第50話 初めての気持ち(5)

「栗栖さん、今日お休みですよね?」


「え? うん、」


「あの・・あたしにお料理を教えてもらえませんか?」


「料理?」


夏希が今晩やってくる高宮のために、ちゃんとした食事を作りたいと思っている気持ちが、また健気で萌香は微笑ましく思った。


「パスタなら失敗しないんじゃない? ねえ、カルボナーラって好き?」


「カルボナーラ? 大好きです!」


「簡単にできる方法、教えてあげるから。 ちょっとウチで練習してみましょう、」


「はい!」


「それで。 ここで卵黄を少しずつ入れて。」


「はい・・」


悪戦苦闘の末、


「できた、」


「味見してみるね。」


萌香が少し食べた。


「うん、すっごくおいしい。」

と笑顔で言った。


「ほんとですか?」

夏希も少し食べてみる。


「ほんとだあ。 え~!おいし~~!!」


「卵黄を入れるタイミングだけ気をつければ大丈夫よ。」


「メモ、メモ・・」

一生懸命にメモを取った。



ほんっと

かわいい。


萌香は思わず微笑んでしまった。



高宮は休日に仕事でも全く苦にならなかった。

夏希が自分といたいがために実家に帰るのをウソをついてまでやめてくれたりしたことが、かなりの萌え状態で。



やっぱ

本気でおれのこと思ってくれてるんだなあ。


そう思うだけで嬉しい。


「なにニヤニヤしてんの?」

いつの間に隣に南が来ていた。


「なっ・・またあなたですか、」

ドキンとした。


「真面目やろ~? 真太郎は休みやねんけどな。 あたしは仕事があって。 働いてんねん、」

いつもの人懐っこい笑顔で言った。


「そうですか、」


「その顔からすると・・仲直りしちゃった?」


「え?」


「加瀬と、」


「別に・・ケンカしてないですから。」

ムッとして言う。


「女心わかっちゃった?」

ことさらにニヤつかれて、


「や・・別に。」

と口ごもる。


「あ! ひょっとして一気に進んじゃった??」

南は笑ってからかった。


「えっ・・そんな、」

いきなり目線が泳いで動揺してしまった。


「え、まだなんもしてへんの?」

ずいっと身を乗り出す彼女のオデコを抑えて、


「いけませんか?」


ジロっと睨んだ。


「え~~~! すごーい! 信じられない~。」

オーバーに言う彼女に、


「普通のデートだって、まともにしたことないのに、」

高宮は本音を言った。


「そうかあ。加瀬がインフルエンザにかかったり、あんたが骨折したり。 障害あったもんなあ、」

南はウンウンと頷く。


確かに


あの時。


彼女がすっごい熱を出していなかったら


とか


おれがギプスなんかしてなかったら


とか


もんのすごい惜しい状況はあったけど。



でも

彼女とそうなるには、時間が必要な気がする。

負け惜しみでもなんでもなく。


こうして

ちょっとしたことでドキドキしたり、

そういうことが今は楽しい。



「あんた、偉いな、」


南はボソっと言う。


「え?」


「ほんっと。 男として。 達観してるって言うのかな。 ほんま、最初の頃は生意気なガキだと思ってたけど。 めっちゃ変わったしね。」


そう言われると。

自分でもそう思う。

ここに来たばかりの頃の自分。


いろんな人と関わって。 そして夏希と出会って。


彼女と出会ってからは

それまでの自分がバカバカしく思えるほど、前を向いて生きていけるような気がした。

そう思わせてくれた女性は

彼女だけだった。


「まあ、もっと若い頃は。 そういう結びつきが男女の全てだと思っていたこともあったけど。 今は、本当に大事にしたいもの。 うん。 大事にしたいって思ってます。」

高宮がそう言うと南は彼の顔をジーっと見て、


「ジジくさ・・」

と言い放った。


「ちょっと! 持ち上げたり落としたり! どっちなんですかっ!」

思わず突っ込んだ。

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