第119話 夏模様(2)

「おまえら・・そうなの? え、いつの間にそこまで進んじゃったの?」


八神の大真面目な問いかけが。


そこまでって


どこまで?


夏希にはよくわからなかった。


「はあ、」


曖昧な返事をすると、


「えっ!!」


八神はオーバーに立ち上がった。


「ついに? なの? 早くね??」


「は、早いって、そうでしょうか、」


なんだか恥ずかしくなってきた。


「早いって! 確かに、高宮はそういう年齢なのかもしれないけどさあ。それにしても、」


「年は関係ないんじゃないですか?」


夏希は真っ赤になってうつむいた。


「そうかあ。で、いつ?」


八神が言うと、


「いつって! そんなことも言うんですかあ?」


「って、いちおう一緒に仕事してんじゃん! そのくらいは言えよ!」


バシっとデスクを叩かれ、ちょっとおののいた夏希は


「ろ、6月の終わりくらい・・」


と言ってしまい、


「はあ??」


さらに八神は驚く。


「事後報告かよ! おれだけ? 知らなかったの? なんっか、おまえがいきなり体調崩したりして、バタバタしてたじゃん!」


ドキンとした。


「まあ、いろいろ・・」


どんどん声が小さくなる。


「みんな知ってたの?」


「みんなかどうか、わかんないですけど。でも、そんなこといちいち八神さんに言わないですよ、」


「おれはなんなんだ! おれだってなあ、密かにおまえらのことは心配してたんだぞ!」


あまりの迫力に、


「ご、ごめんなさい、」


夏希は謝ってしまった。


「はあああ、おれって、」


八神は落ち込んだ。


「え~、なんでそんなに落ち込むんですかあ? ひょっとしてココでは、そこまで言わないとダメなんですか?」


夏希は真剣な顔になった。


「ダメだろ、普通、」


八神が言うと、


「え、そーなんだ・・・」


夏希はちょっと考えた後、



「あの、あたし・・高宮さんと、」


小さい声で言う。


「は?」


「シ・・ちゃいました、」


と、八神の顔をまじっと見た。



「・・・・・」


彼の目がどんどんテンになっていく。


「は・・?」


「だから! シちゃったんです、」


さらに真剣な顔だった。


八神の頭の中でぐるぐるといろんなことが回る。


「結婚・・したんじゃないの?」


と言うと、


「は?? 結婚??」


夏希はぶっ飛んだ。


「え、なに? シちゃっただけ?」


「シちゃっただけ?って。 そうですよ、」


アホらしいがまともに答えてしまった。


「なんだよ。実家に行くとか言うからさあ。まさかそこまでいっちゃったの?って、」


「そこまでって、どこまで?」


きょとんとしている彼女に無性に腹立たしくなって、ファイルでバシっと頭を叩いた。


「いっ・・た~~い! なにすんですか!」


「子供か?」


「よくわかんないです~、」


「おまえなあ、つきあってる男、実家に連れてって親に会わせるなんて普通の関係じゃねーだろ?」


「え、お母さんに電話したけど、別に・・ああそうって、」


「普通か?」


また頭をひっぱたいた。


「だから! もうバカになるから!」


「も~、二人とも漫才? 何をしてんねん、」


南が思わずつっこんだ。


「ちょっと聞いてくださいよ。 こいつ、お盆休みに高宮を実家に連れて行くって言うんですよお。」


八神が言うと、


「ちょっと! 言いふらさないで下さい!」


夏希は八神の耳をぎゅうううっと引っ張った。


「いででで!!」


「え、そうなの?」


南が言うと、


「へんですか?」


夏希は自信がなくなってきた。


「や、へんやないけども、」


「あたし、普通に友達とか実家にすぐ連れてっちゃうんで。 高宮さん、実家に帰るわけでもなく、なんかさびしそうだったんで、」


うつむいて恥ずかしそうに言う。


「そうかあ、ええやん。 あのお母さんやもん。 きっと歓迎してくれはるって、」


南はにっこり笑う。


夏希もホッとしたように笑った。


「やっちゃったくらいで、いちいち聞くか!」


八神だけがふくれっ面で、


「何怒ってんの、この人。」


南は指をさすが、


「さあ、」


夏希はしらんぷりだった。


「バカ!」


八神はまたファイルで夏希の頭をひっぱたいた。


「も~~~、なに~?」


「おれの知らない間にそんなになってるかと思って! けっこう、心配したんだからな、」


と膨れた。


「アハハ、大丈夫。 八神はかわいいかわいい加瀬のこと心配してたんやもんなあ。」


南がからかうと、


「かわいい? え、かわいい???」


八神は食いついた。


「そうだったんですか・・」


うなずく夏希に、


「そこで納得すんなっ!」


と、また夏希の頭を引っぱたいた。


「ほんっと洒落になんないですから!」


夏希は真面目に怒った。



ほんと、あんまり意味なかったのに


普通はそんなふうに思うのかなァ。



夏希はちょこっとだけ不安になった。

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