第54話 見守る(1)

「あ、ねえねえ。 明日さあ、ディズニーシー行ってみたい、」

母はいきなりそう言い出した。


「はあ? 明日あたし仕事なんですけど、」


「え~? そうなの~?」


「そうなの~?って。 自分が休みだからって。それに、連休なんだからめちゃくちゃ混んでるよ、」


「そうかあ、」

ガッカリする母に、


「夕方からなら何とか入れるかも、」

高宮が言い出した。


「夕方?」


「夕方からって専用のチケットもあるし。 夜は花火がきれいだって言いますよ。 ぼくは日本のディズニーランドにはすっごく昔に行ったことあるだけですけど、」


「へえ、そうなんですかあ。 あたしもあんまり行ったことないんですけど、」

夏希は言う。


「明日、日比谷に行く用事があるのでチケットを買っておきます。 チケットセンターがあるんで。 2枚でいい?」


すかさず母は


「高宮さんも一緒に、」

と笑顔で言った。


「え? おれも? いいんですか?」


「夏希と二人なんて不安ですから。 ほんっとこの子、絶対に並び方もわからないんじゃないかと思うんですよ、」


「ちょっと! 並び方くらいはわかるよ!」


「じゃあ、ぼくも4時ごろには仕事を終わるようにしますから。 加瀬さんは大丈夫?」


「たぶん・・明日はそんなに仕事はないけど、」


「それまではお母さんにどこかで買い物かなんかしてもらって、」


「・・いいんですか?」


夏希は高宮の顔をうかがうように言った。


「いいよ。 もちろん。 どうせならお母さんに楽しんで行って欲しいじゃない、」

高宮は笑顔を見せた。



高宮が帰って、母の分の布団の仕度をした。


「いい人だね、」

母はシーツを敷きながらボソっと言った。


「え?」


「高宮さん、」


「え、あ~・・うん・・」

恥ずかしそうにうつむく。


「なんか。 すんごいエリートとか言ってたから実は密かに心配してたんだ。 あんたが騙されてるんじゃないかって、」


「騙すって、」


「すごくきちんとした人だし。 まあ、男の人とつきあうのは悪いことじゃないから。」


一瞬。


この前母が来た時に渡された大量の『ブツ』を思い出し、夏希はかああっと赤くなった。


「人間、多少は傷つくことも必要だしね、」


「はあ?」

夏希はその言葉の意味がわからなかった。


母は話を変えるように、


「ね! ディズニーランド、新しい乗り物できた? ほら、あんたが小学生の時来た以来じゃない? もっとすんごいジェットコースターとかあればいいのにねって。 お父さんと笑って、」


「そんなすごいのは・・ないと思うよ、」

夏希はボソっと言った。




そして翌日の夕方。

3人はディズニーシーに向かった。


「わ~、すんごい人だね、」

母は驚いていた。


「チケットを先に手に入れておいてよかったです。 やっぱりGWですから。 夜はライトアップもきれいだし、花火もあるし、」

高宮は笑う。


「ミッキーと写真撮れっかな、」

母はカメラを手にした。


「もう、子供じゃないんだからさ。 ミッキーも夜なんか歩いてないよ、きっと。」

夏希は少々興奮する母をなだめる。


「運が良ければ会えますよ、」

高宮はそんな二人を微笑ましく見た。


母は積極的にいろんなアトラクションに興味を示し、どんどん乗りたがる。


「これ、だいじょぶ? 最後、落っこちるんじゃないの?」

夏希は心配するが、


「じゃ、あんたはいなくていいから。 お母さん、高宮さんと乗るから。」

といきなり高宮の腕を引っ張っていく。


「べ、別に! あたしが怖くて言ってるんじゃないよ! お母さんの血圧が上がるといけないからだよ、」


「いいから。 あんた、次。 これのパス取っといて。」

母は乗りたいアトラクションを地図で示し夏希に手渡した。


「ちょっとお・・」


「いいから。 加瀬さんは先行ってて、」

高宮は笑った。

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