第127話 ビギナー(3)
「本気、なのね。」
萌香は高宮の顔を覗き込むようにして言った。
「ん。 彼女がね・・まだまだ成長してないことくらいわかってる。 結婚とか? そういうことが、全く彼女の意識の中にないってことは。 でもね、彼女に近づけば近づくほど。 ・・もう、たまんないんだよね、」
ため息と一緒に煙を吐き出した。
「ずっと、ずっと一緒にいたくて。 栗栖さんたちみたく、一緒に棲むとかじゃなくて。 おれはあの子と家族になりたいんだ。」
「家族・・」
高宮はにっこり笑って、
「ウン、でもなかなかね。 わかってくんないんだよね。 ほんっと子供みたくって、」
と言った。
「いわき、行くんでしょう?」
「え、ああ。 彼女が来てくださいって。 なんか期待しちゃったんだけど。 でも、まあ、友達と同等みたいな? あっちは全然、まったく、少しも深い意味なくて。 まあ、おれが家族と疎遠にしてるの見てかわいそうに思ったのかもしれないし。 ほんっとね、いいお母さんなんだよね。 家族二人っきりでも、いい家族だなあって思えるんだよね。 お父さんを亡くして、お母さんひとりで頑張って娘を東京の大学にやるなんて、並大抵なことじゃないと思うよ。 娘のこと、いっつも考えてるし。 ほんと、いいお母さんで、」
高宮の言葉は羨望に近かった。
「でも、ほんと、焦らないで。 そこまで彼女のことをわかってあげられているのなら、」
萌香は静かにそう言って笑った。
そうこうしているうちに
夏期休暇になり、夏希と高宮はいわきに向かう。
「で、おれのホテルとってくれたの?」
荷物を網棚に載せながら夏希に言うと、
「え? ホテル? なんで?」
きょとんとして言う。
「なんでって、」
「だからウチでいいって言ってるのに。 もったいないですよ。 ホテルなんか。 それにウチ、市街地からちょっと離れてるからホテルなんか泊まったら行き来が大変。」
「はあ?」
まさか本当にそうなるとは思っていなかったので高宮は驚いた。
「お母さんも布団干して待ってるって言うから。 ノープロ、ノープロ。」
夏希はお気楽に笑った。
いいのかなあ。
高宮はまだ迷いがあった。
1時間半ほど電車に乗ると、いわきについた。
「あっつ~い! もうほんっといわきって東北かなあって思うんですよ。 夏に来るたんびに、」
夏希は言った。
「あ、夏希~!」
母が駅前まで車で迎えに来ていた。
高宮はお辞儀をした。
母は車から降りて、
「まあまあ、高宮さんもこんな田舎までようこそ。 ほんっと、なんにもないけどさ。 おいしいものはたくさんあるから。ゆっくりしてください。」
とにっこりと微笑まれ、
「あ、ほんとすみません母子水入らずのところを図々しくお邪魔することになってしまって。」
本当に恐縮してしまった。
「ああ、いいから。 お盆はね、にぎやかなほうがいいんだって。 ほら、荷物を乗っけて。」
夏希にそっくりな朗らかな笑顔で母は言った。
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