第49話 初めての気持ち(4)

「え、加瀬さんいたの?」


萌香も驚いた。


「わけわかんないだろ?」


斯波はため息をついた。


「・・・・」


萌香は斯波のジャケットをハンガーに掛けながら無言で考えた。


「なに?」


「ん、なんか高宮さんが大阪から戻ってきてから、ほとんど会ってないって前に言ってたんで、」


「高宮が忙しいんだろ? GWも返上だって言ってたし、」


「寂しかったんじゃないですか?」


萌香はくるっと斯波に向き直って笑った。


「はあ?」


「一緒にいれなくて。」


「誰が、」


鈍い彼に萌香はちょっとイライラして、


「加瀬さんが!」

と言った。


「はあ?? 加瀬が?」


「で、実家に帰るのやめちゃったんじゃないですか? きっと、」


斯波はしばし考えて、


「え~~? 加瀬が?」

と再び言った。


「彼女だって女の子なんですから。 好きな人のそばにいたいですよ、」

萌香はキッチンに行って料理を温め始めた。


「・・ほんと、恋しちゃってるの?」


大真面目にそう言ったので、萌香は吹き出した。


「当たり前やん。 なんか高宮さんの話をするだけで真っ赤になっちゃうし。 高宮さんが大阪に行く前とは全然違うし。 すっごい意識してるなあって。」


なんか・・想像できない。


斯波はすごく複雑な心境だった。


高宮のヤツ。

ただメシ食ってただけだとか、わざとらしいいいわけしちゃって。


怪しい・・。



「なに、黙っちゃって、」

萌香が彼の顔を覗き込むと、


「別に、」

と、スーッといなくなってしまった。



翌朝、夏希はゴミ出しをしに行った時に萌香と遭遇してしまった。


「わっ!!」

実家に帰らなかったことを言っていなかたので、めちゃくちゃ気まずい。


「ああ、帰らなかったんですって?」

萌香に笑顔で言われて、


「あ~~~っと、え~~~っと・・おっ・・おなかが・・急に痛くなっちゃって!!」

夏希はしどろもどろの言い訳をしてしまった。


そのみえみえの言い訳がおかしくて笑った。


夏希は我に返り、

「ウソです・・すみません、」

と正直に言った。


「別に謝らなくても。 謝るならお母さんに、でしょ?」


「はあ・・」


「清四郎さんは心配そうだけど。 私はいいと思う、」


「栗栖さん・・」


「高宮さんは大人だから。 あなたの気持ちとかもわかってくれると思う。」

全てを見透かしたように言われて、


「なんか衝動的に大阪に行ってしまったときと同じような感じで。 そばに・・いたいなって思ったら、」

夏希は恥ずかしそうに自分の気持ちを言う。


「うん。 みんなそういう気持ちはあると思うから。 あんまり自己嫌悪に陥らないで、」

萌香は優しく微笑んだ。


そんな風に優しく言われて

夏希は少し心が軽くなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る