第126話 ビギナー(2)

志藤は夏希が持ってきた書類に目を通して、


「いいよ。 ハイ。」


とハンコを押して彼女に返す。


「ありがとうございます・・」


一礼して去ろうとすると、



「ゆかた、直ったの?」


そんな言葉を投げかけられた。


「南さんの知り合いの、縫製屋さんで。 サービスで直してもらって。」



くら~~く、返事をした。


「そっか。 よかったなあ。 新品やもんなァ、」


いやらしい笑いを浮かべられ



その話は


おしゃべりな二人からあっという間にみんなに知れ渡り。


夏希はみんなの冷やかしにジっと耐えた。



自業自得・・



そんな四字熟語がアタマをぐるぐる回る。



「ほんっと、加瀬ってカワイイね。 あの無防備さが、」


南はアハハと笑った。


「羞恥心ゼロだな。」


斯波は仏頂面で言う。


「もう高宮なんか、気の毒なくらい真っ赤になっちゃってさあ。 けっこうピュアだよね~、」


「単純に直してもらったらまたお金がかかるって思っちゃったんでしょう。 彼女らしいと言うか。もうからかわないであげてください。」


萌香も苦笑いをした。



そこに


噂をすれば


高宮がちょこっと顔を出した。



南はまたぶっと吹き出しそうになりながら、


「なに?」


と言った。


「や、えっと、栗栖さん、ちょっといいですか?」


斯波がいたので気まずかったが萌香を呼んだ。


「あたし? いいわよ。 昼休みだし、」


萌香は席を立った。





「え? 指輪?」


高宮に休憩室に呼ばれた萌香は少し驚いて言った。


「もうすぐ彼女の誕生日なんで。 でも、なんか意味深かなあって、」


大真面目に言われたので、


「や、別にいいんじゃないかしら、」


萌香は少々引き気味に言った。


「そう、かな、」


高宮はちょっと嬉しそうに言った。


「女の子なら好きな人に指輪を貰うのはすっごく嬉しいと思うんですけど。ただ・・」


「ただ?」


ドキっとした。


「普通の女の子は、ですけど。」



その意味を高宮もかみ締める。


確かに


彼女が普通でないことは


わかってる。


「加瀬さんは、普通の女の子とスイッチが違うっていうか、」


萌香は遠慮がちに言う。



彼女、指輪なんかあげたら


どう思うだろう。



なんだか想像がつかない。


「それって、高宮さん的には意味深な指輪なんですか?」


「・・に、したかったけど、」


願望であることを述べた。


「まあ、たぶん。 深い意味の指輪でも、あの子は気づかないかもしれへん、」


萌香はふっと笑った。


「はは、」


高宮も力なく笑った。


「お誕生日のプレゼントとして気軽に渡したら? それはそれで嬉しいものよ、」


萌香は彼を励ますようににっこり笑った。


「なんか、それも悲しいけどなあ、」


はあっとため息をついてタバコを手にした。


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