第94話 梅雨の終わり(4)

よし!


やっとゴハンが食べれるようになって、全く本調子ではなかったが、野球のことになるとものすごい集中する。



気合を入れなおし、次の球を待つ。


さっきよりは少し真ん中よりのストレートが来たので、


もらった!


とバットを出すが、スカっと見事な空振りをしてしまい、しかもよろけてバッターボックスを出てしまった。



「へっ?」


驚いてキャッチャーミットに収まった球を見た。



か、空振り?



「よろけてるぞ、」


コーチは笑う。



「ゆ、油断しただけです。」



負けずきらいの彼女はそう言った。



そして、最後に彼女はもっと速い球で外角にズバっと来た。


ボール気味だったのに、思わず手が出てあえなく三振。



後輩たちは歓声をあげる。



う、うっそ~~!!


すごいショックだった。



「やった! 夏希先輩から三振とっちゃった!」


エースはマウンドで小躍りして喜んだ。



「はあああああ。 なんっか・・年とっちゃったかなあ・・」


夏希がため息をつくと、



「社会人になった証拠だろ?」


監督が笑う。


「え?」


「仕事するようになっても、現役に負けないようじゃ。 一人前の社会人じゃないよ。 おまえも大人になったんだ、」



「大人?」



夏希はその言葉に少しびっくりしたように呆然とした。



「もう野球の技術うんぬんじゃない。 野球やっていたときの根性は忘れて欲しくないけど。 きちんと仕事を頑張って欲しいかな。」


恩師の言葉は胸にしみた。




夏の太陽が照りつける。


その言葉が


少しずつ少しずつ夏希の気持ちが動かしていく。







高宮は外出から戻り、エレベーターに乗ろうとすると後から斯波が駆け込んできた。



「あ・・」


高宮は一瞬、絶句してしまった。


斯波も彼も見て、少し顔を険しくした。


「・・・・」



ちょっとだけ会釈をして


あとは何を話していいかわからない。


エレベーターで二人きりになって、高宮はいたたまれなかった。


斯波は黙っていたが、降りる瞬間



「おれはな・・」


と急に話しかけてきた。


「南や萌は、高宮には余計なこと言うなって言ったけど。 おれは同じ男としておまえが、許せない。」



いつものように


鋭い目で高宮に言い放った。


「斯波さん、」


「おまえにもつらいことがあったのかもしれなし。 でも、あいつには、あいつにだけは、そんなんして欲しくなかった。 いっくら、あいつがおまえのことを好きでも。 おれが親ならおまえをぶん殴る。」




落ち着いていたが激しい口調だった。


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