第82話 拒絶(2)

「どうした?」


斯波も彼女の異変に気づき始めた。


「いえ・・」


「ごはん、食べてるの?」


「あまり・・」



あの食欲の塊の彼女がほとんど食事をしていないのは、あまりに不自然でおかしい。


斯波は心配になった。


「高宮?」


と思い切って言うと、萌香はその名前をいきなり切り出してしまった斯波を小突いた。


夏希はその言葉に驚いたように彼を見る。



「高宮となんか・・あった?」



どうしよう・・。


夏希はうつむいてぎゅっと胸の前でこぶしを握り締めた。



斯波は間違いない、と思い、


「おい! 高宮に電話しろ!」


と萌香に言う。



夏希は動揺した。


「清四郎さん!」


萌香は暴走しそうな彼を止めた。


「あいつがなんかしたに決まってる! 早く!」




夏希はもう心臓が張り裂けそうになるほど気持ちが揺れて、どうにかなりそうだった。


「高宮さん、今朝から社長とNYに出張なんです、」


と彼に言うと、


「え・・」


夏希も驚いた顔をした。


「知らなかった・・?」


萌香もそれには少し驚いた。



「はい・・」


彼がNYに出張に行くことを知らないなんて。


不自然すぎる。


萌香はやはり原因は高宮にあるのではないか、と確信してしまった。



もし


こんなことが知れたら。


高宮さんが


責められる。


高宮さんが


悪く言われちゃう。



夏希は胸がどんどん痛んできた。


彼の行動が理解できない反面、自分が男性を理解できない幼さが悪いのかもしれない、と思っていた。



あたしが


こんなだと


高宮さんが・・。


あたしが・・いけないのに。


あたしが、子供だから。



「な・・なんでも、ないです。 ほんっと体の調子が悪いだけで。 高宮さんとも何でもないです。 明日はちゃんと行きますから。 すみません、心配をかけてしまって、」


夏希は笑顔を作ろうとするが、顔がこわばって笑えない。



加瀬さん・・


萌香は彼女が無理していることが手に取るようにわかった。


「本当に大丈夫です。 ゴハンも食べるし、」


少しだけ笑った。




自分たちの部屋に戻った萌香と斯波は食事中も無言だった。


二人とも同じことを考えていた。



何でもないわけない・・。


あのひまわりのような笑顔が


消えた。



夏希は翌日、自分を奮い立たせるように何とか会社にやってきた。



本当は


満員電車も


怖かった。


男の人と体が触れるたびに、心臓がドキドキして汗が吹き出た。





事業部のドアを開ける前に深呼吸をし、


「おはようございまーす!」


大きな声を出してみた。


「あ・・おはよ、」


八神はことのほか元気だった夏希に驚く。


「すみません、急に休んだりして。 ちょっと食べ過ぎて胃腸がおかしくなっちゃったみたいで。」


と笑った。


「なんだよ・・。 ほんっと倒れるからどうしたのかと思った、」


八神もホッとした。



あれから高宮から携帯に何通もメールが来ていたが開くことができなかった。


もちろん、電話も。




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