第88話 後悔(1)

その翌日

夏希は退院した。


念のため、医師から精神安定剤を処方された。


「すみません、忙しいのに。」

南が家まで付き添ってくれた。


「ん、今はそうでもないよ。 おなか、空いたら言うてな。 アイスクリームとかなら食べれるかな? ほら、あんたキャラメルフレーバー好きやんかあ。 さっき買ってきたよ、」

とにっこり笑う。


「・・ありがとうございます。」

と、ちょっと微笑んだが、まだまだいつもの彼女ではない。



夏希のベッドを整えてやりながら、



「あたし・・高宮と話したよ。」


と言った。



「え・・」


夏希は驚いたように南を見る。


「ほんまはな、そういうことが原因かもしれへんてずっと思ってたから。 でも、あたししか知らないから。 安心して。」


「・・・・」


夏希は黙り込んでしまった。



「もう、どうしていいかわからへんて感じで。 取り乱して。 子供みたいに泣いて。」


「え・・」


「めっちゃ後悔してる。 自分がしたこと。 ほんまはな、あんたに会いたいって言ってたんやけども。 あたしが止めた。」


南の言葉に夏希は涙ぐみながら、


「た・・高宮さんは・・悪くないんです。 あたしが、もう、ぜんっぜん子供だから。 ほんっと・・・なんか、理由があって、 きっと、」



やっぱり

彼をかばって。

自分を責めて。



南は胸が痛くなった。



「うん。 その通り。 高宮ね、めっちゃつらいこと、あって。」


「え・・」


夏希は涙の顔を南に向けた。



「お母さんに、妹の結婚式に出ないで欲しいって頼まれたんやって。」

南の言葉に夏希は驚いた。


「そんな・・」


南から事情を聞いた夏希はまた泣いてしまった。



「ほんま、自分から身を引いたことは高宮もわかってる。 それだけにすっごいやるせなさを感じてしまったんやろな。 そんな弱くて惨めな自分をあんたには見られたくなかったんやと思う、」

夏希は今までの高宮と家族との確執を思い出す。



本当に

いつもいつもつらい思いをしてきたのに。


それでも

妹さんだけには

愛情を持って。


結婚式の話だって

本当に嬉しそうで・・。



「あ・・あたし!」

夏希は涙と彼への思いがどんどん溢れてきてしまった。



「あたしが、悪いんです! ほんっと・・高宮さんのこと好きなのに、すっごい好きなのに! そういうことに応えてあげられないってゆーか! 高宮さんは・・いっつもあたしの力になってくれるのに、あたしは、ぜんっぜん、なにもしてあげられなくって!」


嗚咽を漏らして泣き始めた。


南はそっと彼女の背中に手をやり、


「ううん、加瀬は悪くないんだよ。 高宮、男の弱い部分をぜんっぶ出してしまって。 酔っぱらってあんたにそんんなことをしたのはいくらカレシでも許されないと思う。」

と優しく言った。


夏希は首を振って泣くだけだった。

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