第159話 パラグラフ(1)
もうラブラブで
幸せで
ばら色の毎日を過ごす、高宮と夏希だったが。
またひとつ
小さな嵐を迎えようとしていた。
高宮はそろそろ社を出ようと仕度をしていた。
すると携帯が鳴る。
「はい。」
「あ、隆之介?」
母だった。
「・・なに?」
ろくでもない用事なんじゃないかと予測され、もうため息をついてしまった。
「選挙ね、9月の第3日曜日に決まったのよ。」
「ニュースで見たよ。」
「来週の日曜日に急だけど地元で決起集会することになって。 後援会長さんがね、松本のノースキャピタルホテルを予約してくださったのよ。」
ノースキャピタル。
「まあ、偶然なんだけど。 ノースキャピタルって、ホクトの系列でしょう? あなた、今北都社長の秘書してるのよね?」
「うん、」
「お父さまの時からお願いしてきてはいるんだけど。 北都社長にも来てくださるように言ってもらえないかしら?北都社長とは先代からのお付き合いだけど、あまり政治のことには興味がおありにならない方で。 後援会には入っていただいているけどあまりこういう会にはお見えになっていただけないし。 あなたからも口ぞえしてもらえないかしら。」
は・・?
高宮は思わず心で聞き返す。
「何しろ、良さんは初めての選挙だし。 大物のバックアップは頼りになるし。 今回、党でいろいろスキャンダルがあったりして風当たりが強いのよ、」
何言ってんだ? この人は。
おれが邪魔だから恵の結婚式には来るなって言っておいて。
今度は北都社長に口添えしろだと?
怒り心頭に達したが、もう怒る気にもなれず、
「忙しいから切る。」
力なく言って電話を切った。
は・・
帰ろうと立ち上がったが、また電話を切った後、椅子に座り込んでしまった。
呆然と座り込んで気づけば、1時間もぼうっとしてしまっていた。
高宮はハッとして電話をし始めた。
「あ、おくつろぎのところ。 申しわけありません。 高宮です。 社長、急で申し訳ないのですが、明日一日お休みをいただけないでしょうか、」
気がついたら
そう言っていた。
「え? 明日休むの?」
家に戻って夏希に電話をした。
「ん。 ちょっと用あって。」
「用事・・?」
「平日じゃないとダメなところなんだ。」
「どっか行くんですか?」
「・・長野。」
「長野・・?」
夏希は実家と何かしら関係があることだと直感した。
「あのっ、」
高宮はふっと笑って、
「大丈夫。 何にもないよ。」
と言った。
何があったのか
聞きたかったけど。
それが許されない雰囲気で。
夏希は不安が胸に渦巻いた。
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