第122話 真夏の夜の夢(1)

北都はおかしそうにクックッと笑って、


「おもしろいな、おまえは・・・ま、アメリカから帰ってきたばかりの頃に比べて、少し変わったかな。」


「え、」


「頭の回転は良かったけど。 こんなに気の利いた事は言えなかったかな、」



だとしたら


それは彼女のおかげだ。


彼女と出会って


世の中がこんなに楽しいもんだって


気がついた。


捻くれて


ものごとをナナメからしか見れなくて。


全てのことにはウラがあるって、何でも疑って生きてきた。


だけど


あの子は


この世に生きていることが楽しくてたまらない。



高宮はふっと微笑んだ。




9時には北都邸に着いた。


高宮はまだ宴会が行われているのか、ちょっと気になる。


にぎやかな声が風に乗って、中庭のほうから聞こえてきた。


「さわがしいな、」


北都は車を降りてそう言った。


「専務の奥さまが張り切って。」


高宮は笑いながら言った。


「ああ、そうか。」


北都は優しく微笑む。


「社の車は置いていきなさい。」


「はい?」


「おまえも行ってきたらどうだ? まだ続いているようだし。」


「え、はあ、でも、」



なんか社長にここまで言われると気まずい。


そこに北都の妻・ゆかりがやってきた。


「あ、真也さん。 お帰りなさい。早かったのね。」


「社長、少しお加減が悪いようです、」


高宮が言うと、


「え、ほんと? 今朝も少し咳をしていたし、」


ゆかりは慌てて背伸びをして背の高い彼のオデコに手をやった。


「バカ、」


北都は恥ずかしそうに彼女の手を払う。


「熱はないわね。 もう、年なんですから今日は早めに休んで、」


同じことを言われて、


「おれに年をとって欲しいのか?」


つい、いじけて言ってしまった。


高宮はクスっと笑って、


「ぼくが明日お迎えにあがります。 いつものかかりつけの先生に診ていただくように連絡をつけておきますから。お仕事はお休みしていただいて、」


と言った。


「そうよ、そうしてもらいなさい。」


ゆかりは当然のように言った。


「こんなことで仕事を休めるか、」


「専務にお願いして。 もう専務も社長代理を立派に務めていらっしゃることもありますし、」


「そうそう! もう面倒くさいことは全部、真太郎に任せて! もう真也さんんは長生きすることだけ考えなくちゃ。」


ゆかりの言い草に、北都も笑ってしまって、


「だから、そこまで年じゃないから、」


高宮もふたりのやりとりに笑ってしまう。




いつもいつも


無口で余計なことは言わないし。


だけど


仕事には本当に厳しくて、怖い社長が


この奥さんの前だと


本当に優しくなる。


今でも愛し合ってるって


わかるし。



高宮は中庭に通じる家の脇の道を通っていった。


そこでは


子供たちが花火で盛り上がり、大人たちはめちゃくちゃ飲んでいるという


『宴』そのまんまが繰り広げられていた。


「あ、高宮だ!」


南がすぐにみつけた。


「え、高宮?」


みんなに注目され、


「え、なんスか?」


ちょっと焦った。


「も、おっそいじゃーん! 待ってたのに!」


南は高宮の腕を取る。


彼女はもうカンペキに酔っ払っていた。



そして


「ふふふふ。」


彼女は怪しげに笑ったかと思うと、


「さて、こん中に加瀬がいます! どこでしょ~! 化けてるからわかんないよ!」


と言った。


「はあ?」


思わず周りを見回した。



え?


ほんとに、わからん


と凝視していると、


「ここにいます・・」


すぐ横で声がしてびっくりした。


「わ、」



そして


彼女のゆかた姿を上から下まで見て、高宮は言葉を発することができないほど


驚いた。

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