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第39話 女心(1)

「あれ、ココ・・」

夏希は店の前にやって来て思わず立ち止まった。


「高宮さんに一番最初に連れてきてもらった焼肉屋さん、」

彼を見た。


「うん。」

高宮も夏希を見てにっこり笑う。


「ここ・・けっこう高級な焼肉屋さんでしたよね。 いいんですか?」


「え? なにが?」


「すんごいいっぱい食べちゃいますよ?」

真面目な顔をして言われ、高宮はおかしそうに笑う。


「いいよ。 その姿が見たかったんだ、」

夏希は何だか嬉しくなって笑顔になった。



今まで

ずっとたまっていたものが

一気に吹き出るように、

夏希は高宮に堰を切ったように話をした。


同時に

すごい勢いで焼肉を食べながら。


口って

しゃべるって機能と

食べるって機能

両方ついてるんだなぁ。


高宮は当たり前のことをつくづく思ってしまった。



「ほんっとレックスの牧村さんっていい人なんですよ~。 結局、その音楽事務所にもついてきてもらって。 斯波さんにあたしが怒られてると、『まあまあ』って言ってくれたり、お菓子、買ってくれたり。」


「そう。 それじゃあずっと企画の仕事やるの?」


「今は庶務の仕事が多いんですけど。 ちょっとずつ。 で、高宮さんはいつから出社するんですか?」


「もちろん明日からだよ。 ゴールデンウイークも休めるかどうか、」


「そうなんですか・・」


「加瀬さんは、連休は?」


「一応、2日間お休みを頂いたので。 ま、ちょこっと実家行って来ようかな、とか。 正月もお母さん、出かけてていなかったし、」


「そうだね。 ちゃんと顔を見せたほうがいい。」

高宮はふっと笑う。



夏希はハッとして、

「あれからご家族とは・・」

と言った。


「ん、別に。 今までと変わらない。 一応、こっち戻ってきたことは言ったけど。 妹の結婚式が7月なんだ。 それが過ぎたらもうおれのことなんかいいんじゃないかと思う。」


「そんな、」


「ヘンな意味じゃなく。 親もね。 一安心じゃないかって思う。」

高宮の笑顔は本当にホッとしているようだった。


無理しているわけではなく。

夏希もちょっとだけホッとした。


「ほんっとすんごい食べちゃった・・」

自己嫌悪に陥るほどだった。


会計を終えた高宮に

「す・・すみません。」

情けなくなって頭を下げた。


「え~、いいよ。 別に。 加瀬さんが食べるところ見てるとなんだかスッキリするよね。」

と笑われた。


「それもなんか・・女として情けないんですけど、」


「そんなの。 今さら気取らなくても。」

高宮はまたおかしそうに笑う。



これが

女心ってヤツか。

さんざん食べておいてだけど。


好きな人の前で

あんなに食べてしまって。

恥ずかしいだなんて。

生まれて初めて思った。

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