第121話 夏模様(4)
「八神はひとり? 美咲ちゃんは?」
南は彼の周りを見回した。
「え、おれだけですよ、」
「美咲ちゃんって?」
夏希が言った。
「ああ、八神の彼女。」
「ああ、そう言えば、八神さんって彼女いたんですよね。」
「意外そうに言うな、」
「めっちゃカワイイねんで! びっくりすることに。」
「へえええ!」
ものすごく驚く夏希に、
「驚きすぎ。 なんか、友達と飲みに行くとか言ってたから。」
八神はちょっとブスっとして答えた。
「八神と美咲ちゃんは幼なじみで、実家も隣同士なんやで。」
「え、そうなんですか?」
「彼女が、ええっと3年前くらいかな? こっちで仕事やりたいって出てきて。 そんくらいからずっとつきあってんだよね。」
「まあ、いままでと変わんないですよ。 おれ、あいつのメシ係だし。」
「へ~~、すごーい。 幼なじみなんて、すごーい、」
夏希があまりに感心するので、
「別にすごくねえって。 そーいえばおまえの『カレシ』はどーしたんだよ、」
八神は話をそらすように言う。
「えっと、今日は社長とパーティーで、」
「あ、来れないの? かっわいそ~。 ゆかた貢いだだけ?」
八神はいつものように軽く笑った。
「なんか八神さんっていちいち言うことが子供で腹立ちますよね、」
夏希はムッとした。
「おまえに言われたくない!」
いつもの調子で彼女の頭をはたく。
「ちょっと! 髪型が崩れるっ!」
夏希もだいたいいつもの彼女に戻っていた。
「大丈夫ですか? お疲れですね。」
高宮は北都社長とパーティーに出かけたが、あまり体調がよくなかった彼を慮って早めに切り上げて車で自宅に送り届ける途中だった。
「ちょっと風邪気味なだけだ、」
「明日はお休みされてください。 朝、お迎えにあがりますので、病院へ、」
「いや、一晩寝れば治る。」
高宮はルームミラーから北都の顔を見て、
「もうお若くないんですから。 社員たちのことを考えて。 ご無理をなさらないように、」
とニヤっと笑った。
北都はそんな彼に、
「本当におまえは嫌味なヤツだな、」
と笑い返す。
以前、秘書をしていた秘書課課長はどこまでも従順だったが、高宮は北都に対して自分の意見をハッキリ言う。
それが秘書としてどうなのか、と思えるのだが北都は彼のそういうところを買っていた。
「もうすぐ、選挙になるな、」
北都はポツリと言う。
少しドキっとして、
「そのよう・・ですね。」
高宮は小さな声で言った。
「婿殿が、先生の代わりに立つそうだな。 この前、後援会の招待のハガキが来ていた。」
「優秀な人です。 きっと地元の期待に応えてくれるでしょう。」
高宮は冷静にそう言った。
「おまえが政治家に向いていないとは思えないけどな、」
「政治家になるなら。 総理大臣にならないと世の中を動かせません。 いち代議士では何もできないんです。 でも、ぼくは今、あの天下の北都グループの総帥を病院に行かせることもできるんです。」
高宮の自信たっぷりな目がミラーに映る。
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