第55話 見守る(2)

母と高宮がアトラクションの順番待ちをしていると、

「高宮さんはいつから夏希とおつきあいをしているんですか、」

いきなりそう聞いてきて、ドキっとした。


「え・・いつって。 ね、年末くらいですかね。 ぼくも大阪だったので、」

少し困ったように言う。


「そうですかあ。 高宮さんはお父さんが、大臣さんだったとか。 ちょこっと聞いて。 なんかびっくりしちゃって。」


「父は・・関係ないです。 ぼくは政治の世界には絶対に足を踏み入れることはありませんから、」

家の話をされると、少し胸が痛い。


「夏希は本当に取りえのない子で。 勉強は全くできなかったけど運動だけはいっつも一番で。 ウチのお父さんは野球が大好きだったもんで。 勉強なんかできなくってもいいから元気なほうがいいって。 だから、あんなになっちゃったんだよね~。」

母は笑う。


「高校に上がる時ね、ソフトボールの強い学校から誘いが来たんだけど。 夏希はあたしはソフトボールじゃなくて野球がやりたいからって断って。 どっちもおんなじようなもんじゃないかって、あたしは思っちゃうんだけど。小さい頃から男の子に混じって野球ばっかりで。 ほんと、甲子園に行くって信じててね。 女の子は行かれないんだってわかったら、もう1日中泣きっぱなしで。 バカでしょう?」


そんな風に娘のことを話す母は

彼女への愛情が溢れるようで。


「女の子で野球なんてやれる時は限られてるし。 甲子園も出られないし。そんなに未来があるわけじゃない。それわかってても、あの子は本当に必死で頑張ってました。 根性だけはあるんですけどね、」


「彼女は、いつも一生懸命です。 元気に声を出して。 彼女がそこにいるだけでぼくも元気になる、」

高宮は優しく微笑んだ。


そして、はっと気づいたように、


「あの、昨日のようにいつも彼女のところに上がりこんでいるわけではないので。 昨日は一緒にゴハン食べようと思って、」

いきなり言い訳をし始めた。


「え?」


「心配でしょうが。 あの・・ほんとに大事にしたいので・・」


恥ずかしくなって夏希の母から目をそらす。


そんな彼に

「ま、何事も経験、経験。 別れる時はべつに言わなくてもいいですから、」

と母は豪快に笑った。


「わ、別れるって、」


「ほら、男と女なんか。 いつどうなるかわかんないしさ。 あ、もうすぐだ~、ワクワクしてきた。」


もうすぐアトラクションの中に入れそうになり、子供のようにはしゃいでいる。



ほんと。

こういうところも彼女にソックリだ。


高宮は思わず笑ってしまった。

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