな状況下でも、あいつ緊張感ゼロでおれの膝枕でグウグウ寝てるし!」


「はあ??」


「んで、どけっ!ってここ引っ張ったら、シャツのボタンが飛んじゃって! いきなり『なにするんですか!』ってパニくりだして、顔ぶつけて鼻血出すし。」


高宮はそんな話を聞かされてワナワナと震えだした。


「そ、そんなことしたんですか・・。」


「そんなことって! 事故だろ? 事故! やっと鼻血が止まったと思いきや、鼻に青アザができてたから、そこ指差そうとして近づいたら、また騒ぎさしておれの頭を思いっきりはたきやがって!」


「・・・」


想像して絶句だった。


「挙句の果てに、オッパイ触ったとかぎゃあぎゃあ言い出して!」


「なっ・・」


カーッと全身の血が逆流しそうだった。



そして、八神に掴みかからんばかりに、


「さ、触ったんですかっ!」


必死だった。



あまりの彼のリアクションに口の滑った八神は、ヤバっという顔をして・・・




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