第71話 関係(2)

「あ~~、づっがれだ・・・・」


夏希は今日一日クレームで印刷所を何往復もしてさすがにへばってデスクにつっぷした。


「かわいそやなあ。 ま、でもこれが現実。 ゴハン奢ってあげよっか?」


南が肩を叩く。


「できれば、肉でお願いします!」


いきなり元気になって起き上がった。



そこに八神もいたので、


「八神も行く?」


と誘うと、


「え? おごりですかあ?」


と色めき立った。


「情けないなあ。 そこに食いつくなんて。」


「ほんと、生活するだけで精一杯ですから。 かわいそうでしょ? 貧乏で。 南さんちと違って。」


「そのかわいさを前面に押し出すところがめっちゃむかつく、」


「え、ウソです! あ、できれば奢ってほしいかなあ・・」


急に態度を変えた。


「ま、しゃあないな。 んじゃ、焼肉行こうか。」


「やったぁ!!」


二人はバンザイをして喜んだ。


「こっどもやなあ~」


南は苦笑いをした。




帰ろうとすると高宮と遭遇した。


「あれ? もう終わり?」


「ええ・・」


南はチラっと夏希を見て、


「約束とはしてへんの?」


と言った。


「え、別に、毎日・・会ってるとかじゃないし、」


夏希は恥ずかしそうに言う。


「高宮も焼肉行かない? おごるから?」


「え?」


「あんたは金持ちやからおごらなくてもええねんけど。 ま、あたしのが若干年上やから。 今日はおごってあげる。」


と笑う。


「いいんですか?」


「二人っきりのがええのかもしれへんけど。 たまには、」


南はニヤっと笑った。


「・・からかわないで下さい、」


夏希は顔を赤らめて言った。





「高宮が戻ってきてからもうすぐ3ヶ月やな、早いなあ。」


もう6月も末だった。


「夏ですねえ、もうすぐ。」


夏希は言う。


「高宮、相変わらず忙しいの?」


「まあ、結構。 社長がこんなに仕事がある人だとは思いませんでした、」


高宮はビールをグラスで飲みながら言う。


「体鍛えないと。 社長のバイタリテイにはついていかれへんで、」


南は笑った。


「ほっとんど丸一日の休みもないし、」


ちょっとボヤくと、


「ほんとですねえ、」


夏希も同情するように言った。


「あ、全然・・進んでない感じ?」


八神が二人をからかう。


すると夏希はムッとして、八神の耳をぎゅううっと引っ張った。


「いたいっつーのっ!!」


耳を押さえた。


「ほんっと八神さんって下品ですよね!」


「おまえに言われたくないっ! 進んでないって言っただけじゃんか! 自意識過剰だっ! も~~、先輩の耳を引っ張るなんて! そのデカい手で!」


「デカいは余計ですっ!」



二人のやりとりを高宮は傍観してしまった。


それに気づいた南は


「ああ、いいのいいの。 この二人、いっつもこんなやねん。 八神は先輩風吹かせたいけど~。 加瀬のが大物やし、」


と笑った。


「も、ヤダ・・おれ・・」


八神は耳を押さえながら情けない声を出した。

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