第43話 恋するふたり(2)

「はあ? 後輩の練習に行って?」

そのまま斯波たちの部屋に行って、萌香に氷嚢を持ってきてもらって顔を冷やした。


「2球続けて空振ったんで。 ちょっと油断しちゃって。 そしたらピッチャーライナーが飛んできて。 グラブには入ったんですけど、衝撃が。」


しゃべるのも痛い。


「危ないわねえ・・ほんともうちょっとずれてたら目だったのに。」

萌香は心配した。


「こんなの! すんごい屈辱です~~!!」

夏希はテーブルを拳でバンっと叩いた。


「そこかよ!」

斯波はアホらしくて思わず突っ込んだ。


「反射神経には自信あったのに! 」


「病院には行ったの?」


「一応、マネージャーに連れて行ってもらいましたが。 別に打撲だけで異常ないそうです・・・」


「脳ミソも調べてもらったほうがいいんじゃないの?」

斯波は呆れてタバコを手にしてそう言った。


「それも、一応調べましたけど。 特に異常なかったんで。 はあああ、休日診療なんかしたから、またお金がなくなっちゃっても~~!! お金遣わなくていい所に行こうと思って練習に行ったのに!!」

そこにも悔しがった。


「しょうがないわね。 よかったら朝と夜、うちでゴハン食べたら?」

萌香はため息をついた。


「おい、あんまり甘やかすとくせになるぞ!」

斯波がジロっと睨んだ。


「しょうがないじゃない。 そんな実家のお母さんに心配かけるわけにいかないし、」


「すっ・・すみません・・」

夏希は情けなくなって二人に頭を下げた。


「でも、大したことなくてよかったわね。」


「はあ、」


「いちおう・・嫁入り前なんだからさ。 顔は大事にしろって、」

斯波がボソっと言ったので、夏希はおかしさがこみ上げてしまい、


「え? 嫁入り前ってあたしのことですかあ? も、斯波さん、真面目な顔して何言っちゃってんですか! もう!」

大声で笑ってしまい、


「イタタタ・・」

またほっぺたを押さえた。


「バカ!!」

斯波は苦々しそうに彼女に言い放った。




「その青タンさあ・・女としてどーなの?」


翌日

八神に顔のことで突っ込まれた。


「あ~あ、もう肌色の絵の具でも塗ってきたかった…。」


「よく電車に乗れたよなあ、」


「今朝、駅前を歩いてて、交番の前通りかかったら、いきなりおまわりさんが『どうしました?』って怪しい目で近寄って来ちゃって。」

と言うと、さらにウケて、


「え? なに、朝っぱらから職務質問!? すっげ~~!」


「もうイチから説明しちゃいましたよ。 あ~、はずかし、」

夏希は膨れた。


「そんな顔じゃ外出もできねーじゃねーかっ! レックスにはおれが代わりに行って来る! おまえは電話番でもしてろっ!!」


斯波に怒鳴られて、踏んだり蹴ったりだった。

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