第118話 夏模様(1)

「隆ちゃん、夏休みは?」


夏希は高宮とお好み焼き屋に食事に行った。


「え、別に。 社長が12日から18日まで休むから、その中で休んでいいよって、言われてるけど、」


ちょっとつまらなそうに言う。


そうかあ、別に実家に帰るとかじゃないしね


夏希は彼の境遇を思い出して同情した。


「友達とかも、おれ中学卒業してからアメリカだったから、あんまり今でもつきあってるヤツっていないし。 することないから仕事してよっかなって、」


「そうですかあ、」


「実家は? いつまで?」


「いっぱい休んじゃったし、どーしようかなって思ったんですけど。 斯波さんがキチンと帰るようにって言ってくれて。 12日から14日まで。 お中日まではちょっといられないんですけど。 八神さんも帰るって言うんで、あんまり重ならないように、」



「そっか、」


少しの沈黙の後、



「あの、」


夏希が言った。


「え・・?」


「よかったら。 いわきに来ませんか?」


思いもかけない申し出だった。


高宮がびっくりしたような顔をしているのにハッとして、


「そんな、意味はないいんですけど! ほんっと、田舎でなんもないし! 海とかくらいで、後は花火大会とか。そんくらいで! ただの田舎なんですけど!」


夏希はどんどん言い訳のようなものをしてしまった。



それに尽きて、ふっと彼を見ると、


「いいの?」


彼はものすごい真剣な顔で言ってきた。


「え、ええ。 い、嫌だったら無理しなくっていいんですけど、」


「嫌じゃないけど。 むしろ、嬉しいっていうか、」


「ほんとに?」


「うん。 でも、いいのかな、」


「え、ぜんっぜんOKですよぉ。 あたし、大学の時は毎年、東京の友達を連れて帰ってましたから!」


夏希はぱあっと明るい顔になったが、



「あ、友達・・?」


高宮は1本、なにかが切れたようになり。


ガッカリする彼に気づかず、夏希は


「お母さんにも電話しておきますね、」


とにっこり笑う。


「あ、おれ、ホテルとるし、」


「え、いいですよ。 ウチに泊まってください。」


あまりにも普通に言われてドキっとした。


「や、いくらなんでもそれは悪いし。」


「平気、平気。 ウチのお母さん見ればわかるでしょ? にぎやかなのが大好きで、人が来るのも大好きだから。何かごちそう用意してもらおう、」


ニコニコと嬉しそうに言う。


高宮は嬉しかったのだが、友達と同等の扱いがちょっと気になった。



「あれ、加瀬はいつ休むんだっけ?」


八神や急に思い出したように夏希に言った。


「12日から14日までです。」


「そっか。 ええっと、じゃあ、これやっといて。」


と書類を渡す。


「はい、」


「実家、帰るの?」


「え、あ、はい。」


「なんだ。 高宮とラブラブバカンスかと思った、」



冗談で言われたが、


「ち、違いますよ。って、まあ、厳密に言えば一緒なんですけど、」


余計なことを言ってしまった。


「は・・?」



「ウチの実家に来てもらおっかなって、」



八神は夏希を見て固まった。



「そ・・そんな?」


「は?」


「え、なに? みんな知ってんの? おれだけ蚊帳の外?」


異様に焦り始める彼に、


「なんですか、いったい、」


夏希は理解できずに怪しんだ。


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