第134話 青空(3)

夏希の友達はみな、もちろん高宮より年下で。


男も女も混じって


本当に仲が良くて。


尻込みしていた彼の心配は無用で、


ビーチバレーをしたり、ビーチフラッグをしたり。


照りつける陽の光の下で


バカみたいに笑って


騒いで。


こんなに太陽の下で笑ったりしたのは


いつ以来なんだろう。


高宮は本当に楽しい時間を過ごしていた。




夏希が友達と飲み物を買いに行っている間、


「ね、ほんとに夏希とつきあってるの?」


彼女の幼なじみの一人、小川敦に声をかけられた。


「え・・」


「あ、おれ。 夏希と小学校の時ずうっと野球やってたから。 あいつのことぜんっぜん女とか思ってなかったし。」


と笑う。


「そう、なんだ。」


「おれは中学で野球部がつらくて辞めちゃったけど。あいつはさあ、男の中に入っても辞めなかったんだよ?監督に怒られても絶対に泣かなかったし。 根性あるんだあ。」


彼女のその頃のことはもちろん知らないけど


すっごく目に浮かぶようで。


「今だって。 上司にめちゃくちゃ怒られたって泣いたりしないよ、」


と笑った。


「でっかいけどな~。 黙ってりゃけっこうカワイイんだけどな、」


彼も笑った。




そうだよな。


23年間


彼氏なしって言っても。


あの子が気づかないだけで


そう思っていた男はいたはず。


そのくらい


彼女は本当に魅力的な女の子だ。




家に帰ると、もう真っ暗になっていたほど、一日中遊んでしまった。


「あらま~。 ずいぶん焼けちゃったもんだね。」


母に呆れられた。


「高宮さんも大丈夫? そんなんで会社行ける?」


「真剣に心配されると、不安になってくる、」


慌てて鏡を見たが、もう鼻の頭の皮が剥けて、真っ赤というか、真っ黒と言うか。


「お風呂、しみそうだね、」


夏希も笑った。




「ね、こっち来て、」


もう寝ようかと思って部屋に行こうとすると、夏希が自分の部屋から呼んだ。


「え?」


「ここ! 寝て!」


いきなりベッドを指差されて、ドキっとする。


「や、いくらなんでもまずいって。 しかも昨日・・シたばっかで、」


ごにょごにょと照れて言うが、そんなことは一切夏希には聞こえておらず、


「いいからいいから! こっちアタマ!」


無理やり腕を引っ張られてベッドに寝かされた。


夏希もその隣に寝転がり始めたので、さらにドキドキした。



「見て!」


寝転がると、アタマの上の窓からたくさんの星が見える。


「わ・・」


高宮も思わず驚いた。


「プラネタリウムだ。」


満天の星空だった。


「ここから毎晩星を見ながら寝るのが好きで。 よく、カーテン開けっ放しで寝るってお母さんに怒られるけど。」


クーラーを入れてなくても、窓を開けるとふうっと海風が吹いてくる。


「すごい・・」


高宮は隣の夏希を見て笑う。


そして彼女の手をぎゅっと握った。



なんっか


もう


すっげ楽しい。


こんなに楽しいバカンスなんていつ以来なんだ。


いや、


初めてかもしれない。


こんなトコで彼女は育ったんだ。


きっと子供の頃も真っ黒になるまで海で遊んで。


こうして星を見ながら眠って。



「ありがと。」


高宮はつぶやくように言った。


「え?」


「ココに連れてきてくれて。 ありがとう、」


そんな風に言われて


夏希は嬉しくて彼とつないだ手にぎゅっと力を入れた。




たくさんのトロフィーや賞状が並ぶ部屋。


全て野球に関するものだった。


ここだけ


時間が止まってる。



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